冷めない
「まったく何なんだ、あいつは。最初から最後まで、頭にくる親だった」
発せられた愚痴は、ひとりでに出てしまった、といった様子で、彼が相当我慢していたことが察せられた。
「さっきの八代、すごく格好良かったよ。その……嬉しかった。絶対に冷めない、って言ってくれたこと」
煮えたぎる怒りをおくびにも出さず、冷静に父と渡り合う姿に、私がどれだけ勇気づけられたことか。
「本当に八代は、いつだって私の欲しくてたまらない言葉をくれるね。その度にますます好きになってく。私にはもったいないくらいの良い男だよ」
「……あれは俺の本心だからな。若葉を喜ばせようとして言ったわけではないからな」
「うん。わかってるよ。あ、私の言ったことだって、お父さんを言い負かすためのものじゃなくて、本心からの――」
言葉だよ、と言おうとしたところを、片手で制される。
「いいから。……もういいから黙っててくれ」
八代は、もう一方の手で顔を覆っていた。指の隙間から見える瞳は、しきりに揺れている。
丸出しの耳が蛸のように赤くなっているのを見て、私は我慢できずに笑ってしまった。愉快でたまらなかったのだ。
これからもずっと、こんな姿を眺めていたい。彼が見せる色んな顔を、ひとつも見逃したくない。
私は、強くそう思った。
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