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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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重い話



 「少し静かになったね」

 「だな。落ち着いて食えそうだ」


 出店がある通りから少々外れた、コインパーキングの近くで立ち食いする。


 「八代。そういえばさ」

 「ん?」

 「前言ってた通り、幸めっちゃ食べたね」

 「だろ? 初っぱなから焼きそば、たこ焼き、大判焼き……腹膨れそうなモンばっか食ってたよな」

 「それ。そのあとも粉ものどんどん胃に入れてくんだもん。ビビった。男子高校生の八代より食べてたんじゃない?」

 「いやー負けたな。俺より食ってた」


 八代が愉快そうに笑う。

 私も楽しい気分になってきた。

 いろいろと問題はあるかもしれないが、今だけは――。

 この居心地の良い時間を堪能していたい。


 「今年はいつもよりはしゃいでた気がするな、幸」

 「そうなの?」

 「ああ、つーか高校入ってから明るくなったと思うぞ。たぶん若葉のおかげだな」

 「ふふ……だと良いな」

 ふと気になって八代に尋ねる。

 「八代は家でどんな感じなの? 家族と仲良い?」

 「俺、一人暮らしなんだ」

 「え~! 高校生で一人暮らし? 漫画みたいだね!」

 目をキラキラさせながら言うと、「幸だってほぼ一人暮らしみたいなもんだろ」と苦笑いされる。

 「あ、そうだね。幸みたいに、親が遠くに働きに出てる感じなの?」

 「いや、どっちも死んでる」

 「えっ……」

 私の上がっていた口角が硬直する。


 「えっと……ごめん」

 「気にすんなよ。もうとっくに過去のことで、今さら落ち込むとかしねーから」

 八代が、カラッと笑う。


 「俺がまだ小学生の時にさ――リビングで親父がおふくろのことを刺してんのを見たんだ」


 あまりに衝撃的な出来事を、八代は滑らかに語り出す。事実を淡々と報告するような喋り方で、そこに感情は感じられなかった。

 あるいは、そういう口調を意識しているのかもしれない。


 「物音を立てて見つかってな。切りかかろうとする親父をギリギリで避けながら、一緒にいた理人――弟に急いで、『外に出ろ』と叫んだ」

 八代には弟がいるのか。


 「親父は、理人を追おうとした。そうはさせるか、と俺は親父を押さえつけたんだが、腹を刺されて逃げられちまった」

 「えっ! ヤバいじゃん」

 「だが、不審に思った近所の人が通報してくれて、すぐに警察が来たから、事なきを得たんだ。理人にはかすり傷ひとつも、つかなかった」

 「良かった……。大事には至らなかったんだ。いや、お母さんは無事じゃないんだから大惨事だね、ごめん」

 「親父は警察に押さえられる前に、自分の胸に包丁をぶっ刺した。後で調べたら即死だった」

 「捕まるくらいならいっそ――ってことかな。悪夢みたいな出来事だね」


 こんなに最悪な両親の喪い方は、そうそうないだろう。私は、自然と表情が険しくなる。


 「悪い、聞きたくなかったよな。祭りのせいでテンションおかしくなってるみたいだ。こんな話、人にするべきじゃないのに」

 「違うの。ただ衝撃が大きくて……どんな反応すれば良いのかわかんなくて」


 言葉を詰まらせた私に、申し訳なさそうにする八代。私は慌てて弁解した。

 八代は割りきっているのに私がこんな態度を取っていては、気を遣わせてしまう。


 「それからどうしたの?」

 出来るだけ軽い調子で尋ねる。


 「弟と一緒に親戚の家に預けられた。ありがたいことだって分かってても居心地は最悪だったよ。明らかに煙たがってるふうだったからな」


 急に子供二人の面倒を見ることになるのは、辛いと思う。しかしあからさまに嫌そうにするのは残酷だろう。


 「あいつも嫌だと思ってたんだろうな。だから出ていって――」

 八代は言葉の途中で、言うことを躊躇うように口を閉ざした。


 「えっ、出ていって……?」

 「ああ。中学の時に親戚の家を出ていった。何も相談とかはなかった」

 「警察には言ったの?」

 「親戚には、『警察には相談したけど、見つからないみたい』って言われた。けど実際は誰にも言ってないことはわかってた。あいつが出ていったら、生き生きしてたくらいだから」

