第12話 地獄絵図
郷造
「唵吠室囉抳野娑婆訶、唵吠室囉抳野娑婆訶」
郷造はそう唱え、素早く手で印を結んで、タオルで包んだ宝塔剣を懐から取り出す。花丸の目からは青白く輝き、神秘的な雰囲気を感じられた。
ズバァッ!!
向かってくる神使を真っ二つに両断する。
「ぐぎゃああああっあっ、、」
穢れのような黒い液体を撒き散らしながら肉塊に戻り、青白く燃え、灰になり、散り散りに消えていく。他の陰陽師達も各々真言を唱え、祓具を構える。燃える者や光り輝く者、廻子の様に式神を扱う者等、様々だ。
キィーー〜ーーン。
神使が鳴いた瞬間、劈くような耳鳴りが鳴る。花丸は、この世のものとは思えない、おぞましき深淵、汚濁を覗き込んだかのような嫌悪と恐怖に支配される。がくがくと膝が震え、今すぐにここから逃げ出したいと怖気付く。
花丸
「あ、ああ…、、」
後退り、ずりずりと靴底を擦る。まさかこんな目に遭うとは思わなかった。祟り神が顔を出す上空を見ると、徐々に穴が大きく広がっていく。それに伴い周囲を覆う邪気、冷気も増していく。
『ぶぼぉおおおうぅぅ、、』
大きく咆哮をあげる。空間全体に響き渡る至極不快な鳴き声は極度の飢餓感によるものであると察せられる。だらだらと涎を垂らし、すんすんと一行の臭いを探りながらじわりじわりと顕現していく。花丸はあまりにも凄惨な地獄絵図に、ヘッドセットを外そうとする。
廻子
「外すな!! 花丸!!」
花丸
「…っ!?」
廻子は花丸に向かって先程の五鈷杵錫杖を投げ付けた。花丸は驚いたが、パシッとそれを受け取る。
廻子
「見えなければ避けられないぞ! 私達は境界門が見えない! オーラの様な物だからな。空から徐々に祟り神の姿が現れている様に見えるだけだ。楔を探せ! 境界門を繋ぎ止める楔が霊道の先にある筈だ! それを錫杖で破壊するんだ!」
花丸
「れ、霊道の先…!?」
エリック
『ナビゲートします。こちらです』
エリックがモニターで場所を指示する。
エリック
『洞窟村の入口から続く霊道から、5つの霊道が伸びています。おそらくその先に楔があると思われます。3つは家屋、1つは井戸、1つは奥の神社からです』
花丸
「多いな、、! 出来るのか!? この僕に、、!?」
すると背後から地縛霊が飛び掛ってきた。ずしりと重くなり、急に身体が怠くなる。
『かぁあああっ!!』
花丸
「うっ、、!?」
肩を噛み付かれたような感覚があり、徐々に痛みが増していく。しかしエリックから聞き取りにくい念仏の様な音声が鳴ったかと思うと、地縛霊は弾かれるように飛び退いた。
『ぐかっ、、』
津雲
『花丸殿。私もここから援護させて頂きます。どうかご安心を』
花丸
「やるしかないのか、、! 先ずは家屋からだな!」
花丸は家屋の扉を開けて中へ侵入する。中は瓦礫の山であり、足の踏み場も無い。
花丸
「今にも崩れそうじゃねぇか、、」
エリック
『あそこです』
仏壇に狐の像が飾られている。仰々しく恐ろしげな佇まいで、そこだけ埃が被っていない。
津雲
『像が楔になっているようです。錫杖で破壊してください』
花丸
「だ、大丈夫か!? 錫杖の方が壊れないか!?」
津雲
『普通の石造りならば錫杖の方が破損する可能性があります。しかしあれは呪物ですので錫杖の力でその呪いごと破壊することが可能でしょう』
花丸
「やってみっか!」
花丸は急いで像の近くへ移動し、錫杖で突いた。
ひゅっ、ぼこぉ、、!
まるで砂の像を突いた様に崩れ落ちる。
花丸
「不思議だ、、。本当にぶっ壊れた」
エリック
『ミッションクリア。次のポイントへナビゲートします』
花丸は家屋の外へ出る。廻子達は神使と継続して戦闘中だ。1人怪我をしており、その陰陽師を庇いつつ他の3人が戦っている。
花丸
「大丈夫か? 怪我してるみたいだが」
津雲
『承知の上でしょう。我々は楔の破壊に努めましょう』
次の家屋へ侵入する。
花丸
「何処だ、、? 軒下か?」
先程の家屋よりは散らかっていないが、霊道は床板の下へ伸びている。板を外し、潜り込んでライトで中を照らす。
花丸
「はぁ、クソ、楽しい楽しい地獄巡りだぜっ、、! 全く!」
エリック
『地獄というのは理解できますが、楽しいというのは強い皮肉が込められている様に思われます』
津雲
『来ますよ!』
這いずる獣のような地縛霊達が花丸に向かってくる。一体が足にしがみついた。
『ゔぅぅぅ、、』
花丸
「やめろ! 来るな! 向こうへ行け!」
錫杖をブンブンと振り、地縛霊達を追い払う。
ブバッ!
錫杖が当たった地縛霊は弾かれて紙切れのように四散した。
花丸
「つ、強ぇ、、」
津雲
『局長の祓具は強烈ですからね。人によっては国宝級の価値がありますよ』
花丸は何とか像がある場所まで辿り着き、錫杖を突き立てた。
花丸
「しかしなんでこんな所にあるんだ、、」
エリック
『理解に苦しみますね。陰陽師対策でしょうか?』
津雲
『考えても詮無き事。次へ向かいましょう』
家屋を出て次へ向かおうとする。上空は既に祟り神の身体で覆われ、人間の顔があちこちに点在する。中央の大きな【母胎】は先程より身体を形成させ、下へ堕ちようと身体を蠕動させている。
廻子
「ふん!」
廻子の背中にいる式神が手を振るう。巨大な熊の手で強烈な薙ぎ払いを神使達にお見舞する。
ズギャアアッ!!
