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 フリュウ、芝生で昼寝中。

「ん?」

 自分に向けられる殺気に気づいて飛び起きた。

 不可視の弾丸がフリュウをかすめて通りすぎていく。

「はっ、この威力……けっこう強いねぇお前」

 銃を構えた女の子、しかし頭に角を生やした異形だ。

 見るとさっきまで寝転んでいた場所が穴だらけになっていた。

 それなりに力のある魔人だとわかる。

「一人の俺を狙ってくるあたり、ランドールって魔王は慎重なのかな」

 不用意な違和感は生み出さない。神に気づかれることを恐れているようだ。

(俺しか“国殺し”を止められないか、神々も使えない連中ばかりだよなぁ!)

 言葉で自分を鼓舞する。

 剣を強く握りしめ、背中から黒く尖ったアームを2本生やした。

「ちょうどよかった、しかも女の子だし」

 フリュウはアームの尖端を異形の女の子に向ける。

 その目は餌を見つけた狼だ。

「俺さ、今」

 1本のアームを伸ばし、胴体に大穴を穿つ。

 身動きが取らないように、苦痛を感じさせないように、もう1本のアームで女の子の顔を貫いた。

「すごく、お腹すいてるんだ」




 フリュウはそのまま教室に帰ってこなかった。

 その後マティルダはやけくそになって指導するギーマの授業を受けて、今は昼休み。

 照れ隠しのようにも見える、本気の授業だ。

(ちょっと乱暴だけど、フリュウさんにやられて立ち直れたのはギーマ先生だけかな)

 これから先、フリュウとの出会いを通して人生がどう変化していくか、突風のように現れた彼に期待を寄せている。

 そんな彼はどこに行ったんだろう、マティルダは探しにいく。

 心当たりがある。長い時間ごろごろするにはうってつけの芝生が大学敷地内にはある。

「そういえばフリュウさん、お弁当もお金もないんじゃ」

 マティルダはフリュウは護衛として遠くから魔王の接近を警戒している、そう思っていたのだ。フリュウと校内で顔を会わせることはないと思っていたため、弁当は作っていない。

 フリュウはお金がなくてマティルダの家に居候しているわけで、当然弁当を買うこともできない。

(神様って食事しないのかな)

 思い返せばフリュウはかなり少食だ。たくさん作りすぎた食事にもほとんど手をつけなかった。

(なら私のぶんだけでいいか)

