09.金貨争奪戦開幕 (波羅月)
入学試験2日目を祝う横断幕に書かれた、『3枚の金貨を手元に集めた者はその場で無条件合格』という運営からのお達し。それはつまり──
「受験者同士で争えってことか」
朝になって突然現れた追加ルール。それは『ケイサツから逃げる』というケイドロのコンセプトから打って変わって、『ドロボウ同士で金貨を奪い合う』というバトルロイヤル形式のものだった。
金貨を3枚ということは、自分が持つ1枚以外に2枚を集める必要があるということ。金貨1枚持ちを2人、2枚持ちなら1人でも倒せばその時点で合格が確定するのだ。終わりが見えない中逃げ回るよりも、効率的と言える。
「いいじゃない。逃げるばかりで飽きていたところよ」
「全部倒してなかった……?」
「逃げるばかり」とは言うが、ミアがケイサツを倒していた様子しか思い出せない。たぶん彼女にとっては、相手がケイサツだろうとドロボウだろうと、戦闘する方が性に合っているのだろう。
しかしそれは実力がある者の選択肢であり、俺みたいな慎重派の選択肢にはならない。効率的だからと言って、それを実行するのとは話が別なのだ。
「じゃあ手っ取り早くここで1枚ゲットしておこうかしら」
「おい何でこっちを見るんだ。昨日取引しただろ。頼むからやめろください」
「何か日本語変じゃない?」
と、ここでミアが獲物を見るような目で俺の方を見てくるので、すかさず下手に出る。まだ知り合って間もないが、こいつの場合は本当にやりかねない気がした。これ以上つっかかって来るなら土下座もやむ無しだ。
「……まぁ一度取引したし、それはやめてあげるわよ。私、不誠実な人にはなりたくないの」
「ほっ。アンタが話がわかる奴で良かった」
「でも協力するとは言ったけど、あなたの金貨集めまで手伝う気はないわよ。私の分が集まったらすぐに合格にして貰うから。その後あなたは1人で逃げるなり金貨を集めるなり頑張りなさい」
「う……」
どうやらターゲットにはされずに済んだようだが、完全な協力関係にもなれなかったらしい。取引はあくまで昨日の時点での話だから、ルールが追加されたからと言って取引内容が変わる訳ではないということだ。狙われないだけ良しとしよう。
「さて、そうと決まれば早速集めに行きましょう」
「決断が早いな。当てはあるのか?」
「あなたの索敵は……昼には使えないんだっけ。何よ、使えないわね」
「役立たずで悪かったな」
前にも説明したが、俺の索敵は昼間の森ではあまり機能しない。そのせいで早くも無能の烙印を押されてしまった。
名誉を挽回するために、ここらで賢そうな発言をしておこう。
「金貨を集めに行くのは俺も賛成だけど、闇雲に動き回るのはケイサツに見つかりやすくなるからあまり得策じゃないと思う。あくまでケイサツから逃げながら、そのついでに探すくらいがいいんじゃないか?」
「随分弱気な作戦ね。ドロボウもケイサツも全員倒すじゃダメかしら?」
「全員倒すって言い切れる自信が凄い」
あまりに脳筋なミアの発言に、計画が早くも頓挫しそうになる。実際、その力任せな作戦がまかり通ればどれほど楽だろうか。
「でもあなたの言うことも一理あると思うから、その作戦に乗ってあげる。感謝してよね」
「なぜそんな典型的なツンデレ構文を……」
「ツンデレ? 構文?」
「無自覚かよ。何でもない」
しかしここは彼女が譲歩してくれたため、俺の作戦で行くことになった。
正直、戦闘は気乗りしないんだよな……。
* * *
「いるわね」
「いるな」
行動を始めて10分くらい経った頃だろうか。とある草陰に隠れて様子を窺っていると、1人の少年が走ってくるのが見えた。服装から見ても受験者だろう。特に目立った特徴もないので、外見の説明は省略する。
「周りにケイサツがいる気配はない。……今さら言うのも何だが、本当にやるのか?」
