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悪辣令嬢vs.

作者: 猫側縁

シリーズ的な感じでポロポロ書きます。


【本編】その1 vs.自称被害者




「シェルニー・シュヴェリテ。その美貌は確かだが、性根は悪辣と言わざるを得ない。貴様は、その容姿で幾人もの令息を騙し、兄妹たちを罠に嵌めるだけでは飽き足らず、実の弟を殺して爵位を簒奪しようなどとは…言語道断だ。

何か申し開きがあるか」


……とんだ茶番を仕組んでくれたものね。


広間の少し高い壇上で、王子殿下は良い君主の面持ちで柔らかく笑み、ゆったりと椅子に腰掛けて、私を見下ろしている。その数段下…私よりも一段高い場所で、私の罪状とも呼べない罪状を得意満面に言い連ねたのは、確か元婚約者。


広間には元婚約者候補達や自称被害者や牢屋に入っているはずの異母兄妹達が並んでいます。どうやってこの場にこれたのか知りませんが、私に恨みしか持っていない人間ばかりと言うわけですね。殿下は今の所どちら側なのかは分かりかねますが。


まあだからと言って、なんだと言う話。


「具体的には?」


私の笑みが剥がれないのが悔しいのか、もちろん気に食わないようで、皆口々に


「私はお前のせいで婚約者と別れることになった!」

「僕なんて家から縁を切られたぞ!」

「お前と結婚すれば侯爵になれると言っていただろうが!」

「私が婚約者を奪ったから報復したのでしょう!?」

「お前とお前の母親が父上を騙して僕らを追い出したんだ!」

…etc.


…ふむ。成る程。


「私は元婚約者の責任として、貴様をこの国から遠ざけるべきだと判断し、今回お忙しい王子にも公平な見届け役としてご臨席賜ったのだ!感謝するがいい!!」


……勝ち誇ったその顔、踏みつけて差し上げましょうか?私が本日使用している靴のヒールですと、どことはいいませんが踏み間違えたらサクッと刺さって失明しますが。


未だに寝言ばかり呟いている方もいますが、私はその場でその瞬間を待ちます。皆が呼吸の為に開ける一瞬の無音の時間を。その一瞬に私はなるべく大きく響くように手を叩き合わせて一度鳴らす。

驚いて黙り込む皆の顔に、後で絶対一発食らわすと心に決めて、いつものように笑う。自称婚約者と被害者の何人かが腰を抜かしましたね。愉快。


「皆様………馬鹿ですか?」

「「「……え?」」」

「私は、具体的に私が何をしたというのかを、そちらのウィンリール令息に伺っただけで、あなた方に聞いた覚えはございませんわ。それに…皆が同時に何か言っても、何を言っているのかわかりませんし、殿下の御前で雑音の大合唱をするのは余りにも無礼では?

……ああ!誰よりもその御心に配慮すべき殿下の前にも関わらず、そのご存在を忘れるほど私に夢中でしたの?そこまで強く私の事を想っていただけるなど光栄ですわ。感動を通り越して不愉快ですけれど」


殿下の御前と思い出して沈黙しますが、再度私に噛みつこうとしている意思が見えます。是非ともへし折ってついでにその鼻先もへし折って差し上げたい。…実は私の現婚約者が、協力する代わりに報酬も半分ずつというので、当初私が予定していた報復……仕返し……御礼を半分ほど妥協いたしました。…楽しみにしてたのに。


「っ……貴様の口車に乗せられはしない!

いいか、よく聞け。貴様は、先ず数々の令息達を侍らせて、悉くその婚約者との仲を引き裂いた!」

「あら…では、その次は?」

「それでは収まらず、令息らは皆家から縁を切られた!」

「へえ。それで?」

「第五夫人令嬢風情が自分と結婚すれば侯爵になれるなど甘言を垂れた!」

「はぁ、それから?」

「身分と輝かしき栄光に固執し、半分とはいえ血の繋がった妹を、婚約者である私を愛していたが故の嫉妬で醜くも虐め抜き、兄妹達を次々と罠に嵌め、無実の罪で追い出した!!」


勝利と正義は我が手にあり。…とばかりの態度。…勝利も、正義も、容易く裏返るというのに。まあ、裏返した結果がこの場ですが、あくまでも裏返しただけで、かけらも覆せておりませんが。


「その理由と証拠は?」

「理由など無くてもやるのがお前だろう"悪辣令嬢"が!これだけ被害者と証人がいて逃げられると思うな!」


呆れた。やはり、私の婚約者には、相応しくなかったわね。今世では、私では無くあの異母妹(いもうと)に早々に押しつけておいて本当に良かった!


「動機のない犯罪者などいない事を、貴方方が1番ご存知でしょう?

