3話 自宅案内 - 1
遅くなりました。よろしくお願いします。
この二人の気持ちに寄り添うことはできないだろうけれど、とにかくしばらくはここで預かればいいだろう。
助けて置いてこのままほったらかしにしておくわけにはいかないし、そもそもそんな気は一切起きない。
「二人は、これからどうしようと考えてますか。二人がよかったら僕のところでしばらくいてくれたらいいと思うのですけれど」
僕の問いかけには変わらずシャルルさんが答えてくれるらしい。シャリンさんは…目を瞑って体から力を抜いて、口から涎が垂れかけている…俗に言う睡眠状態だろう。すごい余裕だ。
シャリンさんはそっとしておくことにして、僕は改めてシャルルさんの答えを聞く。
「いいのですか!私たちには頼れる人なんてもうあなた様…ユウ様しかいないのです。どうかお願いします」
「良かったです。お二人を見捨てることになるのは私も嫌だったので」
この場所で二人を守るのは大変だろうけれど、僕はこの街でならある程度の権力があるため不可能ではないと考えている。
人間を肉として提供したり、狩ってこの街で生計立てている者からはかなり疎まれることになるだろうが、それ以外からは特に何も言われる心配はない。
気になることもあるが、マイナスなことばかり考えていても仕方がない。とにかく二人が生きていけるように僕も努力しようと決めた。
となれば、細かいことは置いておいてまずは、しばらく滞在するこの家の案内からだ。
二人の部屋はさっきの部屋にしよう。二人分の私室としては十分な広さであるし、仕切りも設置できる第二のリビングのようなものなのでプライベートな空間も作れる。
一応確認は取るが。
「二人にはさっき案内した部屋を私室として使ってもらおうと思いますが大丈夫ですか?あと、これからほかの部屋も案内はしますが、入っていけないといった部屋には危ないので立ち入らないようにお願いします」
「ありがとうございます。…あの、気になっていたのですが」
「どうされました?」
何やら気になっていることがあるらしいが、なにかしてしまっただろうか。
「失礼にあたるかもしれませんが、どうして敬語なのでしょうか。私たちのほうが年齢も立場も下なのですよ」
「ああ、そんなことですか」
確かに、この敬語を使う話し方は人の猿真似だ。けど、僕の中では大切なことだと思っているのだ。
「この話し方は癖で、誰に対してもこうなんですごめんなさい。ちなみに慣れてきたらそちらは敬語を使わなくても大丈夫ですよ。仲良くしてくれると僕も嬉しいので」
「じゃあ、わたし、普通に話す。これからよろしく、ユウ」
さっきまで精神統一にいそしんでいたシャリンさんが口を開く。このタイミングは狙ってたとしか思えないのだが、口元の涎が本当に今の今まで寝て…精神統一していたことを物語っている。
敬語をやめるを超えて呼び捨てまで。きっと将来は大物になるぞ。
「はい、お願いしますね」
僕は微笑んでから立ち上がると、肝の据わった妹に驚愕するシャルルさんと将来の大物シャリンさんを連れて二階へと向かった。
「えー、右から一級書庫、薬庫、それ以外の倉庫ですね。この三つはできるだけ立ち入らないようにしてください。危ないものも置いていたりするので」
二階の階段を上った先にまず見えるのは三つの部屋を並べられる異様な太さの廊下。二階の一番奥に並ぶ三つの部屋から紹介を始める。
「どんなもの入ってるの」
「そうですね、一級書庫には動いて話しかけてくる本だったりとかがありますね。薬庫は、例えばさっき二人に渡したポーションの完成品とその材料だったりとかですね。残りの倉庫は…本当にいろいろとしか言えませんね」
「動く本、すごいね」
「見たいなら今度安全なものを持ってきてあげますよ。期待しててください」
「やった、ありがと」
「いえいえ」
階段から見て廊下の左側は完全に空き部屋である。そして、
「右側のこっちは、僕の私室ですね。用があればノックしてから入ってきてくださいね」
「え、みせてくれないの」
「こらシャリン!失礼でしょ人様のお部屋なんですから」
紹介だけして二階はこれで終わりと考えていた僕だったが、どうやらシャリンさんは中垣になるようである。
「いえ、別に構わないんですが…ちょっと待っててください」
そういって僕は扉を開けてまずは一人で中に入ると、見渡して片付けるべきものを探す。
まずは机の上の薬品類を机の引き出しへ、次に立て掛けてあった僕の武器をクローゼットへ。最後に指を鳴らし、反応があったことを確認してから扉を開ける。
「お待たせしました、別に面白いものはないですけど入って構いませんよ」
「ありがとう、おじゃまします」
「わざわざすみません、失礼いたします」
二人を部屋に入れると、シャルルさんは部屋を見て回り、シャリンさんは机に向かうときに座る椅子に座ってぐるぐる回っている。気に入ったのだろうか。
「きれいな部屋ですね。今思えば食事した部屋や私たちの部屋としていただいた場所もきれいに片付いていましたから、手入れが行き届いていてすごいです」
「ありがとうございます。僕はあんまりものを持たないのでその影響もあるかもしれませんね」
シャルルさんが部屋のきれいさを褒めてくれている。どうやらこれだけきれいにしていれば、社会的にも「きれい」となるらしい。勉強になる、親友もきれい好きだったし頑張って維持しよう。
シャルルさんはありがとうございますといって部屋を出ていこうとする。あわせてシャリンさんも椅子で回るのをやめて、机の上の写真を持ってくる。
「ねえ、このひと、だれ」
顔に一切表情がない昔の僕と、白い髪をたなびかせる一人の少女。僕とは違い笑顔でポーズを決めている。
「その人は、僕の親友です。今はもういなくなってしまいましたけど」
「…っ。すみません」
僕は一体どんな顔をしていたのだろう、入り口近くで話を聞いていたシャルルさんが悲しさ半分申しわけなさ半分といった感じで謝っている。
「気にしないでください。僕はもうこの件に関しては吹っ切れていますので。シャリンさんは写真をちゃんと戻しておいてくださいね」
「うん、わかった」
まだ申し訳なさそうなシャルルさんの肩に手をおいてもう一度気にしないでいいと言って、写真を置いてきたシャリンさんも連れて部屋を出た。
「あと、この部屋の隣はトイレですね。これで二階の案内は終わりですので一階に戻りましょう、先に階段を降りていてください」
「うん」
「わかりました、二階の案内ありがとうございました」
二人が階段の曲がり角で見えなくなってから、僕はポケットの錠剤を一つ飲み込む。
口をついて出た吹っ切れているという言葉。まだ理由を探している僕なんかがそんなことあるわけがないのに、よくもすんなりと嘘ががつけたものだ。
(ユウ、最後のお願いをします。私はもう無理ですけど、あなたには生きていてほしいです)
(生きる理由がないあなたでもきっと、生きたいって思える時が来るから)
(生きて、幸せになってください。私のたった一人の大切な人…)
ガシャンと金属が地面に落ちる音がして記憶に浸っていた自分に気づくと、ハッとして現実に戻る。
「ユウ、ごめん、なにか落として割っちゃった。シャルルが」
「あ、あの!言い訳にしかならないですが暗くて見えなかったのです…出て行けと言われれば出ていきますから、本当に申し訳ございません」
聞こえたのは二人の声。
「大丈夫ですよ!そんなに高いものは置いていないですし。それよりも怪我はなかったですか!」
僕はあの時を思い出そうとする頭を止めて、一階へと足早に向かった。
ありがとうございました。
テストのため書くのがおっそいです。