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クオリア  作者: ❁ゆずはる❁
8/12

■チャプター7 「データ」

私はスマホの画面を目を擦りながら何度も見返す。間違いない、正真正銘私の家だ。表札には『鴇子』と記名されている。

「何?トーノコの家だと?なら話は早い。早く案内しろ」

「分かった....。でも、私の家に一体何が?」

「知るか。それを今から確かめに行くんだろうとんちんかんが」

「いつもいつも一言多いんだよ!!と言うかさっき私の家を小さいって言ったこと忘れてないからな!!」

やっぱりこいつの言葉選びは怒りを通り越してもはや尊敬さえ覚える。もちろん皮肉だが、よくもまぁそんな人を罵り、怒らせるためだけに時間を割けるよな....全く。

「事実を言っただけだ。小さいものは小さい。それだけだ」

「三階建てだぞ!?それに、周りと比べたら大きい方だし!」

「僕の家の四分の一くらいだな。」

「いやデカ!?それお前の家がデカすぎるだけだからな!?」

こいつ....やはり見た目だけじゃなくて本当におぼっちゃまなんだな.......。どんな家に住んでいるのか、両親のことも知りたい。私たちは歩きながら私の家に向かう。アパートの階段を降り、地上に出た。ここからそう遠くはない。その間に聞いてみよう。

「なぁ瑠璃宮、お前の家や家族のこととか興味あるんだが....」

「特に教えることはない」

「例えば、どんな家だとか両親はどんなとか兄弟はいるのかとか.......」

「知らない」

「いや知らないことはないだろ自分のことだぞ!?そもそもお前が何モンでどっから来たのかとかいろいろ気になって仕方ねぇんだよこっちは!」

突然瑠璃宮の足が止まった。私もつられて立ち止まる。なんだ?

「.......知らないんだ」

「は?」

「僕がどこに住んでいたのか、家族構成はどうなのか、どんな家だったのか、....全部知らない。データがない」

「えっ、で、でもさっき部屋でドローン操作してたとか、僕の家はお前の家の約四倍みたいなこと言ってたじゃねぇか。」

瑠璃宮は思い詰めたような顔をして俯いた。

「....そこの部分しか知らないのだ。僕がこの世界に飛ばされる直前の記憶と、僕の住んでいた家の外見や周りの景色などは断片的にしか覚えていない。一応自分の名前や年齢、僕がどんなことが得意で趣味は何だったのかはかろうじて覚えているが、それ以外の記憶が一切ない。それどころかデータが部分的に削除されているような....。まるで、そんなもの最初から存在しなかったみたいに」

「えっ.......」

「僕も自分がよく分からない。どこから来たのか、誰にどんな風に育てられてきたのか、僕は一体なんなのか。本当に僕は『瑠璃宮藍』で、本当に幼稚園児なのか。本当に得意なことや趣味が僕の記憶のものなのか。色々な人のデータを無理やりツギハギ合わせたようにも思える。自分が本当に存在していた人間なのかも疑わしい。ただ確実に分かることは一つだけ。僕が天才なことくらいだ」

衝撃だった。瑠璃宮は自分がなんなのかよく分からないにも関わらず、それを一切表に出すことはしなかった。むしろ『これがいつもの自分だ』と言わんばかりの言動をしていたというのに。

自分自身のことなのに曖昧な記憶しか残っていないなんて、なんて不安なことなのだろう。

私は瑠璃宮のような記憶障害は起きていない。なぜ彼だけ記憶が曖昧なのか。.......言われてみれば確かに、彼は異質な存在だ。性格や言動に表情、頭や運動神経の良さなどを見ると、明らかに幼稚園児とは思えない。いやそれどころか人間離れし過ぎている。以前にもふと思ったことはあるが美少年で天才の幼稚園児となると、世界中の注目の的になってもおかしくない。いや、ならない方がおかしいのだ。こんな天才幼稚園児が実在したのなら、流石の私だって気付くだろう。

本当に彼は実在していた人間なのだろうか.......。

「そんなことよりトーノコ。なにか気付いたことはないか?」

瑠璃宮は再び歩き始めながら言った。

「なにか?うーん....特に何も」

と発言したあとすぐにハッとした。

「そうだ、お腹が空いていたのをすっかり忘れていた!」

先程栄養補助スナックを食べようとしていたのを思い出した。思い出した途端にお腹が鳴った。なんて素直なお腹なんだろう。瑠璃宮はそういった様子を見せていないが、空かないのだろうか?

