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異星で始める魔導工学  作者: ウロクX
1/11

0-1 宇宙へ

安藤照馬あんどうてるま

幼い頃に両親を交通事故で亡くし、祖母の下で幼少期を過ごす。

それも世話になった祖母に迷惑を掛けまいと、必死に勉学に励んだ義務教育課程。結果、地元で屈指の進学校に特待生として入学、某有名大学への入学も果たした。


そして・・・大学入学を果たしたその日、祖母は安らかに息を引き取り、青年は天涯孤独の身となった。


大学在学中も特に浮いた話は無く、大学とバイト先の工場を行き来する日々。

大学の成績は上々、苦学生ながらも、両親や祖父が残した保険金と奨学金で大学院まで進む。就職先も自身が希望していた日之宮重工と言う大手重工系メーカーに採用が決まり、地味ながらも努力を重ねていたことが身を結びかけていた。


青年の性格は周囲から言わせればクソ真面目で目立たない人間だった。だが、青年自身は自分をそうは捉えていなかった。ただの合理主義者だった。幼少期から大学生まで金銭的にも時間的にも余裕の無い生活を送ってきたこともあって、無駄なことが嫌いだった。

勉強すれば成績が上がり、評価が上がる。だから勉強する。

誰かと言い争いをしても相手の気分を害し、時間も無駄にするだけなので、極力人に合わせる。

ただそれだけだった。


そんな面白みの欠片もない性格ゆえに、親しい友人もできず、勿論恋人もいなかった。


そして、安藤照馬は31歳になり、会社でもそれなりの成績を修めていたころ、ある転機が訪れる。


-----------


「安藤君。君のことは部長から聞いている。単刀直入に、アメリカに飛んで欲しい。」


急な呼び出しで連れてこられたのはある会議室だった。日中だというのにカーテンを閉められたその会議室は、薄暗く中央に座るその人がうちの会社のトップだということに気付くのが遅れた。それと同時にことの重大さにも気付き思わず息をのむ。


「アメリカですか。というと場所はヒューストン?」

「察しがいいな。君の推測通り、詳しくは君の前に置かれた資料を見てくれ。」

「拝見します。」


安藤は資料を確認する。資料は日本語のものと英語のものが混ざっていた。ペラペラとページをめくり、視線を上げる。


「確かに私は宇宙プラント事業部に所属しておりますが、この問題は私が以前所属していた部門の問題ではないですか?」

「君の経歴は把握している。宇宙プラント事業部の総合研究部に入社。僅か3年で、現在の我が社の主力超硬合金となったP-982を開発、社長賞を受賞。その後、当時開発に力を入れていた同事業部のソーラーパネル開発部にヘッドハンティングで異動。しかし、そこでうちの次世代主力ソーラーパネルとして開発していたこいつに苦言を呈したことから、再び別な部門に異動となっている。」


当時はきつかった。あまり意見の衝突を好まない安藤だったが、ことの深刻さから上長に何度も具申したのだった。結果、反感を買い異動となった。


「今の所属、ソーラー機器開発部でも、変換効率を大幅に上げる集光板を開発したとか。優秀だな。」

「いえ、前任者の構想が優れていただけのことです。貢献度では私が30%も無いくらいかと。」

「謙遜するのは、日本では美徳だが、向こうでは通用しないぞ。だが、それはさておき、君の新ソーラーパネルへの苦言は正しかった。君の異動は不当人事と言っても仕方の無いものだと思う。当時の責任者には相応の処置を行う予定だ。」

「やめてください。あれは私の提案の仕方が良くなかっただけです。責任の一旦は私にもあります。」

「甘い男だな。まあ良い。二度とあのようなことにはならぬよう、君の新しい所属は事業部直轄組織として、身分は主任だが、基本的には君が所属長となる。無論君がこの仕事を引き受けてくれたら…ということではあるが。」


良い話だ。この資料を読む限り、安藤の懸念を遥かに越える問題のようだ。しかし、もしこれを乗り切れたら評価も大幅に上がるだろう。別に出世を願っている訳ではない。僕が希望する宇宙プラント事業部の人工衛星開発部への異動も叶うかもしれない。


