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クオリア  作者: ❁ゆずはる❁
5/12

■チャプター4 「イベント」

私たちは学校から出て、安全な場所を探しに行くことにした。この学校はまだ外よりは安全だが、ここにいても状況は一向によくならないだろう。しかしその前にやりたいことがある。

「ちょ、ちょっと待て。まずは回復させてくれよ。救急キット無制限みたいなものなんだろ?あと、アイテム持てないから教室からスクールバッグ持ってくる」

「なんだ情けない。そのくらい縛りプレイとして楽しめばいい」

「ふざけんな!お前みたいにチート使えねぇんだわ!」

私は呆れながらツッコミを入れた。とりあえずまずは救急キットで回復をしよう。先程犬に噛まれた腕を見る。痛々しい傷跡が残っており、その時のことを思い出して背筋が凍った。

消毒をし、包帯を巻いて固定する。すると、不思議なことに怪我の痛みが和らいだ。だいぶ楽になった。いや、それどころか全く痛みを感じなくなった。なぜ?

「お。HPが全回復したな」

瑠璃宮が私の頭の上を見て言った。

「お前.......まさか見えるのかよ?」

「ああ。手に取るようにな。というか見ればわかる。お前の頭の上にHPと所持アイテムが記載されている。お前のHPはさっきまで87だったが今は100だ」

「えぇ.......」

そんなことも分かるのか.......。本当にもう、なんでもありだな.......。

「ちなみに敵のHPも見える。攻撃や避けるタイミングも」

「もう絶対負けねぇじゃん。」

「ああ。僕は完璧な人間だからな。負けるなど到底ありえない」

「じゃあこの学校全部探索したときも?」

「そうだ。HPが100あるかないかのザコしかいなかったから一掃するには楽だったぞ」

「そ....そうか。とりあえずスクバ持ってくる」

....本当は行きたくない。だって、私の教室には大事な『クラスメイトだったもの』がいるから。.......私が、殺した。

「どうした。行かないのか」

瑠璃宮が怪訝な顔をして聞いてきた。

「いや....行くよ。そこで待ってろ」

私は手をグッと握りしめて自分の教室へ向かった。後ろから瑠璃宮の「僕に命令するな」という声が聞こえたが無視して歩みを進めた。

自分のC組の教室はここからかなり近い。私はすぐに教室の前にたどり着いた。扉は先程私が開けっ放しにしていたのですぐに中の様子が伺える。そこで私は有り得ない光景を見て呼吸が止まった。

「.......!?」

そこにはただの教室が広がっていた。つまり、私が殺したはずの『クラスメイトだったもの』がいないのだ。まるで最初からそんなものはいなかったかのように。しかし、私がヤツに投げつけた黒板消しや、床や壁に飛び散った血飛沫が先程の出来事が夢でも幻覚でないことを証明していた。私は動揺して自分の正気を疑った。どこに行った?まだ生きている?それならどこに....

「何をしている」

「うわあ!!!???」

情けない悲鳴をあげながら即座に振り向くと瑠璃宮が冷たい目で見上げていた。

「なんだ。遅いから様子を見に来たら恐ろしいものでも見たような顔で石像になっていた挙句いきなり悲鳴をあげて。僕はうるさいのが嫌いなんだ。静かにしろメガネ」

「てめぇがいきなり話しかけてくるからだろうか!!しかも遅いってまだ二分もたってねぇだろどんだけせっかちなんだよ!!」

「二分は遅すぎる。三十秒で戻ってこい」

「無茶言うなよふざけんなよ!それより、お前この二階も全部調べたんだよな?なら、この教室にいた馬鹿でかい肉塊に手足や頭が生えたバケモン死んでなかったか?」

「馬鹿でかい肉塊に手足や頭が生えたバケモン?何を言っている。そんなもの最初からいない。いたら流石に気付くだろ。HPが13回復した代わりに知能が13低下したのか」

瑠璃宮の口の悪さに反応するより先に焦りが積もる。ヤツらがまだ生きているならまた命を狙われるかもしれない。 なら早く排除しなければ.......!

