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【リレー小説】異能力が溢れるこの学園で青春しながらてっぺん目指す  作者: 波羅月&まぼろし&ひろたかずや
1章 入学試験編
5/9

05.早すぎる再会 (まぼろし)

 

「はあっ……、はあっ……」


 森の茂みから息を押し殺したような吐息がかすかに漏れる。しかし、緊張のせいか、その吐息は完全には殺し切れていない。かすかに漏れ出るその雑音が、森の静けさの協和音を狂わせていた。

 いや、これは果たして緊張のせいなのだろうか。

 それよりももっと、単純で簡潔で簡素な理由。

 「緊張」などという言葉で説明しなくとも、さらに単純明快な理由。

 ――生きるか、死ぬか。

 その地球上すべての動物が至極当たり前のように持っている生存本能が奏でる、脳内に強烈に響いているであろう危険信号の重みが、いま森の茂みに潜んでいる人物にも襲い掛かっていた。


「はあっ……、はあっ……」


 追われる側と追う側。

 狩られる側と狩る側。

 ――強者と弱者。

 

「撒いた……のか……?」


 茂みに潜む奥で、安心したようなかすれ声がゆっくりと深呼吸をする。

 助かったと胸を撫でおろしながら、中腰に構えていた姿勢を解き、楽な体勢へとゆっくり動いた。

 そして、ここはどこだと言わんばかりに、現在位置を確認すべく、首をゆっくりと周りに向けたとき、茂みにいた人物はようやく気づいた。

 自分の真後ろにひっそりと立つ、黒装束の男に。


「あ……ああああああああっ――!?」


 大きく森に響いた焦り声は、けれどすぐに静まり、普段の静寂さを取り戻しながら、何事もなかったかのように、再び活動を開始した。

 強者と弱者。

 弱者が強者に狩られていくことなど、弱肉強食の概念が蔓延しているこの世界にとって、至極当たり前のことであった。

 それは今回の舞台でもある、皇学園の入学試験内においても、弱者と強者がはっきりとしていた。

 警察と泥棒。

 強者と弱者である。

 ただ弱きものが強きものに粛々と淘汰される、そんな現代社会の縮図がこの試験会場内において繰り広げられていた。

 ――ただし今回の場合、必ずしも強者が追う側とは限らないが。


「……また一人脱落したわねぇ。ねえ、いまあの受験生を捕まえた人の能力って何だったのかしら」


 距離が遠すぎて見えなかったわ、と悔しそうに呟いて、自分の座っている椅子に深くもたれかかる少女が一人。

 輝かしいほどの金髪を持ち、その碧眼を美しく彩らせた彼女は、不満そうに口をとがらせながら、もう一度質問を繰り返した。

 自分の座る椅子に対して。


「ねえ、ちょっと聞いてるの?」


 同じ試験官なら知っているでしょ、と答えを催促するように彼女の座る椅子――数分前まで試験官をしていた――を脚先で蹴りながら宙を仰ぐ。

 彼女の名前はミア・スピカ。

 先ほどまで東雲と行動していた人物である。

 そして、つい10分前に東雲に命を助けられ、あまつさえその感謝もろくにせずに別行動を即座にとった人物でもある。


「うるさいわね、潰すわよ」


 はいすみません黙ります。

 ミアは苛立ったように髪をかき上げると、一人ぐちぐちと呟く。


「だいたい何なのよあの男……」


 誰も頼んでないのに勝手に助けてきて、と独り言ちるミア。

 そんな彼女の椅子になり、黙ってその処遇に耐え忍んでいる試験官は本当にすごいと思う。

 そして、そんな哀れな試験官を欠片も心配しようとしないミアもある意味すごいと思う。

 本当にどうしようもなく、徹底的に性格底意地の悪い少女である。


「彗星光のごとく宙から顕現せ……」


 はいごめんなさい何も言ってませんだから完全詠唱はやめてください。

 ミアが荒ぶった気持ちを抑えるように、息を大きく吐く。


(ああ、いま思い出しただけでも腹が立ってくるわ)


 顔が何より腹立つのよ、あの腑抜けたような顔。

 そのくせ、さっきのような緊急時には素早く動ける機敏さも持ち合わせていたものだから、それが余計に腹がたつ。

 ミアがふんっと言わんばかりにそっぽを向く。


(今度会ったときはあの腑抜けた顔を氷漬けにしてやろうかしら)


 大して目立つような特徴を持ち合わせていないくせに、やけに印象の強い東雲の顔を思い出しながら、ミアは一人考える。


(あんな顔はこんがり焼いてもいい味が出そうだわ)


 そうそう、確かあんな顔だったわね……と考えたところでミアはふと気づく。


あんな顔……?

自分は今何を見てそう思った……?


 そして彼女は気づく。自分の目の前にいる人物に。

 10分ほど前に別れたはずの、先ほどまで考えていたあの忌々しき男が目の前にいるのを理解して、ミアは全力で叫んだ。


「なんであんたがここにいるのよ!!」


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