第15話 倉柿救出
花丸
「お、おい!倉柿はどうなったんだ!?」
隠明寺
「控えめに言って危篤状態です。このままではどんどん体が衰弱して命に関わることは間違いないです」
花丸
「アイツ、気絶する前に【悪魔】と言ったぞ…?」
シシリィ
「悪魔ですって…?なんてファンタジーなの」
シシリィはあの事態を目の前にしてなおワクワクに胸を踊らせている。
花丸
「おいおい正気か…?隠明寺さん。倉柿はまだ死んでいないんだよな?」
隠明寺
「ええ。ですがあまり時間がありません。亡くなってしまうのも時間の問題です」
山茶花
「残念ですが、1度ダイブは中断した方が良いかもしれません。皆様に明らかな危険性の孕む実験の続行ははばかられます」
花丸は一呼吸置いて山茶花に切り出す。
花丸
「…山茶花さん。僕をダイブさせてくれ」
山茶花
「え?ですが花丸教授。あなたはここでサポートをして頂くために来て頂いたのです。あのような事態を目の当たりにしてもあなたは行くというのですか?」
花丸
「そうだ。僕は自分の研究によって誰かが不幸になって欲しくないんだ。この機械はあんたらが作った。だが僕の研究もこの機械に組み込まれている。それじゃあ後味が悪い。その為に倉柿を助けに行く」
山茶花
「形はどうあれ研究を横取りしたのは倉柿教授でした。それでもなお彼を助けに行くのですね…。板緑氏、再度スコープをお願い出来るかい?」
板緑
「はい。分かりました」
光が山茶花の前に出た。
光
「まま、待ってください。花丸教授、あなたが行くというのなら、私がスコープになります。私に乗り移ってください」
花丸
「あ、ええ?光くんがかい?どうして?」
光
「私は花丸教授の助手です。ならば助手としてあなたの役に立ちたい。教授、私と一緒にダイブしましょう」
花丸
「…だそうだ、山茶花さん。僕は光くんをスコープにして無意識にダイブする。スコープになることによって何が変わるか分からない。だが彼女の意志を汲みたい。光くんとは長い付き合いだからな」
山茶花
「…構いませんよ。ですが板緑氏も霊能力者。幽霊が見える被験者としてこの研究に参加してくれています。光助手がスコープになることによって不利になる恐れもあることをご理解頂きたい。それでも良いですか?」
花丸
「…それでも構わない。光くんをスコープにする」
山茶花
「分かりました。もし危険が及ぶようであれば直ぐにダイブから復帰させましょう。それまで板緑氏にはここで待機してもらうとしよう。さて皆様。これから倉柿教授の救助を前提としたダイブに目的を変更します。誠に勝手な申し出ですがこの機械、ナイトダイバースコープは花丸教授の協力無くして完成しなかった代物です。ならば花丸教授の意向を優先して救助に目的を変更するのも筋だと私は思うのです。しかしアカシックレコードの探索を優先したいと思われる方がおられるならばそちらを優先して頂いても構わない。ですが目測ではアカシックレコードは第7層のさらに【下層】。さらなる脅威が待ち構えている可能性も十分に有り得ます。ならば当面の脅威の排除に尽力することが賢い選択であるとも私は判断しますけれども?」
山茶花に対する意見の声も、棄権の声も上がらなかった。相当自信があるのか恐れより好奇心が勝っているのか。元々そういう人間を集めてきたのだろうか。花丸は安心し深呼吸をした。
?
「悪魔は空気中に存在する恐怖のミーム。あらゆる宗教に根付く悪としての概念です」
花丸
「…誰だ…?」
?
「この精神世界への介入は人類の新たなる可能性の魁です。皆、潜った先で何かしらの収穫を期待しているのですよ。言わば私たちは選ばれた存在。申し遅れました。私の名前はククル・ビタントニオと申します」
花丸
「えっ、あっ!」
ククルはニッコリ笑い人差し指を立ててしーっのポーズをとった。
山茶花
「あら?ククル氏とお知り合いでしょうか。ククル氏はフルール・プリュネの機械工学研究所の職員です。地下を走るモノレールの工事にも着手して頂いたお方です」
花丸
「い、いや。どこかであったかな〜って…」
ククルは笑顔を崩さず機械の方へ歩みを進める。
ククル
「さて。僕は倉柿教授の救助へ向かうことに賛成です。花丸教授、共に彼を助けに参りましょう」
花丸
「あ、ああ。感謝するぜ」
被験者達はそれぞれの配置に着く。
山茶花
「さて最後に注意事項です。戻りたい場合は直ぐにもうしてください。先程のように手遅れになる場合もありますので、できるだけ迅速に」
花丸
「了解」
花丸と光もダイブの機械の配置に着く。光はバスタブへ、花丸はヘッドセットを着用した。
被験者14名は精神世界へダイブした。