序章 ファンファーレで始まる物語
細々と改稿を繰り返しております、この作品。二回目に読んだらなんか違う……ということがあるかもしれない。ないかもしれない。
それは、さびしいさびしいものがたり。かなしいかなしいそらのおはなし。
ひとりぼっちのちょうちょはゆめをみる。かなえたいのはねがいごと。たったひとりのねがいごと。
さびしがりやのちょうちょはわらう。ちょうちょのねがいはかなわない。
世の中には乙女ゲームというものが存在すると言う。それは女性向け恋愛シミュレーションゲームの一種で、プレイヤーの動かす「主人公」が魅力的な男性陣と恋に堕ちたり結ばれたり――それは、夢を見るための物語だと言う。そういった物語には必ずと言っていいほど、悪役、すなわち主人公の恋路に陰を落とす存在がいて、これが貴族の世界を舞台にしたファンタジーロマンスであるとき、彼女らは「悪役令嬢」と呼ばれている。
「ときに、これは私の友人の話なのだがな。彼女は根っからのゲーマーで、その『乙女ゲーム』とやらも多くプレイしていたのだが、その中に『青き歌は戦場に響く』というタイトルがあったらしい」
『青き歌は戦場に響く』、通称『青歌』は、異世界の王国を舞台にした学園ファンタジーだった。物語の舞台、アンペルゲア王国では、代々王族やそれにかなり近しい血族に女神ユナと男神クルベールから加護を与えられる。女児には左肩に青いアネモネ、男児には右肩に白い桜の紋章が顕れ、それぞれ豊穣の約束と軍事・政事の天つ才を下賜される。そのため王国には白い桜の男子の王位継承が最優先とされる法があった。ただ現在、王国に白い桜を賜った王家の男子は現国王以外にいない。そこで国王の一人娘、セフィユナ第一王女が、学園で将来国を支える才能に溢れた婿を探そうとする――というストーリーだ。
「お約束と言わんばかりに、この物語にも『悪役令嬢』なるものが存在するらしい」
彼女は自らが王位を簒奪するため主人公の恋路を妨げ、罠へと嵌めていく。
「何故“彼女”は王位を望むのか?それは物語の鍵となるらしいが……まあ、良い。明らかであるのは、二人は相容れない存在だということ。そして――」
かの悪役令嬢、王妹ロザンマリアの娘にして、主人公の従姉、リノリア・フィリグラフが、「私」であるということ。