第12話 ラプラスの悪魔
モノレールは数時間後に目的地へたどり着く。
山茶花
「花丸教授。到着しましたよ」
花丸
「…う、寝てたのか」
光
「4時間くらいでしょうか?大分掛かりましたね」
花丸
「…4時間…?ノンストップのあの速度で4時間か…。そんなに離す必要があるのか?」
山茶花
「座標はお教え出来ませんが海の中とだけ。ここまで侵入する人物はそうはいませんね」
花丸
「侵入者対策なのか…?」
山茶花
「それもありますが各国に支部がありそこからここへ来るように地下から通路を引っ張ってます。すごいでしょう?財団だからなせる技ですね」
モノレールから下車する。
花丸
「さっきと同じエレベーターがあるな」
山茶花
「中へ入れば驚きますよ。海上まで続く長い研究施設になっております」
花丸
「へぇ。海上プラントみたいなものか?」
山茶花は指をパチンと鳴らした。
山茶花
「お察しがいい!実は海上プラントと銘打って海中には研究施設があるのです。【表には公表されない研究施設、それがこの場所です】」
光
「…なんだかとんでもない場所へ来てしまったみたいですね。私達が外部に漏らさないか心配ではないのでしょうか?」
山茶花
「研究施設内の物は基本的に持ち出し禁止ですし、例え情報がリークされたとしても外部から捜査が入ることは不可能です。更には周辺にいくつも海上プラントがあり、そのどれか特定することは至難の業でしょう」
花丸は携帯を開いてみた。しかし圏外であり更にはGPSも使えなかった。
山茶花
「ふふふ。残念ですがどのような電波も通じないようジャミング波を出しています。携帯や発信機なんかも使用することは出来ないでしょうね」
花丸
「抜かりないな。人体には影響ないのか?」
山茶花
「ええもちろん。職員の安全性、生活環境は保証されております。ただ携帯電話を使えない生活が続くと思われますのでそこら辺はご留意頂きたいですね」
花丸
「光くんは大丈夫か?君はSNS中毒ではないのか?」
光
「何を藪から棒に。中毒じゃありませんし!」
光は花丸の肩を軽くパンチした。
エレベーターに乗る。すると海中の様子を見ることが出来た。
光
「えっ!外が見える。…すごい」
花丸
「どうやら魚は全然いないみたいだな」
山茶花
「砂と岩ばかりですね。たまーにクジラがいたりするくらいでしょうか」
ボタンを確認すると最下層の地下3階から上に10階層まである。エレベーターは6階に止まった。
山茶花
「さぁ着きました。ここです。ナイトダイバースコープがある研究施設です」
花丸
「ついにか…」
光
「ナイトダイバースコープ?マテリアルスコープではなくてですか?」
山茶花
「詳しい説明は機械の前でさせていただきます。それではどうぞ」
山茶花はナイトダイバースコープがある研究施設へ2人を招き入れる。
バスユニットのようなものがいくつも並んでおりその手前に椅子が用意されている。更に中心には人1人入れる位のポッドがありマテリアルスコープのヘッドセットが取り付けられている。
花丸は唖然とした。これを持ち出すことは不可能だ。完全に技術は奪われ改良を施されてしまった。花丸は落胆したが目の前の機械に深い興味を抱いていた。
花丸
「…仰々しい機械だな…。あの真ん中にあるポッドの中に入った人間の精神世界へ行くのか…?」
山茶花
「そうです。順に説明していきましょう。真ん中のポッドがメインコックピット。対象の精神世界へ入る試みをするためのものです。そしてこのバスユニットのようなものと椅子はですね」
山茶花はバスユニットの近くへ行く。
山茶花
「この椅子に座っている人間の意識をバスユニットの人間に通して、メインコックピットへ意識を【投影するのです】。つまりは椅子に座るものが精神世界へ入るために【眠りながらバスユニットに入っているもの、スコープを通して】メインコックピットへ意識をインストールさせるのです」
花丸
「…え、はぁ?その寝ている奴の意識はどうなるんだ?つまりバスユニットに寝ている奴はスコープになるってことか…?」
山茶花
「寝ている者の意識はありません。簡単に説明しますと、椅子に座るものはバスユニットに寝ているものに【乗り移って】メインコックピットの精神世界へログインするのです。でないと寝ている状態で意識を保つことが出来ません」
花丸
「…え?ふぅん…。なるほど、マテリアルスコープと原理は同じだが、精神そのものを移動させるには人間そのものが必要になるってことか…。とんでもないものを作ったな」
山茶花
「このプロジェクトはずっと前からあったものでして。そこへ花丸教授のマテリアルスコープの技術が組み合わさりナイトダイバースコープへと進化させることが出来たのです」
山茶花は花丸の手を握った。花丸は渋い顔をしながらとりあえず握手を受け入れる。そこへ誰かが入ってくる。
花丸
「…ん?あっ!あんたは!!」
花丸は驚いた。そこにいたのはあの男、倉柿 冬之助である。向こうも驚いており少し後ずさった。
花丸
「もしかして、ああ、あんたが盗ったのか!?マテリアルスコープを!!」
倉柿
「ふ、ふん。人聞き気の悪い。マテリアルスコープは一時的に没収されただろう?安全性を確認した後返却される予定だったんだ」
花丸
「…ヤロー…。ここに持ってくるとなると話が変わってくるだろうが。結局別の機械を作るために利用されてるじゃねぇか。あんたそういうやつだったんだな!」
花丸は倉柿に詰め寄ろうとする。しかし花丸は山茶花に止められる。
山茶花
「お気持ちはお察しします。ですが今は抑えて」
山茶花はニコニコしながら花丸を見た。その後に冷ややか目で倉柿を見つめる。倉柿はそれに気付き罰が悪そうに目を逸らす。
山茶花
「さてここからが本題です。実はこのナイトダイバースコープを使ってあるものを探す目的があるのですよ」
花丸
「え?あるものを探す?精神世界へ入って探し物をするのか?」
山茶花
「そうです。ラプラスの悪魔、ご存じですか?」
花丸
「ラプラスの悪魔…?知らないぜ」
山茶花
「そう、ラプラスの悪魔。人類の記憶の貯蔵庫、またはアカシックレコード。過去、現在、未来全ての記憶を貯蔵する世界図書館を探す為に、無意識の底の底へダイブする目的が我々にはあるのです!」
花丸
「…アカシックレコード。そんなものが本当にあるのか…?」
花丸は背筋に冷たいものが伝うのを感じた。人類が内包する深淵の部分、今自分は内なる神の存在に触れようとしている。