表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/165

悠の気持ち

 私は喋っている最中、チラチラと隣を気にしていたが、本当に聞いているのかも怪しく思えるほど、八代は表情を変えなかった。

 情報を受け止めるのに、手一杯なのかもしれない、と思って、中断はしなかったのだけど――。


 「何でだ?」

 「え?」

 質問の意図がわからず、八代を見返す。

 八代は、もう無表情ではなかった。何だか釈然としない様子で、私を見つめている。


 「確かに若葉の推測も、あり得るんじゃないかって思う。樹里亜を失った理人が、あのままの精神状態で生きてたら、殺人だってしちまうんじゃないかって。実際に大和さんだと勘違いした人を、殺そうとしたしな」


 あの時の理人君の状態と、八代の『どんなことがあっても、俺は理人の味方だ!』という発言が決め手になって、理人君が殺人事件の真犯人ではないか、と私は思った。

 八代が、理人君を庇ったのではないか、と。

 しかし――。


 「それでも普通、俺が犯人だ、ってなるだろ。俺がどうしようもない奴になってた、って方が、考えられるだろ」

 八代は、私の意見に賛同しかねるようだ。


 「若葉と初めて会った時、ちょっと様子がおかしいな、と思ってた。何かビクビクしてて、目もしっかり合わなくてさ。その後もしばらく、態度が固い感じで。あれは、俺が怖かったからなんだな」


 懐かしい気持ちになる。幸の幼馴染みの『エリちゃん』が、八代襟人だとわかり、総毛立ったものだ。

 八代の人となりがわかるまでは、冷や汗をかきながら話していた。


 「若葉は、未来の俺に殺されかけたんだろ。どうしてそんなに、俺のことを信じた仮説を立てられるんだよ」


 そう言って、顔を背ける。前に組んでいた脚を、私の反対方向に倒すのを見て、誤解されていることに気づく。

 立ち上がり、八代の正面に回り込む。

 そして、彼の肩を掴んだ。


 「おい、どうし――」

 「八代。私の目を見て」


 掴まれた時、驚いたように私を見た八代が、一瞬で目を反らしたのを、許さない、と言う風に、距離を詰める。


 「――いいのかよ」

 彼が視線を合わせないまま、訊ねる。

 「八代に私を見てほしいの。そして、私も八代を見ていたい」

 迷いのない私の口調に、八代が目を見開く。


 「確かに最初は、八代のことが怖かった。会話するのにも、心臓がバクバクいってた」

 嘘偽りない思いを、伝えていく。


 「でも段々、八代がどんな人間なのか、わかっていったの。幼馴染みを思いやったり、知り合って間もない私に、親身になってくれたり――関われば関わるほど、この人は善良なんだ、って思い知らされていった」


 そうして様々な出来事の中で、恐怖心は薄れていって――。


 「だから八代のことを、もっと知りたいと思ったの。こんなに良い人が、何であの事件を起こしたんだろう、って。何が原因で、悪に堕ちてしまったんだろう、って」

 そして――。


 「あなたがそうなる前に、救いたい、って思ったの」

 八代は、真剣な眼差しで私を見ている。

 視線がかち合ったのを確かめて、話を続ける。


 「それから、本当に色々あって――気づけば八代に会えるのが、楽しみになってた。一緒にいる時間が、幸せだって思えて、電話やメッセージでのやり取りに、いちいち胸が弾んで……」

 止めどなく、言葉が溢れていく。


 「怖がってたことなんて、今となっては、嘘みたいなの。私にとって八代はもう……欠けてはならない存在なんだよ」

 だから。

 「気を遣って、距離を取ろうとしないで。八代にそんなことされたら、心に穴が空いたみたいになる」

 「は――」

 八代の顔に、熱が集まる。視線が右往左往するのを、不満気に睨む。


 「ちゃんとこっち向いてってば」

 「そんなこと言われたってよ……」

 口ごもり、赤くなった顔を隠そうとする。

 彼のその反応は、私を満足感で満たした。

 心が高揚するのを感じながら、再びベンチに座り、首を傾ける。


 「私の気持ち、わかってくれた? なら、離れようとか思わないでね。これからもよろしくね」

 にっこりと微笑むと、「おう……」とまだ照れた声が、返ってきた。


 「若葉さ……」

 「うん?」

 「よくそんな恥ずかしいことを、涼しい顔で言えるよな……やっぱお前すごいわ」

 そう言って頭を掻く八代に、いつぞやのあなたも大概だったよ、と言いたくなったけれど、ぐっとこらえた。


 「だって誤解を解かなきゃ、八代との縁が切れそうだったし。そう思うと、必死になっちゃって」

 「別に、俺との繋がりがなくなるくらい、大丈夫だろ……若葉なら、たくさん友人作れるだろうし」

 「大丈夫じゃない」


 きっぱり言い張る私を、彼がなおも不思議そうに見遣る。

 その表情を見て私は、もう言ってしまおう、と決心する。


 「だって私、八代のことが好きだから」

評価や感想、ブックマークなどしてくれたら、嬉しいです!まめに更新していくので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