第14話【悪魔】
翌日。
山茶花
「おはようございます。本日お集まり頂きました14名の被験者方。ご協力ありがとうございます」
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「いよいよ始まるのね。本当に楽しみだわ」
山茶花
「シシリィ氏。彼女は今回の研究の出資者でもあり、協力まで申し出てくれました。大変感謝しております」
?
「シシリィ・レジェナよ。皆様よろしくってよ」
金髪でカチューシャをつけた女性が自己紹介をした。お上品に礼をする。
花丸
「パトロンか。わざわざ自分から精神世界へ行くなんて…。何があるのか分からないんだぞ」
シシリィ
「うふふ。あなたは花丸教授ね。知っているわよ。幽霊が見える機械を作ったんだってね」
花丸
「まぁ今回は別の機械を使うみたいだが。あんたの後ろにいるのは誰だい?」
シシリィの後ろに髪の長い女性がたっている。
シシリィ
「彼女は隠明寺鯰然。霊能力者よ」
花丸
「本当か?」
隠明寺
「隠明寺です。よろしくお願いします。ええ。見えますよ。信じて貰えるかは別として」
髪をかきあげる。隠れていた目が見えた。
花丸は一通り被験者の顔を見て回る。
花丸
「あんたも居たのか。倉柿」
倉柿
「花丸教授。あなたは僕を恨んでいるかもしれない。だけどあなたの研究をそのまま続けていても埋もれてしまって世に出ることは決してなかった。だから後悔はしていない」
花丸
「意図する事は理解できるがあんたは人として悪いことをしたんだぜ?それでもいいのか?」
倉柿
「あの騒ぎからスコープは危険性があるものとして没収、その検査をしている最中だということを理解して頂きたい。これ以上僕から話すことはない」
倉柿はそういうとそっぽ向いてしまった。
花丸
「チッ。あんな騒ぎを起こしてしまった以上そういう形を取らされたのはやむを得ない事なのかもしれない。僕の方に落ち度があったこと認めてやるよ…」
そういい花丸教授は光の近くに戻って行った。
山茶花
「それではダイブの順番を決めましょうか。どなたか1番最初に行きたい方は居られますか?」
シシリィ
「はいはい!私が行きたい!」
シシリィが威勢よく手を上げる。しかし倉柿が前に出た。
倉柿
「山茶花職員。僕を最初にダイブさせて下さい」
山茶花
「そうですか。構いませんが、何か理由があるのでしょうか?」
倉柿
「山茶花職員はスコープを僕が盗んで持ってきたと懐疑的なイメージを持っておられる。そして花丸教授もそうでしょう。それは致し方ない事です。ならば僕が率先してダイブすることで先行者という最も危険性の高い役割を担うことにします」
山茶花
「ふむ。確かにまだ何があるのかわかったものでは無い。精神世界で死亡した場合どうなるのか。戻って来れなかった場合どうなるのか。未だ未知数な事が多い。倉柿教授のペアは誰だ?」
?
「はい。板緑乃英瑠です」
眼鏡をかけた女の子が返事した。
山茶花
「では板緑氏、倉柿教授と共に先行者としてダイブすることを承認して良いですか?」
板緑
「はい。大丈夫です」
倉柿
「彼女がスコープになり、僕がダイブする。乃英瑠。頼んだぞ」
板緑はコクリと頷くとバスタブへ入る。
山茶花
「ご覧下さい。現在メインコックピットには既に神の声を聞いたとされる聖人、モーセが憑依した霊能力者がいます。彼女の名前は崩柴宝楽。この世で5本指に入る程霊能力の実力があるとされる人物です。現在彼女には眠ってもらっています」
コックピットの中には雅な女性が酸素マスクをつけられて眠りに落ちている。
山茶花
「あまりに長時間のダイブは彼女にも被験者にも危険が及ぶ可能性も考慮し、12時間以内に何度か被験者側がダイブはするものの、それ以上を越えるダイブが予想される場合は崩柴氏には1度目覚めて頂きます」
山茶花はパソコンのスクリーンに何かを映し出した。
山茶花
「このように人の意識は氷山のようになっております。表に出ているのは3〜10%程度の顕在意識でしかありません。皆様にはこの下の潜在意識の深くに潜ってもらい、無意識のさらに下を目指して貰います。よろしいでしょうか?」
倉柿
「何層か飛ばして一気にダイブすることは可能なのでしょうか」
山茶花
「ええ。可能ですが、何があるか分からないのが現状ですので、まずはこの顕在意識から」
倉柿
「潜在意識へ一気にお願いします。早く結果を出さなくてはいけないんです」
花丸
「おいおい、何があるか分からないんだぞ…?」
倉柿
「承知の上です。だけど僕自身が決めたこと。花丸教授は僕がアカシックレコードを発見するのをここで見ていてください」
倉柿は不敵な笑みを浮かべる。
山茶花
「…分かりました。事前に警告はしましたし、自己責任になります。14名の参加者を募ったのも協力し合うため。あなたがその必要がないというのなら、無意識まで一気にダイブさせてあげましょう」
倉柿
「ええ。お願いします」
倉柿はバスタブの前の椅子に座り、ヘッドセットを装着した。バスタブの中の板緑は酸素マスクを付ける。山茶花は板緑の近くへ行くとバスタブのボタンを押す。すると徐々に液体が満たしていった。板緑は眠りにつくと倉柿の意識も喪失し椅子にもたれかかった。
山茶花
「…深度10段階中1、2、…5、6」
スクリーンに映像が映し出される。どうやら倉柿目線のようだ。徐々に倉柿の周りが暗くなっていく。
山茶花
「倉柿教授。聞こえますか。深度7に到達しました。深度1が顕在意識。2以降が潜在意識となります。そして現在は深度7。そこがダイブで到達できる最下層です。アカシックレコードは深度10より下の層だと予想されています。ここから先はあなた自身が下層への道を見つけなければいけません」
倉柿
『…はい。分かりました』
花丸
「ん?板緑氏の声が聞こえるんだが?」
山茶花
「そうです。倉柿教授は板緑氏に【乗り移っているのです】。ですが魂は倉柿教授のもの。もし精神世界でダメージを受けることがあれば倉柿教授が受けることになるでしょうね」
倉柿
『鉄の扉が…』
花丸は何か嫌な予感がした。
花丸
「倉柿教授。その扉、何か嫌な予感がする。別の場所を探した方がいいんじゃないか…?」
倉柿
『まって。覗き穴がある。中を覗いてみるよ』
倉柿は鉄の扉の覗き穴を覗いた。
倉柿
『…えっ。ハッ!?』
山茶花
「どうされました?」
すると座席に座っている倉柿教授の本体の方の目から血の涙が溢れ出した。倉柿教授突然うめき声を上げ、吐血する。
花丸
「なな、なんだ!?どうしたってんだ!?」
スクリーンに視線を戻す。真っ赤になっていた。
板緑が目を覚ます。
板緑
「…あれ?戻ってきました」
倉柿
「…かは、【あ、悪魔だ…。悪魔】」
倉柿はだらりと舌を伸ばして気絶した。
すぐさま隠明寺が駆け寄る。
隠明寺
「…まずいです。魂を抜き取られています」
花丸
「なんだって…?」
山茶花
「倉柿教授は魂を抜き取られたというんですか?」
隠明寺
「はい。このままでは目を覚ますことはないでしょう。早く回収しに行かないといけない」
山茶花
「倉柿教授をすぐに医務室へ」
辺りはざわめき始めた。【悪魔】。花丸はその単語が耳に張り付いて離れなかった。倉柿は一体何を見たというのだろうか。