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クオリア  作者: ❁ゆずはる❁
9/12

■チャプター8 「ワープ」

「.......ろ。トーノコ。おい」

まどろみ。私は意識がはっきりせず、起きているのか眠っているのか分からない。何やら声が聞こえるが、よく聞こえない。耳が受け付けてくれない。聴覚が働かない。私の体はもう少しこのまま気持ちよくまどろんでいたいのだ。しかし、鼻だけは違った。嗅覚が突然覚醒し、私ははね起きた。

「この匂いは....パスタだー!しかも私の好きなペペロンチーノじゃん!!」

「うおっ!?」

ニンニクの香ばしい香りがする。唐辛子のスパイシーに香りと混ざりあって、私の食欲を全開にする素晴らしい香りだ。何度かいでも飽きないこの香りはペペロンチーノしかない!!

ペペロンチーノを探そうと頭を動かすと、目の前で瑠璃宮が目を白黒させて驚いていた。

「.......何度呼んでも起きなかったのに全く、人間の食欲は凄いものだな」

瑠璃宮は呆れて笑った。よく見ると、彼は小さな子供用の青いストライプが入ったエプロンを身につけていて、シャツとセーターの袖ををまくっていた。ブレザーはリビングの扉のドアノブにハンガーが引っかけられ、肩掛けカバンと共に静かにぶら下がっていた。

キッチンには台が置かれており、瑠璃宮はそこで料理をしていたという事実を物語っている。.......小さな体で、小さな手で。まずい。ちょっと可愛いと思ってしまった。でも怪我はしていないだろうか。火傷は?包丁で指を切ったりは?

なぜか親目線で心配してしまう。

「.......な、なぁ瑠璃宮。体は無事かよ?怪我してない?大丈夫か?」

「はぁ?僕が料理して怪我をするわけがないだろう。小さいからって馬鹿にするな。僕は天才なんだからな。来年からは小学生だぞ」

瑠璃宮はエプロンを外しながら言った。

最後の言葉でさえも少しキュンとしてしまう。小さいのに頑張ってる瑠璃宮を見て愛おしいと思ってしまった。別に変な意味はない。ただ、息子の成長を見守る母親のような気持ちになってしまうのだ。母親になったことはないが。

「何してる。料理が冷める。早く食べるぞ」

「あ....おう!」

私はソファから立ち上がり、テーブルに向かう。私はテーブルの上に置かれた料理に、目をキラキラと輝かせた。主食のペペロンチーノに副食の野菜サラダ、そしてパスタの辛みを緩和するかぼちゃスープがそこで私を待っていた。

「す、すげー!!」

「冷蔵庫にあった材料で適当に作った。若干手抜きだがまぁいいだろう」

「手抜き!?とんでもないです幸せですありがとうございます」

私は彼に心から感謝し、手を合わせて拝んだ。

「大袈裟だ。このくらい誰だって作れる。作れない方がおかしい。以上」

瑠璃宮は無表情でそう言い放った。耳が痛い。料理は苦手だからだ。とりあえず私はもうお腹が空いて死にそうだったので食べ始めることにした。

「いただきます!」

「いただきます」

時刻は十五時を廻っていた。もはやおやつの時間だ。私は大好きなペペロンチーノに目をつけ、フォークを刺して巻いてすする。唐辛子のピリッとした辛みとパンチの効いたニンニクの奥深い味わいが口の中を支配していく。.......なんだこれは。今まで食べたペペロンチーノの中で一番美味しいではないか!

「瑠璃宮!これ美味しい!めちゃくちゃ美味しい!ヤバい!」

「当然だ」

瑠璃宮は野菜サラダをシャクシャクと噛み砕いて飲み込んでからそう言った。

彼が嫁に来てくれればいいのにと思ったのは置いといて、とにかく瑠璃宮の料理は最高だった。

サラダはドレッシングすらも作ったらしい。野菜の新鮮な歯ごたえとみずみずしさを殺すことなく野菜本来の甘みを引き出し、苦味をカバーする。かぼちゃスープはまろやかでホッとする甘みが口の中に広がり、体も温まり心の栄養にもなった。ゴロゴロと入ったかぼちゃも嬉しい。


「ご馳走様でした!」

全て食べ終え、私は余韻に浸る。本当に美味しかった。なぜ美味しいものはすぐになくなってしまうのだろう.......。

「ご馳走様でした」

瑠璃宮も食べ終わり、食器を片しにキッチンへ向かう。私も慌てて立ち上がり、食器を持って瑠璃宮の後を着いて行った。瑠璃宮が台に乗って洗い物を始めようとするので思わず引き止める。

