聞きたくない
数分ほどおいおい泣いた後、私は警察に通報して、マミに大きな怪我がないか確認した。
幸い外傷はないようだった。ものの数秒で警察が来てくれて、男性を拘束し、マミを保護してくれた。
マミはちゃんと目を覚ましたが、何がなんだかわからない状態で、困惑していた。
私も首を絞められたので、その日は病院に行って検査した。
八代は説明のために警察署に行った。私とマミも後日行かなければいけない。
その事を幸にメッセージしたら、大層心配された。
花火見れなかったなぁ――。
ぼんやりと考える。幸には申し訳ないことをしたな。
今度埋め合わせをしよう。
マミの話ではあの男性とは、友達だったそうだ。
何ヵ月か前に知り合って、そこから一緒に遊びに行ったりする関係だった。
マミはただそれだけの関係だと思っていたけれど、男性の方はそうではなく、恋人一歩手前、という認識でいたらしい。
祭りの日マミは、友達とはぐれて困っているところを、彼に見つかったんだそうだ。
『信用して着いていったら、無理やり迫られて。すごく怖かった……』
マミは涙ながらにそう語ったという。
以上が警察官から聞いた話。
警察官は、『世間知らずの女の子だったのね……』と切なげな表情を見せた。
男性は自身の罪を認め、殺人未遂と暴行の罪で逮捕された。
私は賠償金をもらった。マミももらっただろう。
私の残りの夏休みは、このゴタゴタに手を焼いているうちに、終わってしまった。
今日から2学期だ。
いつものように幸と登校しながら、他愛ない会話を弾ませる。
「そういえばエリちゃんとはどうなの?」
興味しんしんに訊いてくる幸に、
「……特になんとも」
と素っ気ない返事をする。
八代とは祭りの日以来会っていない。メッセージのやりとりを少ししただけだ。
忙しかったというのもあるけれど――。
一番の理由は理解していた。
お祭りの日の夜、私に聞いてもらいたいことがある、と八代は言っていた。
私は、それを聞くのが怖い。
あの時の八代が醸し出していた雰囲気は、私にとって心地よい関係を壊す不吉なものに感じられた。
嫌な予感がしたのだ。最後まで聞きたくない、と思った。
悶々と悩んでいると、幸が沈んだ空気を吹き飛ばすように明るい声を出す。
「ま、今日から新学期だよ! 元気に頑張ろー!」
「そうだね。気を取り直して行こう」
そういえばマミは、八代のことを覚えていなかったらしい。
警察署で少し話をする機会があったのだが、初めて会うような態度だったようだ。
八代も、わざわざ言わなくて良いか、と思ったらしい。
まぁ、ちょっとしかいなかった学校の先輩なんて覚えてるわけないか。




