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「江間家の段」3

挿絵(By みてみん)

 真朝は口をつぐんだ。いたずらの過ぎる妻だが、本来はとても頭の良い女だ。いい加減わかっているだろう。ただギリギリの攻防を楽しんでいるだけだ。その瀬戸際がそろそろだと知らせる。


「……わかったわ」


 真朝の声が低くなる。ほっと小四郎が息をついた途端、真朝が顔を上げた。


「私も一緒に参内するわ。すぐですもの。いいわよね。御所に着いたら続きをしましょ?」


 江間の館は、将軍家使いっ走り、もとい家子筆頭としての江間小四郎の立場上、いや便宜上、御所のすぐ脇にある。確かにとっても近い。だが……


「くっついたまま御所の中を歩けと?」


「そうよ。別にいいでしょ。新婚だし」


 頭を抱える。


「……勘弁してくれ」


「じゃあ私、御所様にメール(文)しとくから」


「……何と書くつもりだ」


「え、そうね。『激しい絡みで離れがたい為、ちょっと遅刻します』って」


 しつこいが、けっして断じて絶対に、艶めいた話ではない。


 小四郎は羽織っていた直垂からサッと袖を抜いた。とかじった紐と髪を指でしっかりと支えつつ、直垂にふわりと風を入れ、真朝の頭をそっと優しく覆う。そしてその中に自分も頭を入れた。


挿絵(By みてみん)


「え? なに?」


 しっ、と自分の人差し指を妻の唇にそっと当て、黙らせる。


「俺が戻るまで、そのままでいろ」


 大きな瞳が直垂の陰で子鹿のように黒々と濡れて艶めく。


「でも」


「許す。一日ここに潜んでいろ。部屋から出るな」


「髪は」


「ああ、俺が戻ったら続きをしよう」


 何か言うべく口を開こうとするのを、顎を軽く持ち上げ唇を塞いだ。言葉もろとも小四郎の中に取り込むように強く吸い込み、それからそっと解放する。


「待ってろ」


 それだけを告げ、静かに、だが風のように速く部屋から飛び出た。そのまま元の自分の部屋へダッシュする。


「あ、殿、朝餉は……」


 途中、下女が声をかけるのを、膳を一つ部屋へ運ぶよう命じ、真っ先に手が掴んだ直垂を適当に引っ掛けて館を出た。


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