泊まり
そんなこんなで、あっという間に夕方になってしまった。
日が傾いていくのを見て、焦燥感が湧いてくる。
「ねぇ、八代。やっぱり泊まってくれないかな」
悩んだ末に、躊躇いがちに切り出す。
「駄目そうか」
「うん。寝ちゃえば大丈夫かな、とも思ったんだけど……絶対に夜中に目が覚めちゃうし」
中途半端な時間に目が冴えてしまったら、最悪だ。深夜が一番精神的に危ないのに。
「でも無理にとは言わないから……」
申し訳なさからそう付け足すと、八代が問うてくる。
「けど、俺が泊まらない、って言ったら、どうする気なんだ?」
言葉に詰まる。どうするも何も――。
「その場合は、しょうがないよ。なんとか気を紛らせられるように、頑張ってみる」
前向きな口調でそう言って、ぎこちなく笑う。
テレビで明るい番組でも見るしかない――いや、その方法はすでに失敗していたのだった。
不安そうにしているのが、伝わったのだと思う。八代は、私をじっと見つめた後、しょうがない、という風に言った。
「泊まることにする」
「え? ホント?」
「そんな顔してる奴を置いて、帰れるわけないだろ」
私はそんなに酷い形相をしているのだろうか。顔に手をやって、表情筋をほぐす。
「若葉が辛い時に、何もできないってのも、癪だしな」
「ありがとう。八代がいてくれたら、きっと怖くない……と思う」
それから八代は、泊まりに必要な準備をするために、一度家に帰った。
私は、やけにそわそわと落ち着かなかった。
八代の言葉を思い出す。
私が八代の家に泊まった時とは、何もかも違う――。
私たちは、まだ恋人同士ではない。
しかし、今はそれどころではない、という理由から、交際を保留にしているだけで、私と八代は、すでに両思いの男女だ。
彼が懸念していたように、間違いが起こるかもしれない。
頭をブンブンと振って、邪な思いを打ち消す。
駄目だ、しっかりしないと。
彼となら、一夜の過ちもやぶさかではない――なんて。
けっして考えてはいけない。




