尾行
実家に到着した。しかし私は、荷物を置いてすぐに、また靴を履く。
「幸。ちょっと出掛けてくるから先に部屋で待っててくれる?」
「わかった。何か用事?」
「うーん……ちょっと野暮用」
幸を置いて、私は再び彼女の家ヘ向かった。
二階の窓で見かけた八代のことが、無性に気になったのだ。
まだ居るだろうか――。
幸の家ヘと続く上り坂に差し掛かったとき、八代が坂を降りてくるのが見えた。
思わず近くの電柱に身を潜める。
べつにこの時代の八代と遭遇しただけで、いきなり殺されることはないとはわかっている。
しかし相手は、将来惨たらしい殺人を犯す危険人物だ。
実際私も殺されかけたのだし、どうしても逃げたい隠れたいと思うのはしょうがない。
八代は私に気づかないまま通りすぎていった。
ちょうど帰るところだったらしい。
八代の背中を見ながら、私は幸の家に行ったとして何をしたかったのだろうと思った。
八代のことが気になって、なんの考えもなしに八代に会おうとしたが、会って話してもきっと何も変えられない。
「あなたは悪い人なので幸と今後関わらないでください」と言ったところで向こうも、は? となるだけだろう。
いやそもそも八代に頼むより、幸を『エリちゃんはすごく良い人』という思い込みから目覚めさせるべきだ。
幸に納得してもらって縁を切らせた方が良いはず。
そのためには、あいつの“悪”の証拠を掴まなくては。
探っていけばあるはずだ。私は八代を尾行することにした。
遠ざかりつつある背中を、足音に気をつけながら、小走りで追いかけた。