0-3 漂流
「さて、捨てるか。」
安藤は格納ブロックから使えそうなもの探してある場所に運んだ。安藤はその前まで進むと大きく深呼吸をした。
「長距離探査船エウロス。こいつに頼るしかない。」
今ここにあって唯一推進力を持ち、かつ長距離航行が可能な機体。スペックでは大気圏突入も可能。実際にやった人間はいないが。
そしてエウロスに乗り込み、荷物を運び込むと早々に作業を終わらせていく。そして、なんの躊躇もなく最終フェイズを終わらせる。
「ポチッとな。」
安藤がボタンを押すと、ガタガタと音を立てながら格納ブロックから切り離れ、探査船エウロスは発進する。一部とはいえ、すでに機能を失ったとはいえ、人類の叡知の結晶であるステーションを捨てるのは残念だが仕方がない。
格納ブロックを切り離したことでセンサーや測定機器の一部機能が復旧する。そして通信機器もだがすでに圏外。せめてできることは。安藤は録音機能にメッセージを残す。遺書にするつもりはない。
『えー。安藤照馬です。いろいろあって現在、探査船エウロスで宇宙を漂流しています。そしてすでにこの探査船は地球軌道を外れ、この船の推進力では、自力で地球圏に戻ることは不可能です。ですのでこのメッセージを残します。これは私が考える最良の生存手段と考えます。それは・・・。』
このメッセージがステーションの誰か見つかることを祈りながら進行方向と逆方向に宇宙に射出する。
それを見送るといよいよ漂流の準備に入る。これは宇宙旅行でも宇宙探査でもない。ただの漂流。だが、ただ座して待つつもりはない。
「さてやるか。」
安藤の目には絶望はない。絶望に意味はない。ただやれることをやるだけだ。安藤は作業に取り掛かった。
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後日談。
数十年後。安藤が宇宙に放ったカプセルが発見される。その記録は全世界に公開された。
「安藤照馬です。彗星のステーション接近に伴うトラブルで、現在私は探査船エウロスにて漂流しております。他のステーションのメンバーは無事だったでしょうか。私には彗星衝突以降の状況がわかりませんが、無事を祈ります。そして、現在のこの状況でも我々のあの時の判断は間違っていなかったと考えています。また、私はこの状況に絶望もしていません。これから私の生存プランを説明します。私を救出して貰えること願います。では、生存プランについてですが…。」
宇宙空間で見つかったこのメッセージは生存した他のメンバーの安藤を犠牲にしてしまったという罪の意識を和らげた。そして安藤はステーションを守り、宇宙開発の英雄とされた。死亡は取り消され、いくつかの表彰を受ける。その後、安藤捜索プロジェクトが発足され、3度の捜索作戦が決行されるが、発見には至らず。安藤は生死不明のまま宇宙開発の英雄として歴史に名を刻む。
しかし、そんなことを知らぬまま、安藤は未開の宇宙漂流を始めていた。