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(まさかもう神が来るなんて……!)

 フリュウは全速力で走る。

 自らの失敗を取り戻すために。

(さっきの結界の中心、かなり近かった、このままじゃマティルダが“半人神ハーフ”だってバレるのも時間の問題だ)

 フリュウの失敗。それは魔人を同じ地区で殺したこと。

 広いアスト王国全土を神少人数で監視できるはずがない、必然的に地区でわけて監視や捜査をすることになる。魔人を殺した地区とマティルダの行動範囲が重なればマティルダと神が遭遇する可能性が高まる。

 神は世界の歪みや空気中に霧散した神威を頼りに魔王の居場所を特定する。

 異世界の住人を殺すということはそれなりのリスクを背負うということだ。

 フリュウは舌打ちをする。

(マティルダはお前ら神には渡さないぞ)

 目撃者は消さないと。

 フリュウの眼に決意が灯る。

 それに対して悲しみを感じながら、静まるように声をかけるオニマル。

(……あんまり痛めつけるなよ、我の仲間だ)

(だが俺の敵だ!)

 フリュウは止まるつもりはなかった、そしてマティルダに重大な嘘をついていた。

(俺は魔王だぞ!)

 マティルダに神だと説明したのはつじつまを合わせるため。この世界の説明上では嘘をつかないようにするためだ。

 それにオニマルは破壊神なのだからまるまる嘘でもなかった。

 だが立場が変わっている今、魔王だと宣言して神を殺すことを合法化させる。

(俺は“国殺し”なんかに興味はねぇ、だが神のやり方は気に入らん!魔王のやり方もだ!だから皆殺しにするんだよ!)

 相棒を無理矢理強引に黙らせた。

(仕方ねぇよなぁ!俺の邪魔するんだから!)