 お弁当を持って教室を出た。




「いたいた、フリュウさーん」

 芝生の上で背を向けて座っている和服の少年を発見した。

 顔はわからないが、この大学で和服を着てくる生徒なんてフリュウしかいないと確信できる。

 だがフリュウはまったく気付かない。よく見たら背を丸めて何かしているようだ。

 マティルダは何をしているのか気になってフリュウの前まで回り込み覗き混んだ。

 そこで驚きの光景を見る。

「……フリュウさん」

「へ!?あ、マティルダか、どうかしたのか?」

「いえ、それは」

 恐る恐る尋ねる。

 フリュウは真っ白で綺麗な足を持っていた。断面は綺麗に骨までスパッと斬られており、周りを見ると顔と胴に大穴の空いた女の子が横たわっている。

 そして血だらけのフリュウの手。

 誰がやったのかは一目瞭然だ。

「俺の食事、人間じゃなくて魔人のだ」

「そう……ですか」

 人じゃないことにホッと安堵をする。

 ここまでの話を聞いたところだと、魔王は人間を食べる。もしフリュウが魔王で自分を騙して“国殺し”を実行しようとしている。そう仮説をたてて蒼白していたのだ。

「死んでるの……それ」

 初めて出会った異形は死んだらすぐに消滅していたのを思い出した。

「仮死状態だ、じゃないと食えない」

 フリュウはもう開き直ってガブガブと食べ進める。“半人神ハーフ”として生きるならこの程度のことに慣れておく必要があるとの判断だ。

 綺麗な足の脹ら脛を、筋を噛みきって食べていく。

「……神の主食は魔人なの?」

「そうだな。旨い旨い言って食べるやつが大半らしいが、俺はハッキリ言って不味いと思っている」

「ははは、ならなんで食べるのよ」

 マティルダの乾いた笑い声。ちょっと刺激が強かったらしい。

 マティルダも適応しようと必死に我慢していたのだとフリュウは気付いた。

 フリュウは立ち上がると横たわっている仮死状態の女の子の胸を貫き、消滅させた。

「マティルダ、家畜って旨いか?」

「美味しいよね」

「お前らは神の家畜みたいなもんだ、だから食べる。注意しろよ、人間だからって神にただで守ってもらってるわけじゃない、伊座となればお前らは非常食だ」

 フリュウは足を完食した。

「一応野菜とかも神は食べれる、けど俺が魔人を狙って食べてるのは力を取り込むためだ」

 フリュウは寝転び空を眺める。

 魔人も魔王も神もいない、ただの平和な青空だ。

「俺は……力が欲しい」

「魔王を倒すため?」

「いや」

 フリュウは顔を傾けてマティルダを見つめる。

「この戦争を終わらせるため」

「頑張ってね」

「ああ」

 マティルダはそれしか言えなかった。

 大きな目標を前に、なんとアドバイスすればいいのかわからない。

 守られている側の自分が、守る側の彼になんと声をかければいいのか。

 また落ち込んでしまったマティルダにフリュウが明るい話題を振ろうと必死に考える。

 たどりついたのが弁当だ。

「マティルダに食事を邪魔されたせいで腹へってるんだ、弁当わけてくれよ」

 マティルダは心配されていることに気づいて顔をあげた。

「仕方ないなぁ、はい」

 弁当を布から出して広げる。唐揚げに玉子焼き、その横に大量のカボチャ料理が詰められた弁当だ。

「……」

「何ですかその目は」

「カボチャ消費に何日かかるかなぁと」

 げんなりするフリュウを他所に箸でカボチャの煮付けを挟んで差し出した。

「はい」

「は?」

「あーんですよ」

「えー」

 そこは唐揚げにしろよ、とか思う暇はない。何よりもその行為が恥ずかしい。

「俺らってそんな仲だった?」

 裏の意味でやめろと暗示させる言葉だが、マティルダは平然と返した。

「箸をフリュウさんに渡す時間を短縮できます、とても効率的ですよ?」

「はぁ……」

 深くため息を吐いて、フリュウは別の逃げ道を探す。

「誰かに見られていたら恥ずかしいだろ」

「見られてたらいっそのこと付き合っちゃいましょうか、昨日フリュウさんが私を求めてきたわけですし、問題ないですね」

「はぁ……」

 マティルダに口で勝てないことに気付いたフリュウは仕方なく行為を受け入れた。

「まだまだありますからね、カボチャは」

「はいはい」




 カボチャで腹を満たし、フリュウとマティルダは黒いコートに着替え、実技授業用に整備された森に入る。チームメイトはイヴとグランだ。

 実技授業では限りなく実戦に近づけるため、魔術師の小隊人数となっている3~4人のチームで戦闘を行う。

 もちろん寸止め設定だ。

 森の様子はモニタリングできるようになっている。

「フリュウさんはこのチームに慣れてないからテイルにくっついていって、見つからないようにね」

「わかった」

 戦闘を始める前の作戦会議。

 ルールはシンプルであり森の端と端からスタートし、相手全員に魔術を寸どめさせ退場させれば勝利。敗北条件はそれの反対だ。

 寸どめさせてから1秒は魔術の使用が認められており、相討ちもありである。

「見つかってもフリュウくんなら何とかなると思いますが」

「ばっか!それじゃ私達の勝利にならないでしょ」

「ははは」

「……まぁ見つからないようにするよ」

 グランの発言にノアが怒り、それを見てマティルダは苦笑いをし、フリュウもそれに近い顔をしている。

 お互い隠れて移動するため、一方的に見つかるということは相手に先制攻撃を譲るということだ、奇襲されてはほぼ退場が決定となる。絶対に避けるべきことだ。

「じゃあ作戦会議終了!後は個人で頑張って」

「作戦らしいことはなかったですが」

「いつも通りでってことだよね」

「マティルダ、のほほんとしたチームだな」

 フリュウの素直な感想にマティルダは再び苦笑い。

 ノアはモニタリング映像を送る妖精に向かって手を振った。準備完了の合図だ。

「あ、花火あがったよ」

「じゃあ行こうか、御武運を」

 ノアが左、グランは正面に走っていく。

「フリュウさん行きますよ」

「ああ」

 フリュウはマティルダの後を追って森に入る。

 それから10分ほど。

 予想していた通り隠れんぼが始まっていた。

「どこだぁ、相手さんは」

 弾幕が飛び交う森の中、木に隠れて敵を探す作業に入っていた。

 その弾幕は“猟犬ハウンド”という魔術で、光輝く細かな弾丸が何百何千と飛んでいく。これは致命傷ではなく削りを専門とする魔術だが、寸どめしたら勝利のこのルールではこれ以上ないくらいの回答だ。

