勉強会2
「あ、そうだ。私コンビニ行ってくるけど、二人は何か買ってきてほしいものある?」
幸が訊いてくる。たぶん私たちが二人きりになれるように、と粋な計らいのつもりだろう。
「私は特にないよ。ジュースも出してもらったし」
「俺もないな」
「そっか。あ、エリちゃん勝手に冷蔵庫開けて好きなもの飲んでいいからね」
「サンキュ」
「じゃあいってきまーす」
幸が出ていって、家の中が静かになる。しばしの静寂ののちに、
「どこで詰まってんの」
と八代が訊いてきた。
「ここなんだけど……ていうか八代は勉強しなくていいの?」
「俺は定期考査とかないし。若葉たち優先だろ」
「そういえば、通信制だったね。行事がないのは寂しいけど、定期考査もないってのは、ちょっと羨ましいかも……」
「他がどうか知らねぇけど、俺のところは期末とかないな」
「へぇ……あ、ここが意味不なんだけど」
「あ~そこはこの公式を……」
「ただいま~。どう? 進んでる?」
「おかえり幸。かなーり捗ったよ! 八代が教えるのめちゃめちゃ上手いの!」
「でしょー? エリちゃんは先生に向いてると思うよ」
「本当に感謝! ありがとう八代」
「お前らそんなに褒めんな。若葉がやればできる奴だっただけだからな」
八代が顔を強ばらせて言う。少し頬が赤い。
「照れ顔怖いよ。いや可愛いのか?」
「照れてねぇ。元からこんな顔だわ」
私の言葉に、ちょっと怒ったように反論する。
「けどこんなにサクサク進められたの初めてかも。数学が鬼門だったから助かったよ」
「そりゃ良かった」
フ、と八代がわずかに微笑む。
この顔もいいな。八代のこういう柔らかい表情を好ましく感じつつある自分に驚いた。
「ねぇ私おっきいサイズのポテチ買ってきたから、みんなで食べようよ」
幸が魅力的な提案をする。
「やった―。ありがとう幸」
「ありがとな。じゃあ休憩にするか」
三人でポテチを囲みながら話す。
「八代はいつから幸の家で仕事してるの?」
「去年の3月からだな。中学卒業してすぐに幸の誘いで」
「以前から家事代行は頼んでたんだけど、前の人が辞めちゃって。せっかくだからエリちゃんが来てくれたらいいなって」
「なるほど。お互いに気心の知れた仲だろうしね」
しかし、と私の中にひとつの疑問が生じた。
「幸の両親っていつから海外にいるの?」
「私が、中学生になったくらいの頃からだなぁ」
「けっこう長い間いないんだね。どこの国に行ったの?」
「アメリカだよ」
「そっか―。いいなアメリカ」
「だよね~。私もいつか行きたいなぁ」
中学生の頃から親が家にいないというのはどんな感じなんだろう。寂しいのだろうか。
それとも反抗期のときに近くにいなくて、せいせいするものなのか。
一般的な子どもは、どう思うんだろうか。