 マティルダは神の身体能力で全力疾走するフリュウになんとか食らいついていた。

 普通の人間ならばありえないことだが、マティルダは普通ではない。

 魔術師だ。

 マティルダの体は今、魔力が全身を駆け巡り身体能力を一時的に向上させている。

 それでも少しずつ離されていく、それほどフリュウの本気は異常だった。

「フリュウさん……何があったんですか……!?」

 アスト王国の石畳を走りながらマティルダは独り言を漏らした。

「あの感じ、絶対フリュウさん嘘ついてる」

 マティルダが感じた違和感。

 1つの確信できることがある。

「神が何なんですか……フリュウさんは……神でも何でもないでしょ」

 フリュウは神ではない、それは確信であり、同時に正解でもあった。

「仲間や友達に会うとき、普通あんな顔しないんですよ」

 でも魔王だとしても、マティルダはフリュウについていくつもりだ。

「私はフリュウさんが魔王だとしても、そんなの気にしません、だから隠し事はしないでください」

 もう完全にフリュウを見失ってしまった。

 だがマティルダは頭がいい。フリュウから神が何を頼りに魔王を探すのか理解している。

「きっと……お弁当だ」

 フリュウが魔人を食べていたあの場所に向かう。

 マティルダはフリュウから世界の本当のことを聞いて、とある思いが出来上がっていた。

「私はもう、何も知らない一般人じゃないんですから」

 取り残されるのは、もう嫌だ。




 フリュウが向かった先、大学の芝生に一足先に着いた者達がいた。

 歪みに引き寄せられてきた神々だ。

「この神威は僕でもわかります、だいぶ纏まって残っていますね」

 シェアトは感じる神威を解析中だ。

 ゲオルグにはできない技術で、魔王ではないかと期待を寄せている。

 魔王であれば強い神威を残すからだ。

「どうだシェアト」

 だがその期待は外れたらしい。

 シェアトは首を横に振って答えた。

「残念ながら魔王のものではないですね、単純に殺されて間もないだけのようです」

「そうか」

 ゲオルグも落胆を隠しきれない。

 魔王がまだ生き残っている、それは神にとって迷惑以外の何物でもない。

「時間帯はどうだ」

 少しでも魔王に近づく情報を得ようとゲオルグは気持ちを入れ換えた。

 この限られた足跡をもとにして魔王に辿り着けばいいだけのことだ。

「魔人でここまで残っているとしたら、昼頃に殺されたと考えられます」

 シェアトは顎に手を当てて答えた。

「でもおかしいですね」

「何がだ?」

 シェアトは疑問に思うことがあった。ゲオルグを見上げて話始める。

「昼頃となるとここは大学のようですから、生徒がいると思いますが」

 ゲオルグも言いたいことは理解した、だがどうしても解けない謎にひっかかる。

 苦し紛れにそれっぽい結論を出して答えた。

「魔人を侵入者だと思った学生が討伐した……んなはずないよな」

 ゲオルグは頭を悩ませる。

「それだと話題になってますよね、さすがにあり得ないん……っ!!」

 シェアトは突然目を丸くした。

「どうした」

 その視線を辿ると、ゲオルグの背後を指していた。

「何が……」

 ゲオルグは振り向く、そこにいたのは和服の少年、フリュウだ。

 人払いは結界で済ませている、 2人は少年を人間ではないと判断した。

「んっ……構えろシェアトっ!」

「……了解です」

 ゲオルグの重くのしかかる声音、シェアトはゲオルグの後ろに跳び魔術を構える。

「コイツはヤバそうだ」

 声を発することなく伝わる威圧感、そこらの魔人ではないとわかる。

「っ!……きますよ!」

「障壁展開頼んだ!」

「了解!」

 ゲオルグは槍を構え、彼の回りには障壁。

 フリュウは背中から2本のアームを生やして突進する。

「あああ、ああ!!」

 雄叫びと共にアームがうねり、尖端が障壁を突き破った。

「なっ!?」

「ぐ……おぁああ!」

 シェアトは障壁がいとも容易く破られたことに声をあげ、ゲオルグは少し勢いが弱まったアームを槍で受け止める。

 それでも押され、ギリギリのところでアームを弾く。

「すいませんゲオルグさん」

「障壁がなかったら殺られてた、助かった」

 ゲオルグは深く深呼吸し距離をとってアームで牽制を続ける少年を見た。

(障壁ありでこの威力、勢いがつくまえに止めないと終わりだな)

 ゲオルグは全身に魔力を巡らせ身体能力を向上させる。

「明らかにそこらの魔人とは違う、“収集の異形(コレクター)”が最初の目的だったが、こんな強い異形をほかっておくわけにはいかねぇよな」

 ゲオルグは芝生の地面にヒビが入るほど強く踏み込む。

「討たせてもらうぞ!」




 突進し、アームの尖端で最高威力を叩き込む。

 先手必勝のこの攻撃は確実に神の命を刈り取るはずだった。

(まじかよ)

 2人相手とはいえ防がれたことにフリュウは驚きを感じていた。

(わりと強いやつが捜査にきたなぁ、厄介だ)

 フリュウはアームをうねらせて牽制だけしておく。

(くるぞ!)

(わかってるよ!)

 オニマルが心の中で叫んだ。

 フリュウは待機させていた黒光りするアームを、向かってくる槍を持った男に放つ。

「障壁!」

「……!!」

 アームは勢いがつくまえに、障壁によって阻まれた。

 槍を持った男を止めることができない。

「キツツキ!」

 愛刀の名前を叫んだ。

 フリュウの身長ほどある長すぎる刀身をもつ刀“キツツキ”が主の声によって具現化される。

「はあっ!」

「……くっ」

 勢いを全く殺せなかった槍を“キツツキ”で受ける。

「ゲオルグさん!」

「この……!」

 ようやく障壁を壊し、アームの先端が槍を持ったゲオルグという男に向かう。

「くそっ」

「逃がすかよ」

 後退しようとするゲオルグに向かって、長すぎる刀身をもつ“キツツキ”を振るった。

 残念ながら障壁に阻まれてしまったが、アームによる追撃を放つ。

 再びアームの勢いをつけられるほど距離をとることに成功した。

(もう対応されたか、アーム2本じゃ辛いな)

 ズボボッと音をたてて、背中から黒光りするアームが6本生えてきた。

 合計8本。

「……まじでヤバイ魔王とあたったな」

「……逃げますか?」

 この際だ、シェアトはプライドなど捨てて逃げに徹することを提案する。

 だがそれは現実的ではない。

「この魔王から逃げれると思うか?」

「無理でしょうね」

 シェアトはゲオルグの隣に立ち、障壁ではなく魔力の塊を構えた。

「少しでもダメ与えねえと、逃げれそうにねえぞ」

「そうですね、もし逃げれたらですが、レベルのほうはどうします?」

 シェアトからの質問にゲオルグは即答した。

「10だ」

「えっ」

シェアトは最大レベルをつけたことに驚く。

だがゲオルグはこの魔王の正体に正確に迫っていた。

「この異形、この火力、翼がないようだが間違いねえよ」

ゲオルグは最悪の魔王の名前を呟く。

「“明星の異形(ルシフェル)”だ」

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