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 “明星の異形(ルシフェル)


 神々と魔王が戦争を開始して僅か数年後、その存在が確認された。


 某日

 “魔王対策局”の捜査官と魔王の戦闘中、謎の魔王が乱入し“神殺し”及び“共食い”を行った。

 その魔王を“謎の異形(アンノウン)”と呼んだ。

 神と魔王を同時に相手をする戦闘能力から、“謎の異形”のレベルは8と設定される。


 半年後

 “謎の異形”による“神殺し”が頻発。同時に多数の“共食い”を繰り返していたことが判明。

 大量の神威を体内に取り込み、背に生えたアームは当時から8本確認された。

 この際“謎の異形”のレベルは8から9に繰り上げられる。


 さらに半年後

 後に“名無しの乱”と呼ばれる大規模な魔王の破壊活動が勃発。魔王は3人の老人の“半人神ハーフ”を人質にとり、3つの国の狭間の砦に立て籠った。

 その戦闘中、翼を生やした“謎の異形”が乱入。

 神、魔王、半人神を見境なく殺し回った。

 その姿が堕天使を想像させるとして“謎の異形”は“明星の異形”と改められる。

 最高神5人と“明星の異形”の戦闘になり、破壊神を除き戦闘不能に陥る。

 破壊神は殿となり神々が撤退する時間を稼ぎ、その後消息不明となる。殺害、捕食されたと思われる。

 生き残った神々により“明星の異形”が魔術を使うことが判明。人と魔王の“半人神”ではないかとの意見が出る。

 最高神を遥かに越える戦闘能力を持つことから、“明星の異形”はついにレベル10駆逐対象へと繰り上げられた。


 魔王でありながら破壊活動を好まないが、殺しと強さを求めて国を渡り歩く災厄の魔王として神々の資料に残っている。




「“明星の異形”……ですか」

 シェアトは信じられない、といった顔でゲオルグの答えを待つ。

「レイティアさんがサソリと呼んでるあのアーム、まだ似たようなのを持った異形は確認されていない、間違いなくヤツだろ」

 フリュウの背中から生える黒光りした8本のアーム“サソリ”は、ゆらゆらとした動きで牽制を続ける。

「……残念だが、シェアト」

「はい」

「ここで死ぬ覚悟をして殺るぞ」

「もちろん、この仕事してるんだからできてますよ!」

 ゲオルグがフリュウを睨み付けながら言った言葉にシェアトは頷く。

 シェアトの言葉が終わると同時に2人は駆け出した。

 障壁を体にくっつけただけの薄い鎧と自慢の武器を持って魔王を討つ。

「……バレたか」

 フリュウは自身が“明星の異形”だとバレていることを、神2人の微かに聴こえる会話で知った。

 神や魔王の五感は人間の遥か上をいく、フリュウにはその前のちょっとした会話も聴こえているのだが。

(さすがにアーム8本はバレるか)

 アーム2本のところでは全く気づかれていないようだった。

 最も特徴的な純白の翼を出していないからバレないのではないか、とたかをくくっていたフリュウは反省する。

(捜査官の勤勉さを甘く見ていたよ)

 フリュウはアスト王国にくる前の数年間は完全に雲隠れしていた、マークが外れていないか少し期待していた。

(お前は有名人だからな)

 オニマルが呆れ混じりに口を開いた。

 フリュウは自分のことを過小評価し過ぎているとオニマルは感じている。

(お前はこの我を、破壊神を殺した魔王だと神の連中には認知されている、いくら時間がたっても捜査官達には伝説級の魔王だと語り継がれているだろう、そうでなくとも過去に類を見ない大事件を起こしたんだ、興味本意で“明星の異形”の資料を漁るヤツがいないとでも?)

 オニマルの意見にフリュウは完全に論破されてしまった。

 それ以上にオニマルがこれほど長い文章を言葉にすることのほうがフリュウにとっては重要なことだった。

(珍しいな、オニマルがこんな話すなんて)

(黙れ、さっさと戦いに集中するんだな)

(こんなヤツ余裕だって)