「何を焦っている。いないものは倒せないし襲ってくることはない。当たり前のことだ」

「いやいたんだよ.......。私が殺したんだ。このハンドガンで」

私は、見つけて使ってからずっと肌身離さず手に握りしめていたハンドガンを見つめた。クラスメイトのようなものの命を奪ったと同時に、私の命を守ったものだ。

「ハンドガン?随分弱い敵だな。そんな銃の中で一番威力が低く、女でも扱えるようなもので死ぬなんて」

「強い弱いとかの話じゃないんだ。だってそいつは...私の大事なクラスメイトだったんだから。クラスメイトの手足や頭が生えた肉塊だったんだ。私はそのクラスメイトだったものをこの手で殺したんだ。確かにこの手で。絶対に」

「クラスメイト?どういうことだ?突然クラスメイトが合体したとでも言うのか?」

「いや、私が1度教室から出て戻ってきたらさっきまでいなかったはずのバケモンがいたんだ。しかもただのバケモンじゃなくて、クラスメイト全員の顔と手足が生えた.......」

「.......」

瑠璃宮は少しの間考え込み、そして口を開いた。

「....僕が2年C組に来た時はなにもなかったけどな。お前がそこまで言うなら信じてやらんこともない。だが、いないとなるとまだ生きていることは容易に想像が付くな。また襲われるかも知れないから用心しておけ」

「お前もな!」

「僕は完璧だから心配ない。死角などない。無敵だ」

「あーはいはいそうだったなー。とにかくスクバスクバ.......。」

私はあの『クラスメイトだったもの』が消えたことにより妙な胸騒ぎを覚えたが、とりあえず自分のスクールバッグを取りに行くことにした。窓際列の前から三番目の机.......そこが私の席だ。中を見ると教科書やノートが数枚入っている。そして、机の横のフックには見慣れたスクールバッグが引っかかっており、私は持ち手を掴み素早く腕を前から後ろに傾けバッグを一回転させ、手首ごと肩に引っかけた。

「なんだその男みたいな持ち方は」

後ろから瑠璃宮が死んだ目で問いかけてきた。

「うるせぇこれが私の登校スタイルなんだよ」

私は長いポニーテールを揺らし、スカートを翻して教室から出る。A組とB組の教室の間くらいのところに瑠璃宮が私にくれたアイテムが乱雑に散らばっている。私はそれをかき集めてバッグに放り込んだ。

「はぁ....。行きたくない」

「ならここで為す術もなく野垂れ死ぬか?」

「嫌だね」

そう吐き捨てて私が瑠璃宮より先に歩きだそうとすると後ろから「待て」と声が聞こえた。

「なんだよ」

「僕より前を歩くな。この僕を後ろに連れて歩こうなど言語道断。お前は黙って僕の後をついてろ」

偉そうな態度にまた頭に血が上ったが、待てよ。逆に考えればこいつを盾にして逃げれるし戦闘は任せればいい。こいつは強いんだ。私はただついていくだけなら楽ちんじゃあないか。私はこっそりとほくそ笑んだ。瑠璃宮は自ら危険な目にあおうとしているのに気付いていないのか。やはり、まだまだお子ちゃまだな。

「そうだね、じゃあ前はお前に任せるよ」

私が瑠璃宮の後ろに回り込むと、

「僕を利用して自分はなにもしないつもりだな?」

瑠璃宮が振り向かずに言った。ビクッと体が揺れ、顔が引き攣る。くそっ、なぜバレたんだ.......。

「僕は完璧な人間なんだからお前が何考えてるかくらい分かる」

「チーターってより超能力者じゃねぇか。少年漫画の主人公かよ」

「とにかく、僕は前を歩いてお前に命令するから僕に従え。従わないなら敵ごとお前を爆破させる」

「えぇ.......」

支離滅裂過ぎるだろ。どれだけこいつは理不尽な奴なんだ。私はイライラしつつもこいつの後について行った。

階段を降りて昇降口に向かう。時刻はまだ昼前くらいのようで、明るい日差しが差し込んでいた。下駄箱から自分のローファー....ではなく、運動靴を取り出した。歩きづらい靴よりも部活で履きなれた靴の方がいいだろう。上履きから運動靴に履き替え、外に出た。

瑠璃宮が目の前で腕を組みながら仁王立ちして外を眺めている。私も外を見た。朝学校に登校する時に見た空と同じで、今日はよく晴れていた。でも.......。

広い校庭はいつもの面影を残していなかった。校庭は砂がベースのグラウンド。芝生で出来たゾーンや土で出来たゾーンもあり、部活や学校のイベントなどで使い分けていた。そこで生徒は朝練をしたり、体育祭を行ったりと生徒にとっては馴染みのある場所だった。しかし今はところどころに血飛沫が飛び散っており、地面がぐちゃぐちゃだった。化け物たちの体の一部みたいなものが校庭を汚く飾り付けしている。また、見たことのない化け物達が何体か歩いており、まさに地獄絵図だった。

「チッ。全員片付けたと思ったらまだ生きている奴がいたか。全く、どこから湧いてきたんだ」

瑠璃宮が舌打ちをして小さな何かを遠くに放り投げた。そしてマイクのようなものを取り出し、近くの花壇の裏に隠れる。私も慌てて花壇の後ろに隠れたが、流石に身長的に全て隠れるのは不可能だった。でも何もしないよりいいだろう。そして瑠璃宮がマイクに向かって語り出した。