そちら1番奥から手前に5番目までのルセ子爵令息を筆頭に三男以下の方達は、ご自身の成人後の為、大金を欲したが故にご自分の婚約者に隠れて私に接触し、…余りにもあり得なすぎて笑えますけれど、私を?恋の奴隷(笑)に?しようと頑張ったみたいですし(笑)?

私の個人資産は其々の家の総資産を足しても釣り合いが取れないほど莫大ですもの。パトロンにでもして、私を財布がわりにしたいから侍っていたのでしょう?

私、一度も名前を呼んで差し上げたこともありませんでしたが」


ああ御安心を。元婚約者の方々については、私がより良い縁をご紹介したこともあり仲は良好ですよ。あんな金に目が簡単にくらむクズと別れる正当な理由ができて良かったって。婚約者の方々、大喜びです。と、教えて差し上げると、…あらあら膝から崩れ落ちて顔も上げられないほどお喜びですわね!元婚約者の方々に見せて差し上げたい!


「次に…縁を切られたのは当然でしょうね。何せ婚約とは家と家の利益のための契約。それをぶち壊しにした挙句、その鬱憤を晴らさんが為に私に脅迫文や贈り物と称して有毒生物を送りつけてくるのですもの。家の得にならない穀潰しを、我が侯爵家を敵に回してまで守る労力が無駄でしょう?それに…寧ろ命があるだけ感謝して頂きたいものだわ。本当は頂いた毒蛇を飼い慣らしたので報告がてらこっそり枕元にお届けしようと思ったのに、ディル様…私の婚約者が貴方方の御父上に直接見せて差し上げた方がいいと言うから我慢致しましたの」


とても従順な子達なので、今呼べばすぐに出てきてくれますけどどうしますか?と、窓の外の芝生の辺りに視線をやりながら言えば何人かやめてと悲鳴に濡れた声をあげて逃げようとしました。腰が抜けて直ぐに床に這い蹲りましたけどね!


自称婚約者については、私の父親である侯爵が、『シェルニーと婚約すれば、侯爵位を継がせる候補になれる』とわざと流した噂に、権力と莫大な財産・広大で肥沃な領地に目が眩んで飛びついただけの、ただの馬鹿…失礼……ただの頭の悪い間抜けた阿呆達です。候補になれる、と言っただけであり、婚約を認めるとも侯爵家を継がせるとも全く言っておりません。ただの石の飾りに釣られた魚です。


「私、その様な面白くない話は嫌いでしてよ。私と婚約した方が侯爵になるのではなく、侯爵位は私のものになるのです。譲るだなんてありえない。だから婚約者候補としてすら、私は貴方方を選んでいない。それを勝手に婚約者気取りしたのは何処のどなた?私は、何も頼んでいないのに、勝手に物を送りつけてきたのは?どこのストーカーかしら。気色悪い。治安隊に捕まるのは当然でしょう?」


はい、残り異母兄妹を除いて撃沈。時は金なり、次に参りましょ。


「婚約者を奪われた?何言ってるの?この元婚約者が嫌だったし貴女が欲しそうにしていたから嫌々手紙を送って偶に呼び出して、貴女が近付きやすいようにしてあげたんじゃない。元婚約者の気が変わって貴女がお好みになれば私はこの勘違い男…元婚約者と別れられる。しかも、家の得られる利益はそのまま!感謝こそすれ、貴女を虐める意味が分からないわ!…ああでも、貴女達としては、想い合っている恋人同士を引き裂こうと画策している悪女が欲しいのかしら?じゃあやってあげてもいいけれど、もし本当に私が貴女達に嫉妬する女なら、貴女達の事くらい未来永劫行方不明にしてるわよ?辻褄合わせに明日には息をして居ないかもしれないけれどその辺りはご愛嬌ね?…あらやだ。ドレスを引き裂いたり汚したり、贈り物を奪ったりだなんて嫌がらせ程度が私の仕業と?はあ、私が動いてその程度しか出来ない・しない訳無いでしょう!?三流悪役でもあるまいし。これだから私の容姿に釣られただけの頭の軽い令嬢令息は嫌ですのよ」


どいつもこいつも、全くもって、私の事を、"悪辣令嬢"という呼び名の真髄を理解していない!