一撃でバラバラに吹き飛び四散する。
花丸
「すげぇ…! すげぇけど、アイツだけ戦い方が違うよな?」
エリック
『私的には、廻子氏の戦い方の方が好みではあります』
次の家屋へ向かう。
神使
「けらけらけらけらけらけら、、!」
何故か神使達が中で待ち構えていた。
花丸
「うお、、! 流石に一人一人相手してたら不味いな、、!」
エリック
『1度外へ誘き出しましょう』
花丸は1度外へ出る。神使達も花丸を追ってくる。
花丸
「多勢に無勢だぜ。どうしたらいい?」
津雲
『音量を最大にします。ヘッドセットを外してください』
花丸
「い、いいのか、、?」
花丸はヘッドセットを外す。すると地獄絵図の様な光景は消え、先程の陰鬱な洞窟村が姿を現す。
『リィーーーーーーーーーーーーーーーーーーンン!!』
花丸
「ッ、、!?」
突如大音量の鐘の音がヘッドセットから鳴り響く。直ぐ様エリックがデバイスで「ヘッドセットを再度着用してください」と文字起こしする。
花丸
「何の音だ!?」
津雲
『ティンシャです。霊力を篭めて鳴らしました。神使達をご覧下さい』
神使
「ぎょぇぇ、、」
神使
「うぎゅぅぅ…!」
花丸
「怯んでる! 今がチャンスだ!」
花丸は錫杖でバッサバッサと祓っていく。中に居る神使達も痺れて動けない為、問題無く祓う事が出来た。
花丸
「あれだな!」
像を発見し、錫杖を突き立て破壊する。
花丸
「…次は」
神社と井戸。花丸は神社の方へ行こうとする。しかし、先程と周囲の様子が変わっている。
花丸
「祟り神が社の上に陣取ってやがる」
空を見ると門がかなり狭くなっている。楔を破壊した影響が出ているのだろう。現世に侵入しようとする幽世の勢いも、やや弱まっているように思えた。
花丸
「神社が最後になりそうだ…。だが井戸にどうやって降りればいい? 降りたら上がってこれないだろ」
津雲
『こういうケースに備えて登山用ロープを道具袋に入れてあります。自動で巻き取れるので登りも楽々です』
花丸
「準備いいな! これか?」
花丸は道具袋から登山用ロープを取り出す。
花丸
「ここに引っ掛けて…」
近くにある柱に引っ掛ける。
花丸
「切られたりしないだろうか」
津雲
『ご安心を。郷造にロープを切られないよう連絡しておきます』
花丸
「大変そうだが仕方ないよな。了解」
花丸は井戸へロープを垂らし、下へ降りていく。
花丸
「なんで井戸の中に像を祀るんだよ、、」
下に降り立つと大量の骨があり、バキバキと音が鳴る。
花丸
「あそこか?」
井戸の底に横穴があり、微かに光が漏れている。どうやら外へ繋がっているようだ。
花丸
「骨だらけだな…。果たして井戸なのかも怪しい所だ、、」
横穴を進むと外に繋がっており、川が流れている。意図的に外と繋げた訳ではなく、落石で穴が空いたようだ。しかし大きな岩が邪魔して像の場所まで行くことが出来ない。
花丸
「クソ、岩が邪魔だな」
光
「…! 教授!」
花丸
「あっ!? 光くん!?」
何故光がいるのかと驚愕した。
花丸
「バッカ! 大馬鹿者! なんでこんな所にいるんだよ!」
光
「え、えへへ。村に着いたら狩衣の人達が作業してたんで、バレると不味いので隠れた場所から観察しようとしたら、車のタイヤがかなり汚れてたのが気になって…。タオルを濡らそうと川の近くに降りたら大きな穴が空いてて、、」
花丸
「直ぐ帰るんだ! ここはマジヤバいんだぞ!!」
『ぬぅぅぅ〜!!』
地縛霊が穴の外から侵入してくる。
花丸
「…!」
花丸は錫杖でバッ、バッ、と追い払う。
光
「ん? え、え??」
花丸
「仕方ない、ここに置いていく訳にもいかないから付いてこい!」
エリック
『思わぬ同行者の様ですね』
津雲
『どうやって門を…。致し方ありません、その方と協力して障害物を退かせましょう』
花丸
「光くん、岩を押すぞ!」
光
「はい!」
2人で力一杯岩を押す。すると背後から地縛霊達が追ってきた。
花丸
「はぁ、はぁ、光くん! 力を入れ続けろ!」
光
「ファイト、…オー!」
花丸は錫杖で威嚇しつつ、岩を押し続けた。ガゴォンと大岩は横に倒れ、人が通れる隙間が出来た。
花丸
「行け行け! 先に進むんだ!」
光
「はいっ!」
2人で奥へ進み、祀られている像の場所まで辿り着く。周囲に人骨があり、物々しい雰囲気が漂っている。直ぐ様錫杖を突き立て、像を破壊する。
光
「わぁ、、!」
バラバラと崩れる像に、光は目を白黒させながら驚いていた。
花丸
「洞窟村の方へ戻らなくちゃな…。絶対に僕から離れるなよ!」
光
「はい! 絶対、ぜーったい離れません!」




