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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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花火大会のポスター

 「おまたせ」

 「おう」

 夏休み初日。私と八代は図書館の前で待ち合わせた。


 この図書館には学習室が2つある。


 黙々と一人で勉強する部屋。ここはいつもけっこうな人数がいる。

 もう一方は、友達と会話しながら学んでも良い部屋。


 しかし設計者の意図に反してこの部屋は、全然利用する者がいなかった。

 ワイワイと勉強したい人たちは、誰かの家に集まるので、わざわざ図書館で勉強会をしようとすることはないのだ。


 私たちは今日、そのあまり意味を為していない学習室で勉強をすることにした。

 入室したら案の定、無人状態だった。


 「集中しやすくていいな」

 「だね」


 大きな机にいくつかの椅子が囲むように設置してある部屋だった。そんなスペースが数ヶ所作られている。

 よっこらせと荷物が入ったバッグを椅子に置いて、その隣の椅子に座った。


 「じゃ始めるか」

 「よろしくお願いします」

 「どの教科にするんだ?」

 「えっと……とりあえず五教科持ってきた」


 テーブルに全教科分の課題を広げると、八代がうお……と引き気味にこぼす。

 「こんなに持ってきてどうすんだよ。重いだろ」

 「たくさん持ってくれば、理科に飽きたら歴史をやる、みたいに気分転換しながら進められるじゃない」

 「そんなにガッーとやるつもりなのか?」

 「いや無理だけど」

 「だろ? 絶対こんな要らねーって」


 準備だけ過剰に周到なのは、勉強を日常的にしっかりやっていない者の特徴かもしれない。そんなことをふと思った。

 「じゃあ数学。苦手なの最初にやっとけばあとは楽勝でしょ!」

 「やる気十分だな」

 「よーしやるぞ! あ、一問目からわかんない。助けて」

 「早い!」




 「そんでここをこうしたら楽なんだよ」

 「あ―そうすれば後の数問も解けそうだね。やった―」

 「ん。数学は半分くらい終わったな」

 数学のプリントの束を見つめて、八代が満足げに言う。


 「今年はギリギリに宿題しなくて良さそうだよ。ありがとう」

 「毎年ギリギリなのかよ」

 「締め切り迫らないとやる気出なくない?」

 「出るのを待つんじゃなくて、無理やりひねり出すもんなんだよやる気は」

 「えーそういうもん?」

 まあやる気ってのは、いつもなかなか出てこないしなぁ。

 「そろそろ休憩挟むか」

 「だね」



 「あ、花火大会のお知らせだって」

 カフェスペースに貼ってあったポスターを指差す。

 「誰と行くんだ?」

 「幸と二人で行くかな。お祭り好きって言ってたし」


 実際に高校1年の夏は、幸と花火大会に行ったのだ。

 来年も一緒に行こう、と帰り道で約束したのに、結局その日が幸とお祭りに行った最初で最後になってしまった。


 「八代は花火好き?」

 「好きだよ。祭りも好きだ」

 「へぇ。じゃあ幸と一緒に行ったこととかあるの?」

 「毎年そうだったよ。あいつ祭りの日だけ明らかに食う量がちげーんだ。すごい食いしん坊なんだよ」


 そういえばお祭りの日、幸は見かけによらず、すごい食べていた気がする。

 「屋台とかテンションあがるしね」

 「けど暑いのによくいつも以上に食えんなってビビった」

 「それは確かに」


 休憩を終えたあと、残りのプリントも終わらせて、数学は無事に全て片付けることができた。

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