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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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解決

 「私も、八代と同じなんだよ」


 隣で、息を飲んだ気配がした。

 目線は上空に向けたまま、続ける。


 「ううん。八代の方が、“出来た人間”だと思う。私は、両親に殺意を抱いていたことも、自分のことしか考えてなかったことも、罪深く感じることもなく、過ごしていたんだから」


 私は、自分が傷つけられたことしか考えていなかった。殺人を企てている己に対して、罪悪感など持っていなかった。

 娘を愛してくれない両親が、全て悪いのだ。だから恨みを募らせた娘に殺されたとしても、しょうがないんだ。そんなふうにさえ思っていた。

 八代のように、自身の攻撃性を恥じることなんて、なかった。


 「死ぬのが怖い――それは当然の感情だし、危ない賭けに出れないことも、当たり前だよ。卑下するようなことじゃない」


 だからそんなに気に病まないで。自分を追い詰めないで。


 「それに、お袋さんが亡くなったのも、理人君が別人みたいになったのも、親父さんが全面的に悪いのに、自分が不甲斐ないのが良くなかったんじゃないか、なんてことまで考えて――立派だよ、八代は」


 自身が恥ずかしくなるくらいだ。だから――。


 「八代にとっては、欠点を晒したつもりなのかもしれないけど――私は話を聞いて、ますます八代のことが、好きになったよ」


 そして私の中で、彼の隣にいたい、という気持ちが、より確かになっていった。

 彼が今までずっと、後悔を背負って生きていたことを思うと、たまらない気持ちになった。


 その苦しさを、私は痛いほど知っている。

 自分に非がないことはわかっていても、あの時何か出来たのではないか、何か変えられたんじゃないか。

 そんな考えにとりつかれて、心に淀みを抱える。そして、自己嫌悪に苛まれる日々が始まる。


 だからこそ、他人が言わないといけないのだ。

 私は、八代に向き直った。怖じ気づきながらも、しかと目を合わせる。


 「八代は、何も悪くないよ」


 呪縛から解き放つのは、大切な人からの言葉だ。私が彼に救われたように、今度は私が彼を暗闇から連れ出したい。


 「だから――もう思い詰めなくて、いいの」

 八代の手を取る。

 彼の手は、冷たく強ばっていた。

 私の体温を分けるように、両手で包み込み、彼の指を軽くなぞる。


 八代は、躊躇うような表情をしていた。視線を右往左往させて、私の言葉にどこか信憑性を持てない様子だった。

 やっぱり、これまでの彼の考えを変えるのは、並大抵のことではないみたいだ。

 それでも良い。一回で救えないのなら、何度でも諭すまでだ。

 彼から決して目をそらさずに、言葉を投げかける。


 「助けられなかったことばかり、気にしてるみたいだけど、八代はタイムリープで、理人君の命を救ったじゃん」


 ピク、と八代の手が震える。


 「あの時の八代がいたから、今があるんだよ。八代がもっと昔に戻ってたとして、今よりも良い未来になってる保証なんて、どこにもない。八代は今、不幸なの? 何もかもなくして、やり直したいって思ってる?」


 八代は、ハッとした表情をして、「いいや……」と否定する。


 「俺は、幸せだよ。もちろん気にかかってることはある。幸だってまだ目が覚めてないし……でも、今の状況全てをなかったことにしたいなんて、思わない。――絶対に」


 最後の言葉と共に、深く頷く。


 「事件の前に戻ってたら、見送りの時に見た理人は、存在しなかった。そんなの嫌だ」


 そう言って、目を閉じる。まぶたの裏に、見送りの時の理人君を、浮かべているようだ。


 理人君は、まだ痛む傷を抱えながらも、罪を償おうとしている。

 彼がしたことは、許されないことだ。しかし、自身の過ちに向き合おうとしている今だからこそ、見えるものもあるんじゃないか。


 理人君は、きっと胸の痛みを乗り越えられる。私は、確信に近い思いを抱いていた。

 今回のことがあったから、八代と理人君は強く結束できたんだと、私は思っていた。


 「でも、理人と再会して、また笑顔が見れたのも、若葉のおかげなんだよな。若葉が過去を変えようと動いてくれなかったら、きっとどうにもならなかった」


 八代が、頭を下げる。


 「本当にありがとう。今幸せだって思えるのは、若葉がいてくれたからだ。若葉の行動が、俺たち兄弟を良い方向に導いてくれた」


 その言葉で、私のミッションは、ひとつ片付いたのだ、と実感できた。

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