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幸せを感じに

作者: 佐野健次郎

子供が生まれて、しあわせを考えてみた。

高校を卒業して十五年が経った。三年前から、転勤で横浜に住んでいる。 思い返せば、両親の住む市川市の平田から、できるだけ早く一人立ちしたかった。だから、大学を選ぶ際も、下宿や寮でなければ通えない学校を選択した。両親には、経済的にも苦労をかけた。

就職先は商社だったから、毎日がサバイバルレースのようなものだった。まわりが敵に見えたか ら、気が置けない友人は出来なかった。早く出世して、業績を上げたかった。人付き合いが得意じゃ ないのに、仕事として飲み会には参加した。参加しなければ、悪口を言われるんじゃないかと思って た。

そんな私も三年前に結婚した。そして昨年、子どもが生まれた。生まれてきた子どもの顔を見た ら、なにか時間の流れが変ったように感じたんだ。

これが、安心ってことかな。昔読んだ本の中の言葉を思い出した。 「安心って言うのは、車の後部座席で眠るということさ。前の席には両親がいて、心配事は何もない」

そして今は「前の席に行かなきゃならないんだよ」。そうさ、私は父親になったんだものな。

この十五年、何も見えてなかったのかもしれないな。水の中に入って、はじめて空気の大切さがわ かることもある。

そうだ、平田に戻ろうか。

母親の顔が瞼に浮かんだ。なぜか、私の高校時代に、弁当を作ってくれているときの顔だった。記憶の中で、母親の顔はすまなそうな表情をしていた。

高校二年の時、土曜日の夕方に、駅前の商店通りで私を見かけた母親が、声を掛けてきたことがある。 はずかしさに聞こえないフリをして、足早に過ぎ去った。家に帰って、母親が「駅前で声掛けたの 分からなかったの」って聞いてきた。そんな母親に「まちで会っても、声かけんじゃねーよ」って。さみしそうな顔していたな。

ごめん。 「かあさん」

今まで、一度も使ったことのない言葉を、知らぬまに、つぶやいていた。

もう一度、ここ市川から見つめなおしてみよう。

四葉のクローバーを見つけるために、三葉のクローバーを踏みにじってはいけない。子どもの頃、 江戸川の土手で、友達と競争で探してた。

幸せはそんな風に探すもんじゃない。

しあわせは、探して、選り分けて、つかみ取るようなものじゃない。

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