「なに怖気づいてるの? やっていいって言われてるんだからやるに決まってるでしょ」
少年は今、木に手をついて呼吸を整えている。さっきまでケイサツに追われていたのだろうか。隙だらけで、狩るには絶好の機会である。
「けどどうやって奪う? 2人がかりで抑え込むか? それってすごく良心が痛むんだが……」
「じゃああなたは見てるだけでいいわよ。ちゃちゃっと気絶させて奪ってくるから」
「またあの隕石落とすつもりか? 当たり所が悪かったら死人が出るぞ」
「だから加減はしてるって。しつこいわよ」
ミアと顔を突き合わせた口論が続く。
決して日和っている訳ではないが、いざその瞬間になると身体にストッパーがかかってしまうのだ。ルールに則っているだけなのに、どうにも悪いことをしている気分になるから──
「うわぁぁぁ!!」
「「!!」」
そうやって色々思案していると、少年の叫び声が耳に届く。
驚いて振り返った時には、俺よりも一回りも二回りも大きい男の前に少年は倒れ伏していた。
服装的には大柄な彼も恐らく受験者。口論に夢中で、近づいてきていたことに全然気がつかなかった。
「ほら、あなたがモタモタしてるから他の人に横取りされたじゃない!」
「仕方ないだろ! 殺人者の仲間にはなりたくないからな!」
「いつまで言うのよ!」
ないとは思いたいが、万が一のこともある。今のうちに縁を切っておくのが正解だろうか。殺人の片棒を担いだなんて知られたら、今後まともな人生を送れない。責任は全てこいつに押し付けて、誰か俺を弁護してくれる人を探さなければ──
「そこに誰かいるのかぁ?」
「やべ」
男がぐるんと首をもたげ、こちらの草陰を見た。これだけ声を荒らげてしまったのだから、バレるのも当然だ。反省。
「ちっ、やるしかないようね」
「仕方ないか……」
見つかってしまったのなら仕方ない。ここは迎え撃つしかないだろう。相手は強そうだが、こっちは2人だ。有利だとは思う。
腹を括って、2人で彼の前に姿を現した。
「何だ、2人もいたのか。金貨は3枚で足りるのになぁ」
「何を言っているの? あなたの金貨はこれから0枚になるのよ」
男の余裕な一言にミアは強気な言葉を返す。あまり刺激して欲しくないのだが、彼女はそんなことも微塵も考えていないようだった。
「へぇ、おもしれぇ女だな。そうだな……そんなヒョロそうな奴より俺と組まないか? 絶対合格を約束するし、入学してからも俺の女として侍らせてやるよ」
いかにも悪役のような発言。本当に受験者なのかこいつ。ミアが誰の女になろうと構いはしないが、俺をヒョロそうな奴と言ったことは許さないぞ。
「侍らせる、がどういう意味かわからないけど、合格できるのならそれも悪くないわね」
「お、おい待ってくれよ」
とはいえ、本当に組まれるとマズい。ここで向こう側に付かれると、俺が圧倒的に不利になってしまう。
どうにかして説得したいが、甘美な条件が何一つ存在しない。昨日の取引だって脅迫して無理やり成立させたようなものだし、あれ、もしかしてあの男の条件の方が良いのでは──
「けどごめんなさい。私、あなたはタイプじゃないの」
そうミアが鼻で笑った。明らかに男を煽るように。
「……へぇ。ならいいぜ」
男がポキポキと指を鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべる。今のミアの煽りが余程効いたらしい。
──どうやら戦闘開始のようだ。
大変長らくお待たせしました! 本日より更新再開です!
ただ都合により、順番が前後しております。ご了承くださいませ。
それと、取り決めを少し変更しました。こちらは小説情報の方で詳しく記しておきます。
連載開始早々グダグダですが、頑張って続けていきますので、どうぞよろしくお願いします!