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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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147/165

成就

 ***


 「あはは、ごめんね。ワケわかんないよね。こんな荒唐無稽なこと言われたら、頭がおかしくなったんだ、って疑われても、しょうがないね」

 語り終わった幸は、苦笑いを見せる。


 私はといえば、あまりにも衝撃的な情報の数々を、整理するのに必死だった。

 幸は、タイムリープをした。私を救うために。

 自分が死ぬかもしれないのに、それでもかまわない、と本気で思ったのだ。

 目頭が熱くなる。瞬く間に涙がこぼれ落ち、肩が震え出した。


 「わっ! 悠ちゃん? 大丈夫?」

 慌てふためく幸を、宥めるように笑いかける。

 「良い親友を持って幸せだな、って思ったの。ありがとう、幸。私を助けてくれて」


 幸は、目をぱちくりさせて、訊ねる。

 「信じてくれるの? 今の話……」

 「信じる」

 八代が、力強く言う。

 「そうか……幸も、タイムリープしたんだな」

 「()ってことは――えっ、嘘……まさかエリちゃんも、こんな経験したことあるの?」

 「ああ。俺も過去に戻って、やり直したことがある。――若葉もだ」

 「えっ、えっ……?」

 幸は、ひどく困惑した。ごもっともな反応だ。

 八代と目を合わせて、互いに頷く。

 「実はね――」




 私たちは、タイムリープに関することとストーカー事件の顛末を、全部幸に話した。


 「そっか……悠ちゃんは、未来から来た悠ちゃんだったんだね。まあ、どっちも私の親友ってことは、変わらないけどね」

 幸がさらりと口にした言葉が、胸に温かく染みる。


 「じゃあ、悠ちゃんが持ってたタイムリープ能力が、私に移った――ってことなのかな?」

 「そうだろうね」


 私が下敷きになったおかげで、幸は一命を取り留めた。

 しかし、逆に考えれば、私とぶつかったせいで一時的には意識不明になった、とも言える。

 瀕死の状態に追い込んだ人物に、能力は譲渡される。

 前任のように意図したわけではないが、私は能力を人に移した。

 それがこの結果に繋がったわけだ。タイムリープ能力があったから、私たちは今こうして顔を合わせている。


 何だか、感慨深くなる。

 まさかこんなふうに思う日が来るとは。数ヶ月前までは、まったく予想できなかった。


 私が2022年にいた最後の日――あの日、指名手配されていた八代に、殺されかけて本当に良かった、なんて。

 今の私の幸せは、全部八代のおかげだ。隣にいる彼が、とてつもなく愛おしかった。


 「ありがとう、八代」

 「は? 何だよ、藪から棒に」

 八代が、戸惑ったように見返す。


 「どれだけ感謝しても、し足りないんだもん。私の人生に八代が介入してくれて、本当に良かった」

 「……そうかよ」


 八代は、ぶっきらぼうに呟いて、顔を背ける。

 照れているんだろう。付き合いが長くなったから、彼の心情の変化なども、大分わかってきた。

 その時、幸がくすくすと笑い出した。


 「どうしたの?」

 「ふふ……だって――」

 幸は、愉快そうに言う。


 「私の願いが叶ったんだな、って思って。二人とも、明らかに雰囲気が変わったよ。私が意識不明になる前とは全然違う」

 確かに幸のピンチがきっかけで、私と八代は大きく進展した。


 もしも幸が意識不明にならなかったら、と想像してみる。

 理人君は、幸の病室を訪ねないので、八代は弟と会えない。

 そして、幸の告発で樹里亜の企みが明らかになり、理人君の苦悩ばかりを知ることになる。

 そうなったら八代は、きっと自分を責めるだろう。理人君がやってしまったことに対して、責任を感じるのではないか。

 そんな状態の彼に告白したとして、頷いてくれるわけがない。

 八代は何も気に病まなくていいんだよ、といくら諭しても、納得してくれないはずだ。


 奇しくも、幸が危ない目にあったおかげで、私たちは想いを通わせることができたのだ。

 私は、そんな運命のいたずらを、感謝すべきか憎むべきかで、微妙な気持ちだった。

 しかし――。


 「二人のキューピッドになれたなら、私も昏睡状態になった甲斐があるってもんだよ」


 幸が満足そうに言ったものだから、私も天の神様とやらに、一応感謝しておいた。

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