安心した理由
「あ、から揚げ。買ってきていい?」
「ああ、ついてくよ」
好物のから揚げの出店を見つける。ちょうどお客さんがおらず、グッドタイミングだった。
「五個入りひとつ」
「はーい五百円ね」
小銭をおじさんに渡す。おじさんは私たちを見て、
「いや~デートか! いいねぇ若くて!」
「デッ……!?」
「照れなくても良いよ、お嬢さん。この店に来たカップルは君たちが初めてなんだよ! 歩いてる人たちを見てると、いないことは無いんだけどねぇ」
おじさんは、ガッハッハッと豪快に笑う。口を挟む暇もない。
「特別にオマケしとくわ! 彼氏と一緒に食べな!」
本来の数より倍近くのから揚げをカップに入れて渡してくる。爪楊枝が二つ刺さっていた。
ずずいっと差し出されたそれを慌てて受けとる。
「あ、ありがとうございます」
「仲良くね~!」
嵐のような人だったな、と思ってると、
「嵐みたいな勢いだったな……」
八代も同じことを思ったらしい。苦笑している。
「訂正する暇もなかったね……」
「去年も間違えられたわ」
「え? 去年?」
「ああ。あの人じゃなかったけど。幸と来てて、同じようにカップルと間違えられた」
「へぇ……」
その場面を想像してみる。
幸がはにかみながら、「幼馴染みです」と伝える姿が目に浮かぶ。八代も笑いながら否定するのだろう。
変な空気にはならないと確信できた。あの二人には、そんな関係に転じるような雰囲気を一切感じないのだ。
「良かった」
「何か言ったか?」
口に出ていたらしい。「何でもない」と返す。そして無意識のうちに出てきた言葉に、自分が言ったことなのに疑問に思う。
何が『良かった』のだろう?
幸と八代が恋愛関係に発展しなさそうだと考えて、なぜか安心したのだ、私は。一体どうして――。
「殺すぞ!」
耳に飛び込んできた物騒な発言に、ハッとする。
声がした方を見ると、小学生くらいの男子数名がじゃれあっていた。子どもが戯れにこぼした脅し文句だったようだ。
殺す、という言葉で思い出す。八代が将来殺人犯になる可能性があることを。
恋人が未来の殺人犯じゃなくて良かったね、という気持ちだったんだな、きっと。私が安心した理由は。
もちろん八代が川崎一家を殺害しないように、全力で工作する気ではいるけれど。
けど万が一防げなかったら――。
「おい、若葉?」
八代の声で現実に戻る。さっきから何度か声をかけていたみたいだ。怪訝そうに見ている。
「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた。何?」
「から揚げ。適当なとこで食おうぜ」
「そうだね。人混みすごくなってきたからね」
花火の時間が近づいてお祭りに来る人が増えてきたようで、歩きながら食べるには向かなくなってきた。
暗いことばかり考えているのも良くないよね、お祭り中なんだし、楽しむことだけに集中しなくちゃ。
軽く首を振って、八代を見失わないように歩く。




