箱の庭~Fランク冒険者のスローライフ~
自己満足の職人が独り呟く。
職人だってスローライフしていいじゃないか。
森の入り口に万年Fランクと呼ばれる冒険者がいた。Fランクとは最初登録してから魔物を一切討伐しなくともなれるランクであり、ここに留まるのは身分証として使うものか、魔物討伐を禁止されている子供しかいない。
そんな中彼は異質の存在となっていた。それでも彼を馬鹿にする冒険者は少ない。なぜなら彼は魔物を討伐できるが、素材を一切納品しないからだ。
冒険者生活をしている者でFランクからEランクになるには素材を何でも1つ納品しなければならない。これを出来ないものはよっぽど怖がりか納品する前に死んだものだけだ。
彼はFランクというこだわりはない。ただ素材を自分で使うからというだけだ。
彼の容姿はこの世界では稀な黒髪黒眼だ。別に異世界から来た勇者の末裔だからとかそういうわけではなく、魔力 を持っていないだけだ。魔力が高いほど白に近く、ないほど黒に近い。
そして属性を持った者の髪はその属性の色を持つ。黒は闇を司るといわれ、黒いから闇を持つと言われ、彼は忌み子として育った経歴を持つ。
しかし闇という属性はアンデットにしか使えないため、彼は魔力がなく、属性をもたず、忌み子として嫌われる。もはや虐めだ。生まれた瞬間から忌み嫌われる運命を持っているとしか言いようがない。
これが一般論だが、ある国では黒髪を持つ者は魔力以外の才能を持つことがある。と囁かれている。そのため、積極的に黒髪の子を雇っているとも聞く。
これは噂であり、真実はまた違うのだろう。
彼には関係ない。
彼は彼だけの特殊な能力を持っているのだから。
彼の能力知っているものはこう呼ぶ。
"箱職人"
僕の日常は箱を作るところから始まる。といっても回収してきた素材を箱に入れて形作るだけだが。
人気なのは木製と石製だ。木製の箱はあらゆる商売で使われ、石製の箱はレンガ作りや建造物に使われたりする。この箱については商人ギルドに納品して売っている。利益の1%を払うだけでいいので特にこれといって手間がかからない。
冒険者ギルドではFランクだが、商人ギルドではCランクだ。一般的な商人よりも高い。店を1つ持ってくるくらいのランクだ。店は持ってない。工房は持っているが、実質自宅である。
正直工房とも言えない。空間箱に持ってる箱を仕舞っているので手荷物はない。空間箱というのは、どこにでもある空間を切り取る箱だ。これで異空間を作り出して箱を収納している。
この異空間の広さに制限はなく、どこまでも広がっている。この空間にはあらゆる種族が住み、人も魔物も仲良く暮らしている。ここには戦争はなく、平和な時間だけが流れる。
住んでる人は逃げてきた人だったり、奴隷だったり、迫害されてきた人達だ。魔物は知能が高い希少なものだったり、僕が召喚した魔物だったりする。
魔物の召喚には召喚箱を使う。この中に素材を入れると子供の魔物が召喚できる。それも素材の魔物のだ。そういうわけで自然とよく討伐されるゴブリンとスケルトンが多かったりする。スケルトンは骨だったら何でも召喚できるので、ゴブリンからゴブリンとスケルトンが生まれる。
素材は耳だろうと肉片だろうと何でもいい。そういうわけで一匹のゴブリンから20匹召喚できたりもするが、その分ひ弱になるので、できるだけ完全な姿が好ましい。
まぁ鍛えればひ弱だろうと問題ないけど。そんなわけで国を相手に出来るほどの戦力を持ってたりする。だからといって何かするわけでもない。
これだけ言えばわかるだろうが、黒髪の子供を集めているのは僕だ。国と言えば国だ。一応箱庭という国だ。なんだかんだ僕が皇帝に祭り上げられてしまったが、気分は悪くない。
僕はこれだけの力を持ってしまったがために寿命もない。だから10年毎に転々と大陸を練り歩く。身分証である冒険者ギルドのカードも数十枚持ってる。どれもFランクで、商人ギルドのランクもCランクのものばかり。
いつかはSランクを目指すのも悪くないとは思ってたりするが、戦闘は苦手だ。それに僕の戦い方は周りに恐怖を与えてしまう。
なぜなら、箱に閉じ込めて圧縮して箱詰めにする。それから、召喚箱に入れ換えて箱庭に住まわせる。僕と戦う=生まれ変わるという方程式までできるまでだ。
僕はこれからもFランク冒険者として、Cランク商人として生きていく。
僕は箱をつくり、納品して、仲間を増やして、人を救う。
これが僕の日常であり、僕の箱職人としての人生だ。
最近は一作品書いて眺めてます。