「これが戦いかたか?」

「そ、相手さんは作戦を練ってきたみたいだけど、グランの火力でこっちの土俵に入れさせるみたいな」

 マティルダが自慢気に胸を張っている。

 相手は正面から4人で突っ込み、確実に1人落として人数有利をとる、という作戦だったようだが、グランの全攻撃フルアタックによる“猟犬”を見て大慌てで後退した。

「はぁ、戦略もなんもない個人競技かよ」

「それは言えてるかな」

 グランで相手を釘付けにしてマティルダとノアが止めをさす。作戦と言ってしまえば聞こえはいいが、個人に依存しすぎている気がしてならない。

「これじゃいつか足をすくわれるぞ」

 フリュウが言った時だった。

「目立ってるお前から」「ぶっ潰す」「調子に乗るなよ新入りが」「目障りなんだよ」

 相手チーム男4人がマティルダとフリュウを囲った。

(ひがみかよ)

 フリュウは冷めた目で彼らを見る。

「え!?そんなに抜けてきてるの!?」

「個人だけじゃ限界あるだろ、ノアの方は誰1人いってないからな、グランだけで見れるわけがない」

「ちょ!?どうするのよ!」

 冷静に分析するフリュウの背にマティルダは隠れてGOGを構えた。

「伏せて」

「え……うん!」

 フリュウが呟きマティルダがそれに従った。

 フリュウの両手には雷の塊が置かれていた。マティルダはこれからフリュウが何をするのかがわかった。

「4対1の交換なら問題ないでしょう」

 マティルダの予想通り“雷電槍レイトニトルス”が発動する。

「俺も……個人競技は得意なんだよ」

 4人同時に放たれた魔術の一斉攻撃は、フリュウにとどく前に空中で撃ち落とされた。

 大量に分岐された雷の槍がすべての魔術を貫いていたのだ。

「あ!?」「まじかよ……」「うっそ……」「なに……?」

 驚愕で固まる彼らにフリュウは狂暴な笑みを浮かべて言い放つ。

「相討ちにするつもりだったんだけど……交換にもならなかったなぁ!」

 再び雷の塊が何百もの槍に分岐した。

 その槍の切っ先がすべて無礼な不意打ちを実行した彼らの喉元に向かう。

「この……っ!?」

 最後の足掻きをするために、GOGを握りしめ魔術を行使しようとする者もいた。

 だが彼は何かがフリュウに足りないことに気づいて手を止めた。

「おま……GOGは……?」

「GOG、あのカードのことか、いらねえよそんな物」

 GOGなしの魔術に敗北した、それはエリート達のプライドを折るには充分過ぎた。

 フリュウは特別だ、そう受け入れるまで時間がかかることだろう。

 この勝負はフリュウの1人勝ちとなった。




 大学からの帰り道、チームメイト4人でマティルダの家まで一緒に歩いていくことになった。

 話の内容は10割がフリュウのことである。

「フリュウさんすごいね!GOGなしであの威力ってどんな魔力保有量してるのよ!」

「ま、まぁな」

「フリュウくん、後日暇な時に僕と弾幕合戦しませんか?」

「あ、ああ」

 ノアとグランからの質問や挑戦を曖昧な返事で返しながらフリュウはマティルダに助けを求めた。

「ほら、マティルダも話に入りたがってるし」

「ええ!?」

 唐突に話を振られてマティルダは困った顔をする。

 そんな2人の仲の良い光景を見てノアとグランはニヤニヤと笑みを浮かべた。

「そうだテイル、良かったね念願の彼氏ゲットだよ」

「マティルダさんは優しい人です、よろしくお願いします」

「え!?え!?」

 話がよく理解できないマティルダは疑問の言葉を何度も連ねる。

 フリュウは心当たりがあった。

「もしかして2人とも、お昼休みのあれを見ていた?」

「もっちろん!途中からだけど声も聞こえてたからね」

「フリュウさんに遠回しな告白してましたね、僕達がしっかり見ていましたよ」

「あー!違うから!私とフリュウさんはただの友達だから!!」

 顔の前で手をバタバタと動かして照れ隠しをするマティルダ。

 やはりからかっていただけか、とフリュウは安堵する。

「お弁当まで食べさせてあげて、できちゃってるよね」

「はい、では僕達はここで、同居生活を楽しんでください」

 ここでマティルダの家に着いた。ノアとグランはそそくさと退散していく。

「おいマティルダ」

 プルプルと体を震わせて真っ赤になるマティルダに声をかけたのだが

「あれはフリュウさんをからかっただけで!特に何も無いですからね!」

 全力で照れ隠しをされた。

「わかっているよ。ふふふ」

 それがおかしくてついつい笑みが零れてしまう。

「なんですか」

「いや、学生も悪くないと思ってな」

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