 「生き生き、って……」

 「しょっちゅう俺たちに文句言ってたからさ。『あの兄弟も一緒に死んでれば良かったのに』なんて陰でこぼしてたんだ。まあ俺は気づいちまったけど」

 「何それ。そんな人間酷すぎでしょ!」


 信じられない人がいたものだ。そんな親戚と、八代は長年暮らしていたのか。


 「世話になった手前、あんま悪く言えないけどな」

 「いいや、これは怒るべき!」

 「そんな家だったから俺も中学卒業したら、すぐに働いて一人で暮らしていけるようになりたいって思ったんだ」

 「だから通信制……」

 「ああ。あそこは治安悪いけど家賃がやっすいから助かる」

 八代を尾行した日のことを思い返す。確か歓楽街の近くに住んでいるのだったな。

 「そうだったんだ……」


 言いながら自分でも、月並みで当たり障りのない返答だな、と少し落ち込む。もう少し気の利いた言葉は出ないのか。


 「そんな暗くなんなよ。そりゃ当時はそれなりにしんどかったけど、今は楽しく過ごせてんだから」

 そうだ。ここで私が沈み込んでしまったら、“気にしなくてはいけないこと”になる。


 それは八代の望むことじゃない。

 「今は楽しいんだね、良かった!」

 私は、出来るだけ明るい声で言う。


 「ああ。ただ――」

 八代は、わずかに星が輝く夜空を見上げる。


 「親父のことは今でもすげー憎んでるな」

 「だろうね……迷惑なお父さんだよ」


 「その親父の遺品がさ、今年俺に送られてきたんだよ。親父が働いてた会社からだった。ディスクの引き出しにしまってあったみたいで」

 「そんな長い間気付かれないことある?」

 「ズボラな会社だったんだろうなぁ」

 「遺品って何だったの?」

 「日記だった」

 それを聞いて、少し不思議に思う。

 「日記を会社に置いてるって、ちょっと変わってない? 仕事のことを書いてたの?」

 「いや、仕事のことは少しも書いてなかった」

 「あ、家族に読まれるかもしれないって思ったら、嫌だったのかも?」


 私も日記を身内に読まれるのは、少し恥ずかしい気がする。


 「嫌、か……確かに家族には知られたくないだろうな」

 「どんな感じのことが書かれてたの?」


 私がそう質問した時、八代がどことなく渋るような、難しい顔になった。


 「あ、言いたくないなら大丈夫だから――」

 「いや。……普通にその日起こった出来事とか――愚痴が書いてあった」

 「まぁ日記ってそういうもんか」


 私は書いたことがないけれど。現代みらいにいた時に、SNSで適当に呟いていただけだ。


 「弟は八代に似てるの?」

 「『兄弟、って言われてみれば、似てるような……』みたいな反応だったな、周りは。まあ雰囲気は一ミリも似てないが。理人はキラキラしてて、素直で純粋な奴だったから」


 八代と少し似ているピュア少年――。どんな感じか少し気になる。


 「あっ、そうだ。幸たちとも一緒になって遊んだりしたんじゃない? 幼馴染みなら」

 「ほんのちょっとだけだが、あったよ。公園で数回遊んだきりで、一緒に家に行ったりとかはなかった。女子と遊ぶのが恥ずかしかったんだと思う。会話もあんまりしてなかった覚えがある」

 「そういう時期が来るのが早かったんだろうね~。兄弟仲は良かったの?」

 「悪くはなかったと思ってる。あいつにはどうだったかわからないが、俺にとっては大事な家族だ」


 今でもな、と笑う八代からは、哀愁が漂っていた。


 「いつか弟に会えたらいいなって思う」

 「そのうち訪ねて来るかもよ」

 「だったら嬉しいんだけどな」

 「八代は、絶対いい兄だっただろうから、弟さんもまた会いたいって思ってるはずだよ」


 今は音信不通でも――弟さんもきっと八代のことが好きだったと思う。

 八代は、とっても優しい人だから。


 八代が顔を綻ばせる。


 「ありがとう、若葉。やっぱりお前はいいヤツだ。こんなふうに一緒にいれて本当に幸運だよ」

 「ちょっ……そーいう恥ずかしいこと急に言わないでよ」

 「お前だって飯食いに行った時、同じくらいこっ恥ずかしいこと言っただろうが」


 八代と会えて良かった――。

 感謝の気持ちを込めて、私が放った言葉だ。


 言われる側は、なるほどとてもこそばゆい。モジモジと指先を意味もなく動かしてしまう。


 「照れるだろ? 俺もけっこう落ち着かなかったんだからな」

 仕返しとばかりに意地悪く笑っている。

 「凶悪な顔になったじゃん」

 ちょっと悔しかったので、少し悪態をつく。


 「元からこんな感じだっつーの。どうせ俺はおっかない顔つきしてるよ。初めて幸に会ったとき、泣かれたしな」

 「最初は怖かったって前に話してたな、そういえば」

 「だろうな」

 「けど中身はすごく優しいってことも話してたよ。私も同感」

 「そういえば、友達にも言われたことあるな。見た目で損してるって」

 損してる、か。

 「私はそうは思わないけど」

 「は?」

 「だって格好いいじゃん、強そうで」

 首を傾けて、八代の顔を覗き込む。


 「不細工じゃないし、タイプだって思う女子も結構いそうなんだけどなぁ」

 よく見えるように、ほんの少し顔を近づける。

 「ほら、鼻筋も整ってるし。目も鋭いけど私は好きだよ。好みの問題じゃないかな。てか肌キレイじゃない? うらやま……」

 「おい若葉」

 「え?」

 「そんなに近づかれっとさ、その」

 「あっ! ご、ごめん。思わず」

 夢中になって距離感を忘れていた。慌ててちょっと離れすぎなくらいに距離を取る。


 その大袈裟な動作によって、気まずい空気が訪れてきてしまった。

 「ごめん。人の顔じろじろ見て評価みたいなことしちゃって。何様? って感じだよね。嫌だったよね」

 失礼極まりないことをしてしまった。パーソナルスペースだって、もっとわきまえるべきだったし……。

 「別に嫌ではねぇけど。――若葉なら」

 「……え」

 再び八代に近づいて、今度は適切な距離から彼を見る。

 その瞬間、ドクンと心臓が高鳴る。

 八代の耳が赤く染まっていた。唇を引き結んで悩ましげに眉を寄せている。


 そして私に向き直り、目を合わせてくる。

 「若葉に格好いいって思ってもらえたなら、嬉しいよ」


 熱を持った眼差しから逃れたい。けれどそれと同時に彼のその表情を見逃してはならない――見ていたいという思いが込み上げる。

 彼の視線にさらされていると、自分でも気付いていない本心までも見透かされそうな気がする。


 気付かぬうちに、私の口が勝手に声を絞り出した。

 「それ、どういう……」

 風にさらわれてしまいそうなほど、か細く情けない声量。

 それが聞こえてたのかはわからないが、八代が言う。


 「若葉。お前だから話したいことがある」


 決して私から目をそらさないまま、彼が言葉を紡ぐ。

 「俺――」

 ごくりと唾を飲み込んで、続く言葉を、期待と不安を抱きながら待つ。

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