「……ディル様とは大違い」


どんなに酷い事をしてでも目的を成し遂げるから、私は悪辣令嬢とまで呼ばれたのよ。それを理解していない者達に、悪辣と呼ばれる筋合いはないです。



「……じゃあ誰が虐めたのか?そんなもの、調べればすぐ分かるでしょう。私に頼るな。

貴女達が当家を追い出されるのも自業自得の賜物でしょう?私は、当家のプライドにかけて、一族の恥を取り除く為に貴方達の悪事を白日の下に晒し、民意に、当家の代表に、法の守護者達に正しい判断を委ねただけですわ」


私は、貴方方と違って、法を犯すこともしていない。


「侯爵家を守った私に、何の落ち度がありまして?」


正義は我が手にあり。

これを覆せるならやってみせてもらいましょう。


「私より余程醜態を晒してきた貴方方に、私を悪辣と呼ぶ資格はありませんわ」


異母兄弟達も撃沈。

早めの追い討ちが効果的なので、どうせならこの場でもう一度くらい正論パンチ、もしくは精神的ダメージを食らわせてやりたい。…その為には。


放置していた元婚約者…ウィンリール令息を見据える。


「……とまあ、この様な具合に、動機には理由がありまして、それに付随して結果がございます。

先程口々に貴方方が述べた事は、私の齎した結果であって、具体的に私が【いつ、どんな事を、どのように行ったか】ではありませんのよ。私の問いかけにまともに答えられないなんて……学園に何しに通っておりましたの?

…それから、私が、いつ、貴方のような方を愛したと言うのかしら」

「え…?」

「私、強引に当家の侯爵が惹かれるような条件を突きつけて、…もう過去の事ですが私の婚約者に収まりやがった貴方のことを恨みこそすれ、愛するだなんて、そんな…!そんな虫唾が走るような事がよく言えましたわね」


気色悪いにも程があるわ。程度を知りなさい程度を。


「私が一度婚約を受け入れたのは貴方を愛しているからだとでも思ったの?思い上がりも甚だしい…。言ったでしょう?婚約とは家と家の利益になるもの。私は侯爵が決めたことでしたから従ったに過ぎません。私、追いかけがいのない男は全くタイプではございませんの」

「っ…!で、殿下、あの女は未だ自分のした事に対して反省の兆しすらありません。それにあの女は弟殺しをしているのです!この国で自由にしておいて何が起こるか、考えただけでも恐ろしい!そんな我々に、負けてはいけないと力を貸してくれた方々の為にも、我々がどうすべきかご意見をいただけませんか!!」


笑みを浮かべたままの殿下に視線が集まる。縋り、媚びのような視線を向けているお馬鹿達。この部屋に入ってからずっと沈黙していた殿下が口を開いた。


「……とりあえず、シュヴェリテ侯爵令嬢が弟を殺したと言うのはあくまで噂だ。証拠もない事を私の判断で罰させようとは片腹痛いな」


殿下の目が笑っていない。まあそれもそうですわね。このような時間の無駄、忙しい殿下のお時間を頂いて行うことではございませんもの。


「も、申し訳ございません。大臣達が至急牢の鍵と彼らを逃す時間を私にくださり、私も急いでこの場を整えましたので、物証などは今手元になく…「誰に逃してもらったって?」え……あっ…!」


大臣達が、至急、逃してくれた?…へぇ?


「道理で。私は君たちを牢の外に出すという知らせは受けていなかったから、不思議に思っていた所だ。しかし、…正規の手続きを踏まずここに君達がいるのは事実。つまり君達は脱牢犯と言うことになる。一つずつ、正しい判断をするとしようか」


殿下が手を挙げて合図すると衛兵達が現れ、令息達を拘束していきました。あら、その手際の良さいいわね。縄の扱いに長けてらっしゃる。うちに1人欲しい。


「で、殿下…!何故?わ、わたしは罪人ではございません!」


ウィンリール伯爵令息がそう縋るように言いますが、殿下は不思議そうに言います。


「だって君、正規の手続きを踏まずに彼らが牢から出ている事を知っていたのだろう?というか君が逃した訳だ?

法の…つまりは、王の決定に違反した。これは立派な犯罪だろう?けどその無謀と無茶な心意気は認めよう。既に物証もあるようだから、各家にわたしの名前で調査隊を送る。その結果も加味して、シュヴェリテ侯爵令嬢が裁かれるべきと判断したなら、君達と同じ場所に送るとしよう」


連れて行け。と、殿下は言い放つ。ウィンリール伯爵令息は嫌だ嫌だと喚きます。あらあらそんな駄々っ子のように…。認められないのがそんなにも悔しかったのね?…あ。


「殿下、発言をお許しください。

私、そちらのウィンリール伯爵令息に一つお礼を申し上げたいのです」


殿下は首を傾げたものの、発言を許してくださいます。では早速。

なるべく近づいて、その顔をよく見ます。…うん、やっぱりタイプじゃないわ。愛嬌のある顔立ちですけれど、私精悍な顔立ちの方が好きですし。……まあ、現婚約者の顔立ちも精悍というよりは凛々しいですが。


「1つだけ、感謝申し上げますわ。

貴方の発言のおかげで、私自身が各家の悪事の物証を探して報告する手間が省けました」


呆然としたその表情に少しだけ気分がよくなりました。ならば笑顔で見送ってさしあげなくては。


「未来永劫、さようなら」


読了ありがとうございます。

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