「ご飯作ってもらった上に皿洗いまでやらせるわけにはいかねぇから、私がやるよ」

「いい。アホなお前より僕の方が上手いし時間もかからない」

「そうかもしんないけどさ....ってアホ言うなアホって!」

私は瑠璃宮に皿洗いを任せることにし、再びソファに座る。.......何しにここに来たんだっけ。ご飯を食べに来たわけじゃない気が....そうかこの家がマークされていたんだっけ。ここに必ず何かあると確信して来たんだった。

リビングを見回しても特に変わったところはない。変わったことと言えば天才幼稚園児が洗い物をしているくらいだがそれは関係ない。だとしたらこの部屋ではないどこか.......。

カチャカチャと瑠璃宮の皿を洗う音と、時計の針が1秒刻みでカチカチと忙しなく動く音で再び眠気が襲ってきた。いけない。ただでさえすで居眠りしているときに瑠璃宮が料理をしてくれていたというのに、洗い物までやらせて私だけまた休むなんて流石に申し訳がなさ過ぎる。

私は瑠璃宮の皿洗いが終わるまででも良いからせめて何か進展させられないかと思い、バッグを持って立ち上がった。と、同時にキッチンシャワーの音が止まる。

「終わったぞ」

「いや早!?」

いや私の行動が遅いのか。

瑠璃宮はタオルで手を拭き、台から降りてハンガーからブレザーと肩掛けカバンを手に取った。

「よし。では腹ごしらえも済んだし、この家を探索するぞ」

「あ....ああそうだな。でもどこから探索すべきか.......」

「目星は付いている。お前の部屋だ」

「っえ、私の?」

なぜ私の部屋なんだ.......?

「なぜ他の人の家ではなく、お前の家がマークされていたのか。それはきっとお前自身が原因だ」

「私自身が.......原因?」

「ああ。お前の部屋はお前が毎日過ごしてる場所。一番お前に近いプライベートな場所だ。つまり、お前自身みたいなものだろう。お前の部屋に行けば何かわかるかもしれない」

「なんかよくわかんないけど....分かった。行ってみようか!」

なぜか瑠璃宮が浮かない表情をしている。私がいろいろやらせてしまったから疲れているのだろうか。

「ん、大丈夫か瑠璃宮?休憩した方がいいんじゃ.......」

「平気だ。行くぞ」

瑠璃宮はいつものキリッとした表情に戻り、私の前をスタスタと歩く。

「あっ瑠璃宮。私の部屋は二階の階段を登ったらすぐ左にあるから」

「了解」

瑠璃宮は私の案内通りに、私の部屋に向かうため階段を登った。なぜか彼の足取りが重いような気がする。いつもなら堂々とした態度の瑠璃宮が今は何か思い悩んでいるような....そんな気がした。

二階につき、私の部屋の前で瑠璃宮は立ち止まった。

「....トーノコ」

「ん?なんだよ急に」

彼の表情は見えない。だが声色はとても暗く沈んでいた。

「何があっても....驚くなよ」

「.......?」

一体どうしたのだというのだろう。先程から彼の様子がおかしい。

「.......何もないといいな」

そう言って瑠璃宮は思い切り私の部屋の扉を開けた。まだ私は心の準備が出来てないというのにこいつは....。というか最後の言葉はなんだろう。とりあえず、私は恐る恐る自分の部屋を覗く。するとそこはいつも通りのなんの変哲もない部屋.......と見せかけて、私のベッドの上に宝箱が置いてあった。見覚えがある。これは確か....朝クラスメイトを殺したあと教室を出て、学校を出ようと中央階段に向かった時に見つけたものと一緒だった。

「なっなんだこれ。一体何が入ってんだ?」

私はベッドに駆け寄り、宝箱を開けようとする。

「待て」

いきなり瑠璃宮が私を引き止めた。

「何?」

瑠璃宮が酷く切ない顔をして私を見つめた。

「それを開ける前に1つ確認したい」

「ん、確認?」

彼は躊躇って、だけどすぐに私に訊いた。

「どんな真実が待っていても、我々は共に戦った仲間だ。僕はお前を見捨てたりしないし、どんな運命でも受け入れる準備は出来てる」

「う....うん?それはわたしもだけど.......」

突然の瑠璃宮の言葉に感動を覚えてしまった。そんなふうにちゃんと仲間だと思ってくれていたなんて。口は悪いし性格も偉そうだし、ムカつくところもたくさんあるけど結構仲間思いなんだな。こいつは....。

「....では、開けろ」

私は彼の言動に疑問を覚えたが、頷いて宝箱に手をかけた。金色に輝く留め具を外してゆっくりと蓋を開ける。すると中は全て紫色に染まっており、中心から渦巻いていた。これは....ワープゲート!?

瑠璃宮が横からワープゲートに手を突っ込んだ。そして同時に私の腕を掴む。

「ちょ!?瑠璃宮!?」

その瞬間、瑠璃宮と私の体はワープゲートの中に勢いよく吸い込まれていった。

■チャプター8 「ワープ」 クリア■

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