「江間家の段」5
イベント後は恒例の打ち上げ。まずは御所の音頭で乾杯。その後は無礼講。そこから既に月は天をぐるりと大きく廻り、星も眠そうに瞬いている。
御所は大分前に奥へと下がった。今日は夫婦喧嘩もなくご機嫌で姉と並んで庭の花を愛でていたから、ずっと一緒だろう。ならば小四郎も安心して館に戻れる……のだが……
「おい小四郎! 酒が無くなったぞ! 早く持ってこい!」
「江間殿! 肴が足りないから買ってきてくだされぃ」
「義時ぃ、ちょっとこっち来て酌をしろ。俺はなぁ、お前に言ってやりたいことがあるんだ。大体、お前はだなぁ……」
「うえーん、俺ら皆の嫁だった姫の前を独り占めしやがって!」
頼むから早く帰らせてくれ。つか、早く酔い潰れて寝てくれ。どうせこいつら全員ここで夜を明かすんだろうから。眠り薬をもっと混入しておくんだったと反省する。
戻ったら今度は真朝だ。
恐らく、今日一日かけて大規模ないたずらを仕掛けている筈だ。どうすれば機嫌を損なわずにうまく罠にかからず安眠出来るか……
ああ、その前にあの徹底したとかじりを解かなければいけないか。
今日も鎌倉は平和。
どうか、この平和がいつまでも続きますよう……
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ
海人の小舟の 綱手かなしも―― (鎌倉右大臣)
江間小四郎義時。
冷酷・陰険・悪辣・不遜・不忠・シスコン・棚ボタ……
後に散々な書かれ方をする鎌倉幕府二代目執権・北条義時の若かりし頃のお話。
(ちなみに「とかじり小四郎」は自サイトで公開していますが、普通に真面目な?歴史小説です。キャラやセリフは妄想誤訳ではなく、通常の半・現代語訳です。ご容赦ください。)