重要な話
「送ってくれてありがとう」
自宅の玄関の前で、お礼を言う。
すでに夜はとっぷり暮れていた。小学生などはそろそろ寝る時間だろう。
すっかり遅くなってしまったことを詫びると、「そんなこと気にすんなよ」という予想通りの答えが返ってくる。
「病人は甘えとけばいいんだよ、馬鹿」
拳でコツンと小突かれる。
私がはにかむと、八代は満足そうに頷いた。
「じゃあ――」
また今度、と手を振って別れようとした時、後ろでガチャリと音がした。
「おい、ずいぶん遅かったじゃないか。待ちくたびれたぞ。――何だ、恋人とふらついていたのか」
「お父さん……?」
玄関扉から、父が顔を出していた。
会社に行ったのではなかったのか。麗さんとの話し合いは、もう済んだということか。
いや、だとしても父が女性も連れずに家に帰ってくるなんて、考えられない。父にとって家とは、生活するための場所ではないのだから。
「こんばんは」
八代が一応、といった感じに挨拶する。父は「ああ」と返答とも呼べないものを口にする。
そして次の瞬間に、とんでもないことを言い出した。
「君もいた方が良いかもしれないな。良ければ上がってくれたまえ」
「えっ!」
状況にそぐわない大声を上げた私に、父が厳しい眼差しを向ける。慌てて口をつぐんだ。
八代も、度肝を抜かれた顔をしている。私と同様に、予想外の展開にうろたえているようだ。
「娘の今後についての話があるんだ。彼氏ならば聞いておいた方が良いだろう。交際を見直す必要があるかもしれんことだ」
「――わかりました。お邪魔します」
八代はその言葉で決心を固めたように、小さく頭を下げた。
私の今後に関すること……?
やけに胸がゾワゾワする。
緊張感に包まれながら、ぎこちなくドアをくぐった。
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