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ハイカカオな関係  作者: 青山えむ
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1話 きっかけ

 きっかけは、なんだったでしょう。

 初めて交わした言葉はなんだったでしょう。

 そうだ、きっかけは、私が鞄につけていたキーホルダーの話題でした。



 私が勤める会社は県内でも指折りに規模が大きい工場です。

 この会社で私は、新製品の試作品を作る部門に所属しています。発売前、まだ世に出回っていない新しい製品を試しに作る仕事です。

 製品と言っても完成したものではなく、各ユニットを組み立てる作業場が私の担当エリアです。

 ここで組み立てたユニットを、隣のエリアで組み合わせて完成品に仕上げます。電化製品です。


 毎日、目標計画数があります。それに合わせて部品を組み合わせてユニットを作ります。部品が組み付けにくい、強度が弱いなど問題点があったらすぐに記録、報告をします。

 まだ量産されていない機種なので、問題点は毎日山積みです。その問題点を含めた総合フォローが私の主な仕事です。


 指示書で変更があったため、作業を止めて待機時間が生じました、いつものことです。

 その日の休暇者の代理で、私は彼の隣で作業をしていました。


小川(おがわ)さん、xxが好きなんですか?」


 彼は少し、遠慮がちに聞いてきました。私はxxというアニメのキャラクターのキーホルダーを鞄につけていました。

 彼とは挨拶を交わした程度のつきあいでした。急に人手が必要になり、臨時でこの部署に来てもらった人です。涼し気な切れ長の目をした、すっきりとした顔立ちで清潔感のある人です。髪型もオシャレな人でした。


「そうです、好きです」


「他にも見ているアニメってありますか?」


「△△とか、見ていますね。柏木(かしわぎ)さんも、もしやお好きなのですか?」

 

 世の中アニメは流行っているけれども、実際に会社でアニメファンに会ったことはありません。私は一筋の光を見つけた気分です。

 同じアニメの話ができる、これはとっても貴重なことです。一気にわくわくしました。


「作業再開しまーす」


 チーフの声が響きました。作業を開始しなくてはいけません。私と柏木さんはお喋りをやめて、自分の仕事に集中しました。

 隣から、柏木さんの名残惜しそうな視線を感じました。私も同じ気持ちだったけれども、目を合わせるのが恥ずかしいので気づかないふりをしました。私は男の人に、あんまり慣れていません。


 しばらくしたらまた作業ストップの指示がありました。ここで作っているものは試作段階で、量産ラインではないのでよくあることでした。

 柏木さんと、さっきの会話の続きがしたいです。けれども私の性格的に、それは簡単なことではなかったのです。

 柏木さんから話しかけられたからといって、調子に乗ってこちらから話しかけて「勘違いしている」などと思われたら恥ずかしいじゃないですか。だって柏木さんはとってもイケてらっしゃる男の人ですから。柏木さんはたまたま作業が止まって暇だから私に声をかけただけです。そうに決まっています。


「小川さんって、髪の毛ツヤツヤしてますよね」


 柏木さんが、私を見て言いました。


「あ……そうですか?」


 どきっとしました。確かに私はツヤのでるシャンプーを使っています。

 けれどもこの製造現場では帽子をかぶっています。わずかに見える前髪から私の髪の毛のツヤを見つけたのでしょうか。つまり、よく見ているのです。

 私に興味があるのでしょうか。まさか。男の人も、女の人の髪型などをチェックしているのだと、感心と恥ずかしさが同居しました。


―女の人を褒めなさい、それが仲良くなる手だから―


 昔、誰かが言っていたのを思い出しました。

 女の人の外見でも持ち物でもなんでもいいので、一つでも褒めなさい。それが女の人と仲良くなる秘訣だと。

 柏木さんはこの技を、知っていたのでしょうか。知らなくてもきっと、女の人と仲良くなるスキルを持っているのでしょう。私のなかで、なにかが反応しました。話したい、柏木さんともっと話したい。


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