「違う。お前の腹事情の話じゃない」

「えーじゃあ思い付かねぇよ.......。てかお腹空いた....冷蔵庫になんかなかったかな。家着いたら瑠璃宮にもなんか食わせてやるよ。料理できないけど」

「僕は料理が得意だから問題ない」

「よっしゃ!」

瑠璃宮の手料理か....どんな味なんだろう。こいつは完璧だから料理なんて簡単に美味しく作り上げてしまうんだろうな。

「話がそれた。お前は観察力が足りない。普通は気付くはずだ。サバイバルゲームで絶対に登場するものが今は我々の周りに一体たりともいない」

「?.......!?」

私は一瞬考え、一瞬で理解した。

「敵がいない.......?」

確かに言われてみれば、校庭を出てから一度も敵に遭遇していない。なぜ?

「そうだ。化け物は最初、学校以外の場所にもうじゃうじゃいたはずだ。なのに今はほとんどいない。いたとしても我々の周りには近寄ってこない」

「ほんとだ....どうして.......」

「それは分からない。この世界自体がバグっているから、エンカウント率にエラーでも起きてるのかもかもな。まぁいないに越したことはないだろう」

「そうだけどさ、そんな悠長に考えて大丈夫かよ?明らかに怪しいというかおかしいというか.......」

「この世界自体おかしいことばかりだろ。今まで散々衝撃受けてきたのに、敵が消えたくらいで驚きやしない」

「えぇ.......」

敵が居ない。それはいいことだし、こちらとしても大変有難いことなのだが、やはりなにか引っかかる。倒したわけでもないのに急にいなくなるんで.......。

「ここか?」

瑠璃宮が立ち止まり、ある家の前を指さす。いつの間にか私の家に到着したようだった。というか、私が案内するはずだったのに案内らしきことしてなかったな.......。

そう思いながら玄関に手をかける。心臓が大きく鳴りだした。いつもなら鍵はかかっておらず、「ただいまー!」と叫ぶとお父さんや先に帰宅していた弟が、「おかえりー!」と返してくれるはずだった。しかし、今はどうだろうか。こんなに家に帰るのが怖いなんて初めてだ。本来大事な家族に会えると言うのは幸せなことなのに。ここを開けたら何があるのか。私の大事な家族は.......?

早まる鼓動を押さえつけながら、私は意を決して扉を開けた。


「おかえりー!」

「おかえり恵」

「おかえりお姉ちゃん!」


私は目を見開き固まった。私の家族の声が聞こえた気がした。今となっては懐かしい。大事な大事な暖かい声だった。脳裏に父と母、弟の柔らかい笑顔が浮かんだ。私は思わず目に涙が溜まっていた。

「何してるんだトーノコ?早く入るぞ」

瑠璃宮は私を急かした。私は我にかえり、涙を指で拭きながら自宅に足を踏み入れた。

「ただいまー.......」

いつもの癖でそう口にしてしまう。返事はない。当たり前だ。しかし、化け物と化してしまった家族がこっちに集まってきたら?嫌だ。そんなの見たくない。

瑠璃宮はというと、玄関で靴を脱ぎ、振り返ると丁寧に靴を揃えていた。無駄に行儀がいいな.......。私も玄関を閉め、靴を脱いで揃えずに廊下に出る。瑠璃宮はスタスタと臆せずに廊下を進み、リビングの前で立ち止まる。

「.......敵の気配がしないな。お前の家族はどこに行ったんだ?」

私は内心ホッとした。大事な家族が化け物として襲ってくるなんて想像もしたくない。私は今朝化け物と化したクラスメイトを殺してしまったのだから。もう大切な人たちを失うのは嫌だ。だが、瑠璃宮の推理通りにここと私たちが元いた世界が別だというのなら、元の世界で家族は無事でいるはずなのだ。心配する必要はない。もしこの世界に家族がいても偽物だと思えばいいのだ。もちろんクラスメイトだって。

「....あー。お母さんは仕事で、お父さんは買い物とかかな?弟はまだこの時間は学校だからいないのは当たり前だな」

「ではなぜ鍵がかかっていなかった?お前の父親はいつもそんな感じだったのか?」

「! そうかもしれねぇな。お父さん、忘れっぽいというかドジというか.......」

「なるほど。お前の性格は父親似だということが分かった。」

「うるせぇ!!」

私は瑠璃宮を押し退けリビングの扉を開ける。

床にバッグを放り投げ、ソファにぐったりと体を預けた。やっぱり実家は落ち着く。なんだか眠い。私は安心するなり意識が遠くなっていくのが分かったが、止めることは出来なかった。

■チャプター7 「データ」 クリア■

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