「おい化け物ども。僕はここだ。お前らの食料がここにいるぞ。さぁ集まれ。遠慮するな。腹が減っただろう?ご褒美だ」

なるほど。スピーカーを遠くに投げてマイクで声を出し、敵をおびき寄せる作戦か。闇雲に敵を攻撃するよりは断然効率がいい。

瑠璃宮が花壇からそっと顔を出し、敵たちの様子を伺う。私も真似して彼とは反対側から顔を出して目を凝らしてみた。敵は色々な形状の化け物がいた。頭にラケットらしきものが刺さっており、口にボールがはめ込まれている奴もいれば、目からジョウロのように謎の液体がとめどなく溢れていて、下半身が肥大して脚や腰が一体化している奴もいる。1番見るに耐えなかったのは、身体が馬のように変形して、身体中に蹄が大量に埋まっており、頭があるはずの首から上は鞭が何本か生えている奴だった。私は思わず彼らから顔を逸らした。生前の生徒の所属していた部活に則ってこんな姿に.......。テニス部、園芸部、馬術部だろう。そんな見るも無惨な姿に変わってしまった生徒たちが一斉にわらわらとスピーカーに寄ってくる。スピーカーの周りはもうおしくらまんじゅう状態だ。見えない敵を食べようと自分が先にとお互いがお互いを主張し合い、ひしめき合っている。

瑠璃宮がニヤリと笑った。そしてマイクに向かって化け物たちの最後を決定づける判決を下した。

「お集まりありがとう。レディース&ジェントルメン。では、お約束通り食材を渡そうではないか

。ほら、最後の晩餐だ。とくと味わえ」

小さな悪魔がスピーカーに向かって手榴弾を放り投げた。そして.......

大きな爆発音が響いた。地面が揺れ、ものすごい勢いの爆風がこちら側に流れ込んでくる。花壇に身を隠した瑠璃宮は平気そうだが、花壇に隠しきれなかった私の髪が空気に引っ張られるように、前へ前へと意志を持ったように泳いでいた。

「っ.......!」

私はできる限り身を縮めて頭を庇った。

.......しばらくして、ようやく辺りが静かになった。

「ふぅ。これでまずは一件落ちゃ.......」

瑠璃宮が立ち上がりながら校庭を振り返り、そして急に言葉を途切れさせた。冷静で表情を変えることが少ない彼があっけに取られたような顔をしている。なんだ.......?

私も立ち上がり、校庭を振り返ると絶句した。瑠璃宮と同じ顔をしていたことだろう。....そこには、手榴弾で吹き飛ばした化け物たちの死体や塵などが落ちていて、あとは先程と同じ通り.......ではく、また新たな敵が溢れかえっていた。先程の生き残りの敵や、そんな彼らとは違い、身体が大きく、見るからに強そうな敵が増えていた。その上武器を持っているものもいる。しかも、先程の敵の倍以上いる。

舌打ちの音が聞こえた。瑠璃宮を見る。

「あの爆発音で寄ってきたか.......。全く、僕をあまり怒らせるな」

そう言って瑠璃宮はカバンを漁る。

「やべぇよこれ.......。私たちに勝ち目なんて.......」

無理だ。武器を持った自分たちより身体の大きい化け物複数とどう戦えと言うんだ。私は小さい盲目の犬にですら苦戦したのに。敵はまた様々な種類の化け物が集まっている。口から上がどうなっているのかよく分からないくらい頭が溶けていて、白衣の様なものを纏い、謎の薬品が入ったビンを持ち歩いているもの。綺麗な歌が聞こえると思ったら、ピアノの鍵盤をより合わせて作ったようなドレスを着て、全ての穴から指揮棒が飛び出しているリコーダーのようなものを持ち歩いているもの。常に炎に身を包み、時折大声を出して威嚇している1番体の大きい化け物は、武器は所持していないが腕のみが以上に肥大し、一撃でも攻撃を食らったら大分ダメージを被るであろう。化学教師、音楽教師、体育教師だろう。

「.......コ。トーノコ」

ハッとして下を向く。思わず考え込んでいた。瑠璃宮が真剣な顔をして見つめてくる。手に何かを握りしめながら。

「お前、運動神経良さそうだよな?これを持って木に登れ。作戦がある」

「さ.......作戦?」

「ああ。あれだけの化け物たちを一つの場所におびき寄せるのは無理だ。なら、全体的にやるしかない。満遍なくな」

「全体的.......まさか」

「ああ。これからこの化け物たちによるイベント、最高の運動会を見せてもらおうじゃないか。.......そうだな、競技は....『ダンス』なんかでどうだ?」

瑠璃宮が怪しく笑った。

■チャプター4 「イベント」 クリア■

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