2話 二人の少女
よろしくお願いします。
僕が落ち着いたころには、もう晩御飯の時間になってきたのでしばらくキッチンで料理にいそしんでいると別室にいる二人がゆっくりと姿を見せ、一人が僕と目が合った。
さっき僕のものだけれど服を渡しておいたので、ダボダボではあるもののさっき連れてきた時のぼろぼろになった服に比べれば何倍も良いだろう。
見た限りでは傷は見当たらないし、どこかをかばっているなんてことはしていないためちゃんとあの薬が効いたのだろう。
相変わらず尋常じゃない効き目である。
(そういえば、薬の在庫がそろそろ危ないかもしれませんね。また説明書読んで作っておかないと)
薬はちゃんとストックしとかないとって言われていたしどこかで時間を作ろうと決めつつ、フライパンにかかっている火を止める。
薬の材料の在庫はちゃんと保管庫に保管してあるし、もしなかったとしても明日にでも買いに行ってストックをためておこうか。
フライパンにある野菜の炒め物を三つの皿に盛りつけながら明日の予定を考える。
見た目もよくできていて、さらに盛りつけた料理を見て、僕も料理上手になってきたと自分自身をひそかに褒めると、何とかいろいろな人間としての生活能力も親友に追いつけるかもしれないなと嬉しくなる。
そしてこんな感情を得られるようになった自分にもさらに嬉しくなる。
「二人とも、そこの椅子に座っていてくれますか?ご飯を作ってみたから食べてくれたらなと思うんですが」
ダイニングテーブルに料理を並べ終えた僕は一足先に自分の席について、僕と目が合ってから微動だにしない二人を呼ぶ。二人は顔を見合わせて恐る恐る席に近づく。
そういえば、僕がだれかに料理を作ってあげるのは初めてだ。
そう思うと微かに緊張してきた僕だったがそんなことはおくびにも出さず先に二人が席に着くのを待った。
「いただきます」
手を合わせて僕が食事開始のあいさつを。親友に教わったことの一つだし一人の時でも欠かさず行う動作だ。
使いかたをこれまた親友に教わった箸を手に取って料理を口に運ぶ。
味付けは胡椒のきいたスパイシーな味付けで間違っていないしちゃんとおいしい料理になっている。
野菜と肉を炒めて、主食の米を炊いただけの簡易料理だけど親友の教えが活かされているのだろう。
僕は自分の料理に満足しつつ食べ進めていく。
「毒とか入っていないのでどうぞ食べてください。今日は本当に大変だったと思いますけれど食べられるなら栄養は取っておいたほうがいいですしね」
僕の催促を聞き二人も手元にあるフォークとスプーンを使って野菜炒めを食べる。すると目を輝かせてどんどん食べ進めていく。
どうやら口にあったようで安心した。
会話なんて一言もない静かな食事風景だけれど久々に誰かと囲む食卓はなぜか賑やかに感じられた。
先に食べ終わった僕は、先に食器や調理器具を洗って片づけることにした。
洗っている間に二人とも食べ終わるだろうという読みのもと効率よく洗い物を片付けていく。静かな風景に今度は水の流れる音と食器のぶつかる音が響く。
てきぱきと水で汚れを流していると、くいっと袖が引かれる。
「あの、ありがとうございました。おいしかったです。食器どうすればいいでしょうか」
申し訳なさそうに目を伏せて二人分の食器を両手に持って僕のところまで運んできた。
「あ、置いといてくれてもよかったんですが、ありがとうございます。受け取っておきます」
僕は二人分の食器をまた洗い始めていく。
「良ければさっきご飯を食べていた椅子に座って待っていてください、お話も聞きたいですし」
「わかりました」
一体二人に何から聞こうけばいいのだろうか。
ゆっくりと歩いて椅子に戻っていくのを確認すると、待たせすぎるのも悪いなと洗い物のラストスパートをかけた。
「ごめんなさい、待たせてしまいましたかね」
手をふきながら二人の待っているテーブルに戻ると、まずはテーブルにおいてある冷やした水を人数分コップに入れて二人の前に置いておく。
「水を置いておくのでのどが渇いたりしたら飲んでください」
水を一口飲んで減った分を継ぎ足し、改めて二人に向き直る。
ちょっと真面目な空気を漂わせてしまったのか、二人の顔にも緊張が走っているのが見て取れる。
「まず、僕が効きたいのは二人の名前です。教えてもらえますか」
「…私は、シャルル・マーガレイドといいます。歳は16歳です。助けていただいただけでなく傷を治したり食事まで提供していただいて。本当にありがとうございます」
少し間があって座りながらお辞儀をして自己紹介をしてくれたのは、家に来てからもお礼を言ったり、食器を持ってきてくれていた方の子だ。
金色の髪・赤い目をし、礼儀正しいふるまいから16歳とは思えないしっかり者のような雰囲気や上品といえる雰囲気をしている。
「どういたしまして、僕も自分の気持ちのためにやっただけだから気にしないでください」
「優しい人ですね。ほら、シャリンもご挨拶しなさい」
催促されたもう一人の子がゆっくりと口を開く。
「わたし、シャリン・マーガレイド、です。15歳。…助けてくれて、ありがとうございます」
こちらは銀色の髪・青い目をした子だ。よく言えばミステリアス、悪く言えば無表情といった雰囲気である。
「ごめんなさい、シャリンはあまり人と話すのが得意ではないのです。怒らないであげてほしいのですが…」
そんなことは気にしないので、にっこりと笑顔を見せればシャルルは安心したように一息ついた。
「じゃあ今度はこっちが自己紹介させてもらいます。僕はユウ。家名はないので名乗れないのですが、申し訳ありません」
「いえいえそんなこと、気にしないでください。命の恩人のことを悪く思ったりなんてそんなことあるわけないのですから」
「ならよかったです。ではいろいろ聞いていくのですが、まずは二人がどうやってここに来たのか教えてもらえますか」
僕の問いにシャルルさんが答えてくれる。
その話によると、二人は父と母を加えた4人の家族で街にお出かけをしていた最中、二人の男に気絶させられて次に気が付いた時には…
「小さな倉庫に閉じ込められていて、ガタガタと揺れていました。きっとどこかに運ばれていたなどと思います。そして倉庫の中には父と母が…その…」
「もう大丈夫ですよ」
その時の状況を思い出してしまったのか、カタカタと震えているシャルルの話を止めて、落ち着くまで待つ。
この街でよくあるお金稼ぎの一つである肉の売買だ。この街に住む存在からすればこの世の生物は肉であり、食料だ。
だからきっと、この町に住むならシャルルさんの話も大した内容ではないのかもしれない。
けど、今の僕は、目の前にいる二人を見ると、たとえただ親友からもらっただけの感情であっても「助けてよかった」と思える。
だから僕は、いまだに自分の中にある、昔の嫌いな自分の衝動を抑え込む。
ありがとうございました。次回もお願いします。