「喜んでお受け致します。私でお力に成れるなら。」


こうして渡米が決まった。すでに運命の歯車が狂いながら回り始めていることに気が付かないまま


-----------


「どうしてこうなった!?」


安藤は遠心分離機のような耐G訓練設備に拘束され、グルグル振り回され続けていた。どこの絶叫マシンよりも凶悪なそのマシンは安藤の内臓ごと吐き出させるのではないかと言うくらいのものだった。


-----------


話は2カ月前に遡る。安藤は米国の火星探査機に搭載される日之宮重工製のソーラーパネルを担当する応援スタッフとして現地に入った。ソーラーパネルの不具合は初期のテストでは見つからなかった経時劣化によるものだった。開発当時、安藤はこれを予期していたが開発を急ぐ上層部には受け入れられなかった。予期していたこともあってその対策はすでに検討していた。その為、僅か2週間で目処はたった。問題はそれからだった。


急遽呼び出されたN社の会議室は日本で経験した会議室と同じ雰囲気だった。


「Mr.アンドウ。呼び出してすまない。すでに君のミッションは果たした。その中で君の優秀さを高く評価している。そこで君に新たな頼みがある。」

「頼み?」

「あぁ。宇宙(そら)へと上がってくれ。」

「はい!?」


-----------


このとき、宇宙ステーションでは未曾有の危機に瀕していた。とあるトラブルでソーラーパネルの一部が意図せずパージしてしまい。極度の電力不足となっているそうだ。


問題はソーラーパネルだけの問題ではなく電送関係全般のトラブルで、現在の常駐スタッフでは対応不可。その為設備関係の技術スタッフを送る手筈になっていたのだが、二人の技術スタッフのうちチーフの技術者一人が訓練中に病にかかりドクターストップになってしまう。残った一人だけでは不安があり、他の補欠メンバーでもカバー仕切れず、ソーラーパネルから電送、その他機器まで精通している安藤に話が回ってきた。


ただ、宇宙ステーションの危機に対して時間の猶予はなく、通常最短2年の訓練プログラムを僅か3ヶ月で完了させる必要があった。尚且つ宇宙ステーションでの滞在も通常100日~200日であるのに対して30日以内という制限付きとなった。


とはいえ突貫での訓練でも、通常の訓練とはなにも変わらない。他の訓練生は宇宙飛行士の候補生となる前から肉体的にも精神的にもトレーニングを積んできたメンバーで、元空軍のパイロットまでいた。そんな中にあって30年余り机にかじりついてきた安藤は役不足を大いに感じていた。しかし、すでに日本でも安藤のことはニュースになり、会社どころか日本全体で応援するムードになっており、あとに引けない状況になっていた。そして、Noと言えない日本人代表である安藤は流されるまま宇宙飛行士となった。


-----------


「どうしてこうなった!?」


安藤は強烈な振動の中、これまた強烈なGに耐えていた。発射前の会見で何を答えたかすでに覚えていない。となりではキャプテンである金髪白人の男が親指を立て、「All OK!!」と言っている。


安藤は冷や汗を流しながら、胸に込み上げる熱い何かを必死に押さえながら、愛想笑いで返す。


-----------


燃料ブロックがパージされ、Gが次第に収まり、キャプテンに促され、外を見ると、そこに漆黒の世界が広がっていた。

そして、キャプテンの指の先にそれがあった。


「これが・・・地球・・・。」


青と白。それが海と雲なのは解っている。でもそれでもそれはまるでサファイアの如く輝いていた。普段は無感動で涙など流したことの無い安藤にも、胸に来るものがあった。


宇宙ステーションへのドッキングが終わり、現地メンバーと合流する。今回乗り込むメンバーは3名。現地メンバーは6名の為、合計9名となり多少手狭になる。一通りの引継ぎと安藤の作業が終わり次第、現地メンバーのうち3名と安藤の4名が地球に降りる計画だ。


宇宙飛行士の仕事は基本的に全てマニュアルがある。それぞれ専門はあるが、宇宙ステーションのメンテナンスなどは誰でも可能だった。だが今回のミッションはそうはいかない。その為の補充メンバーだった。大規模なステーションの修復となり、その任務は安藤ともう一人の女性技師、メアリーが中心だった。


持ってきたソーラーパネルの設置は早々に終わり、電力問題は終息した。更に故障箇所の船外活動も順調に終わり、安藤のミッションもおおよその目処が立った。当初25日間の予定だったが、この分だと3日は早く終わりそうだった。


だが、この後、地球の宇宙開発史上最大の危機がくること誰も知らなかった。

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