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探偵・土井湊の洞察  作者: むひょー
プロローグ
1/3

断想

 黒い絵の具を幾重にも塗り重ねたような、深く隙の無い闇の中で一人、俺は立ち尽くしている。

 何も見えない。自分自身の身体さえ見えない。何者かの気配も感じられない。

 一体ここはどこなのか。

 一体ここの広さはいかほどなのか。

 何も分からない。

 そこにあるのは寒々とした闇。ただ、それだけなのだ。

 俺はふらふらと歩を進めた。明確な理由などない。ただなんとなく「歩かなければ」と、そう思っただけだ。



 どれだけ歩き続けたのだろうか。やがて、闇の先にぼんやりと小さな光が現れた。

 ゆらゆらと揺らめくそれを見て、俺は直感した。あれは出口だ。


――行くな。


 俺は夢中で駆け出した。じっとりと滲む汗を拭うことも忘れて。

 光は徐々にその大きさを増していく。幾筋もの光芒を放ちながら、光が闇を蝕んでいく。


(もう少しだ。もう少しで……)


――行くな。


 胸中に大きな希望が芽生える。


(もう少しで出られるんだ)


 俺がその大きな光に手を伸ばした瞬間、


――行くな!


 激しい熱風が俺の顔面に吹き付けた。足元がよろけるほどのそれは、俺をこの闇から逃すまいとしているようで、事実俺は、その勢いに押されて後退ることしかできなかった。

 咄嗟に両腕で顔面を覆う。が、猛り狂う風は尚もその勢いを抑えようとはしない。


(このままじゃ……)


 ギュッと目を固く閉じ、死を覚悟したその時、ふっと風が止んだ。あれほどまでに猛威を振るっていた熱気さえも、一切の痕跡を残さず消え失せていた。

 一体何が起こったのか。

 俺は恐る恐る顔を上げた。


(えっ……?)


 俺は自分の目を疑った。

 何故ならそこには、漆を塗り潰したような闇が一転、毒々しい暗紅色の空が広がっていたからだ。


(これは……)


 あたふたと狼狽していると、ふと俺は後頭部に微かな痺れを感じた。


……赤い。


(赤?)


 奇妙な感覚だった。


……赤い、赤い、空。


――だからあれほど……。


 盆の窪辺りから真っ直ぐ脳天にかけて、ぴりぴりと弱い電流を流されたような、そんな感覚。


……赤く、赤く。


――『行くな』と。


(やめてくれ)


 形容しがたい不快感が俺を襲う。顔がぴくぴくと引き攣る。


(もう……)


 頭の中に自分ではない()()が入り込んでくるのを感じた。


(嫌だ。なんだよ、これ……)


 それを追い出すように、俺は頭を掻き毟りながら激しくかぶりを振った。しかし、その()()は一向に俺の中から出て行ってはくれない。追い出そうとすればするほど、頭を、体を、俺を、そいつは黒々と蝕んでいく。


……ん!


……さん!


……ああ、なんて。


(やめろ)


轟々と。赤く、さらに、赤く。


ゆらゆら、揺らめく。


赤い、赤い、それは。


……さ。

……らさ。


(ああ、ああ……)


『――罪人(つみびと)は、そして』


……と。


(やめろ)


……なと。


(やめてくれ!)


……なと!


(それ以上は、もう!)













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