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殺してくれてありがとう  作者: 絶対完結させるマン


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話さない方がいい

 「それで、理人君とマミのことを話したの。もう逃げられないよ、ってことを伝えたら、全部白状してくれた。何でそんなことしたのかも聞いた」


 予想通りだったよ、と付け足す。


 「幸が同意しなければ、家を売れないから、殺したんだ。自分の夢のためなら、幸が死ぬのなんてどうでも良い、って感じだった。実際に悪し様に言ってたの。あんまり酷いことばっか言うから、私――」


 熱が入りすぎたことに気付いて、口を閉じる。

 樹里亜の暴言の、全てを記憶しているわけじゃないけど、そのどれもに腹が立ったことは、覚えていた。

 冷静にならなければ、と深呼吸をする私を見て、八代は察してくれたらしく、続きを促すことはせずに、私が話し出すのを待ってくれた。


 「理人君とマミのことは、どう思ってたの、とも訊いた。どっちの回答も最悪だったよ」

 口の中が、苦くなる。出来るだけ毒が抜けた言い方になるように、と必死に頭を巡らせるが、上手くいきそうもなかった。


 「理人君のことは……道具だって言ってた。それだけだって。ネットで利用できそうな人を探してて――白羽の矢が立ったのが、たまたま理人君だった」

 まったくオブラートに包めなかった。自分の機転の利かなさに、嫌悪感が湧く。


 「そうか。ありがとな、若葉。理人のことも、ちゃんと訊いてくれて」

 予期せぬお礼の言葉に、たじろぐ。それと同時に、安堵を覚える。八代の表情が、さほど重いものではなかったから。


 「折野については、何て言ってたんだ? 俺の目には、二人は年齢がひとつ違いの親友のように見えてたんだが……」

 やはり、そう映っていただろう。私は、残念そうに首を振った。


 「マミのことも、都合の良い人間、って思ってたんだって。マミがさ、樹里亜を慕うようになったきっかけを、前に話してたこと覚えてる?」

 「山田を待ってた時だよな。覚えてるよ。部活内のいざこざを樹里亜が颯爽と解決して、折野を助けたって話だろ」

 「そう。実はその一件は、マミを懐柔するために、樹里亜が仕組んだことだったんだ」

 「は? 何でそこまでして……」

 「樹里亜は、マミのこと、純粋そうで、一度懐に入れたら、何でも信じちゃいそう、って言ってた。ああいうのに、常に肯定してもらえたら、気分良いだろうな、って。だから、部員たちに協力してもらって、芝居を打ったんだ」


 八代は「マジかよ……」と絶句する。

 「太鼓持ちとして、気に入ってたってことかよ。あんまりだろ……」

 マミは、今何を考えているのだろうか。

 もう退院したのか。樹里亜の訃報を聞いたのか。もし聞いたのなら、どう思ったのだろう。


 渋い顔をする八代を、見遣る。

 大和さんのことを、話すべきか迷っている。こんなに嫌なことは、別に伝えなくても良いような気がしてきた。

 打ち明けたところで、誰も得しないのではないか。


 私だけが、大和さんが隠してた不誠実さを、知ってる。それは、どうにも釈然としない感じだった。

 しかし、このもやもやした気持ちは、じきになくなるだろう。

 私が黙ってれば、誰も嫌な気持ちにならない。ならば――。


 「……い。おい、若葉」

 肩を揺さぶられて、ハッとする。

 「大丈夫か? 顔色が良くないけど、気分が悪いのか?」

 そう言って、顔を覗き込んでくる。

 何かを悟られるような気がして、急いで答える。


 「ううん。平気だよ。久しぶりに早起きしたから、頭がボーッとしてるのかも」

 作り笑いを浮かべても、八代は疑うような目付きをやめなかった。


 「若葉。なんか隠してることあるだろ」

 口角がひきつるのが、はっきりわかってしまう。自身の不器用さが憎かった。

 ここから誤魔化す気にもなれず、大人しく「うん」と頷く。


 「ごめん……でも、そんなに大事な話でもないの。事のあらましには、関係ないことで……」

 「だけど若葉は、そのことが引っ掛かってるんだろ? 一人で抱えこむなよ」

 「でも、良い気分になる話じゃないよ? 樹里亜が起こした事件とは、関係のないことだし……」

 「いいから。俺は、若葉が一人でそんな顔をしてるのが、耐えられないだけだ。話して楽になれそうなら、遠慮なんて一ミリもしなくていい。全部ぶちまけちまえよ」


 八代は、隠される方が辛い、というように眉尻を下げる。

 ここまで言われて、話さないなんて選択肢は、私の中にはなかった。

 「実は――」

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