「バレてるなら、隠す必要ねえよなぁ!」

 フリュウの背中、正確には肩甲骨の辺りから純白の翼が生えてくる。

 まるで天使のような、神々しさを放つ翼が。

 正義の白、悪の黒。

 神への忠誠を誓う白翼、神を裏切った堕天の黒蠍。

 “明星の異形”の本領発揮だ。

「……殺るぞ」

 純白の翼が大きく広げられ、幾百幾千、望めば幾万にもなる羽の矢の雨が放たれた。

「援護」

 シェアトが呟く。

 後方に設置された魔力の塊から弾丸が放たれた。

 羽は数こそ多いが一発一発の威力はどうしても低くなる、弾丸はゲオルグとシェアトの進行方向のみに放たれ、命中弾となるはずの羽のみを撃ち抜いて相殺していく。

 それでも羽を防ぎきれない。

「くっ……!この程度!」

「あわせます」

 ガガガガッ!と音を響かせ障壁が破壊された。もう障壁の追加はない。

 ゲオルグとシェアトはフリュウの左右にわかれて槍と剣を振り抜く。

 ガギィ、という乾いた金属音が鳴る。

 フリュウは翼を折り畳み、アームで双方からくる攻撃を受け止めた。

 ゲオルグは腕力だけでアームを弾くと、隙間から2度槍を振るった。

「くっ……」

 苦しそうな声はゲオルグのものだ。攻撃が通じる気配がなかった。

 フリュウは再び翼を大きく広げ、体の前方に8本のアーム“サソリ”を配置する。

「……?」

「回避!」

 ゲオルグは何をする気なのかわからなかった、だがシェアトの声が聞こえて咄嗟に後方に跳んだ。

 ゾワッと翼が波うち、“サソリ”の防壁の隙間から矢の雨が浴びせられる。

「……チッ」

 初見の技に対応された、フリュウは悔しそうに舌打ちをする。

「ぐぅ!」

「障壁!」

 安全圏に後退していたシェアトは全力でゲオルグの前に障壁を配置する。

 ガガガガッ!と音を響かせ何重にも重ねられた障壁全て破壊されるが、すでにゲオルグは着地し、防御体制を整えていた。

「悪い、助かった」

「気にしないでください」

 一通り攻防を繰り返したが、ゲオルグはまったく攻撃を通せる気がしなかった。

「しかし……どう逃げる」

 フリュウを睨みながらゲオルグは思考を張り巡らせる。

 近接戦闘は“サソリ”及び“キツツキ”で対応。その2つで近接は攻防どちらも対応できている。

 それに加えて中距離、恐らく遠距離も対応できるであろう純白の翼により矢の雨。威力は矢と言うよりもショットガンと言ったほうが正しいだろう。

 結論から言うと。

「まったく隙がない」

「ですね、僕が囮になるのでゲオルグさんは逃げてください」

「それはダメだ!」

「……」

 シェアトは黙りこんだ。

 だがゲオルグもわかっている、この国に“明星の異形”がいることをこれから到着するであろう本隊に伝えなければ、完全な無駄死になってしまうことを。

 “明星の異形”を討伐するのであれば、今生きている最高神4人に加え、各国に散らばっている実力者達を集める必要があるだろう。

(コイツらも必死なんだよな、毎回思うが)

 そのどんな相手に当たろうと立ち向かう勇姿、そこはフリュウも思うところがある。

(ん?)

 フリュウの五感はマティルダの接近を感じた。

(おいおい、家でおとなしくしててくれよ)

 フリュウはため息を吐く。

(ふふふ、時間がないぞフリュウ)

(楽しそうだなオニマル)

(どうやらマティルダは、お前を人殺しにしたくないようだな)

(……くそっ)

 マティルダがフリュウが魔王だと勘づいていることを知らないフリュウは、この現場を見られたくはない。

 最後に自分の想いを伝えて逃がすことにした。

「……“魔王対策局”の捜査官、お前らに聞きたいことがある」

「……?」

 フリュウは翼を折り畳み、アームも背中にしまって話を始める。

 ゲオルグは理解できない状況だが時間を稼げるのならよし、もしかしたら隙に繋がるかもしれない、緊張な面持ちでフリュウを見つめた。

「こっちの世界で破壊活動を行う魔王だけでなく、単に同胞を止めにきた魔王まで殺して、魔王にだって家族がいる……残された家族の気持ちを考えたことがあるのか」

 フリュウは翼を広げ、歩みよる。

「それ以上に許せないのが“半人神”への対応だ、確かに“半人神”はお前ら神からしたらいつ爆発するかわからない爆弾、目障りだろうな」

 フリュウはアームを生やし、また歩みよる。

「だがアイツらは人間だろう!どこに人権を奪われる理由がある!“半人神”に生まれ間違えただけで、どこに人生を狭い牢獄の中に移さねばならん理由がある!」

 フリュウは魔力を全身に流し、自己加速を行う。

 フリュウは睨み付けてこう言った。

「お前らは間違っている……!だから俺が!この戦争を終わらせてやるよ!」

「!?」「!?」

 突然フリュウが消えた。

「仕方ねえよなぁ!」

「がぁっ!?」

 シェアトは蹴り飛ばされていた。

「シェアト!」

 ゲオルグは叫んだ。

 だがフリュウの姿は見つからなかった。

「お前らが守れねえから!」

「ぐぅ!」

 ゲオルグも蹴り飛ばされていた。

 咄嗟に受け身をとるが“サソリ”がゲオルグの四肢を貫いた。

「俺が“半人神”守るんだよ!文句あるか!」

「が……」

 ゲオルグの意識は闇に染まった。

 芝生地帯の隅まで蹴飛ばされ立ち上がれない2人の神を見下ろして、フリュウは呟く。

「そこで寝てろよ、マティルダはお前らには渡さねえ」




「フリュウさん」

 マティルダは大学の芝生でフリュウにようやく追い付いた。

 芝生に寝転んで、マティルダか来るのがわかっていたような、そんな顔をしていた。

「すいません、追いかけてました」

「知ってるよ、帰ろうか」

 フリュウは反動をつけて一気に立ち上がると、校門に向けて歩き出す。

 マティルダは普段と様子の違うフリュウを見て不安になる。

 だがその不安を表にはださない。

「どうしてもフリュウさんの仲間が見たかったんです、もう居ないようですが会えましたか?」

 その質問にフリュウは答えられない。

 黙りこむフリュウにマティルダは告げた。

「私知ってますから」

「……っ!」

「だから、隠し事なんてしないでください」

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