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15. ありすのお茶会

 アスト王国最大の医療機関、その一室。

「……んん」

 柔らかな朝の日差しに加え、医療機関独特のぴりぴりとした空気を感じてグランは目を覚ました。

 まず目に入ってきたのは照明器具と角ばった医療器具、そして知らない天井だ。

「ここは……どこで」

「グランも起きた?」

 柔らかく聞き馴染んだ声に振り向くと、思った通りノアが隣で座っていた。

 どこかもわからない場所に突然いたグランだが、見慣れた人物を確認して安堵する。

「起きましたよ、ここは」

「病院、吹き飛ばされたの覚えてない?」

 グランは必死に思い出そうと頭を抱えた。

「ふふふ、珍しいの見ちゃったよ」

 普段優等生で悩む姿など想像もできないグランの頭を抱えた姿に、ノアは憎らしく笑った。

「もしかして、あの衝撃波ですか」

 衝撃波は衝撃波でも、なにが起きてその後自分はどうなったのかは覚えていない。

 試しに手をグーパー繰り返したり、膝を曲げてみる。

 動くのだ、さらに不思議なことにどこも痛くない。

 見たところ昨日の昼からずっと気絶していたのだろう。それほどの衝撃を受けても傷1つついていなかった。

 グランはただただ首を傾げるしかない。

「それから……どうなったんですか」

「フリュウさんがすぐさま治癒魔術を施してくれたみたいで、私なんか腕がちぎれた気がしたのに、ほらこのとーり」

 ノアが両手を広げてクルリと回る。

 ちぎれた、それが信じられない。

 魔術師志望の生徒だからこそ知っている。治癒魔術は魔力で偽りの肉体を作り出し、ゆっくりとそれを定着させていく魔術、故に1日程度で自由に動かせるはずがないのだ。

 ちぎれた部分の神経が正常に接続されるまで少なくとも1週間はかかると予想される。

「疑ってる?」

「ああ」

 即答されると、ノアは困ったように小さくうなった。

「うーん、確かに私も信じられなかったよ?でもこの結果を起こせる魔術を治癒魔術以外に知ってるの?」

「……知らないな」

 GOGとはよく言ったものだ、魔術は本当に罪深いもので、破壊から再生、創造すら可能だ。

 だがその種類の割合は狂っている。

 破壊を行う魔術が9割を占め、その他の1割で治癒魔術などが詰め込まれている。

 破壊兵器であるGOGでここまでの治癒魔術を行える、ノアに諭されてもグランの疑いは晴れなかった。

 黙ってしまったグランとノアの間に沈黙がのし掛かるが、それは長く続かなかった。

 コンコン、と病室の扉をノックする。

 そしてすぐに入ってきた。

「お邪魔しますねー」

「……マティルダ、入るのがはやい」

 心配になってマティルダが朝早くから駆けつけた、もちろんフリュウも付き添いだ。

 目的の人物を見つけて早足で駆け寄るマティルダに、フリュウの注意など聞こえていない。

 グランの横のイスはノアが座っているので、マティルダはノアのベッドにちょこんと座った。

「調子はどうだ、どこか痛みとか接続が悪いとこがあれば教えてくれ」

 病室の扉を閉め、フリュウはゆっくりと歩く。

 フリュウには痛みや接続不良が起こることなどあり得ないとわかっているが、2人には治癒魔術だと伝えてある。聞かなければ不自然だ。

「ぜーんぜん、ほんとに怪我したのかなって感じ」

 顔だけフリュウのほうを向けて、ノアはあっけらかんと答える。

「気味が悪いほど正常だよ、すぐにでも教室に戻れるね」

 グランはそう言ってベッドから起き上がろうとする。

「勉強熱心なのはいいが、念のため1日は安静にしてろよ」

「そうそう、今日は私もフリュウさんも仮病でサボるって決めたから」

 フリュウに同調してマティルダがグランをベッドに押し戻す。

「いいんですか、フリュウくんはともかくマティルダさんまで」

「爆発に巻き込まれて立ち直るために休日くださいって、昨日すごーく落ち込んだ顔で伝えたから大丈夫ですよ」

 とってもいい笑顔で言われては、不正をしていようと黙るしかない。グランはそこの指摘は諦めた。

「爆発って、なにが起きたんですか?」

「それは私も詳しく聞いてないからさ、知りたいな」

 これは純粋な興味本意。自分を気絶させた得たいの知れない攻撃、それを知りたいのは自然だ。

 だがフリュウは、真実を教えることはできない。

「魔術師がいろいろ調査した結果、かなり密度の濃い魔力が大学に漂っていたようだ、その威力からして“流星群ルナーズライン”だと推測した」

 これは嘘だが本当の話だ。

 密度の濃い魔力、それは魔王が撒き散らした神威。

 偶然にも魔王の起こした状況と“半人神ハーフ”による違和感吸収が合間ってとても強力な魔術による攻撃だと魔術師達は推測した。

「“流星群”ですか」

 グランも納得したらしい。あの魔術なら可能だと。

「強力だが慣れるまでは着弾地点を上手くコントロールできない魔術だ、魔術師達はどの国からの流れ弾か血眼で検証してるぜ、報復しようとな。頂点貴族に当たりそうになったんだから国も黙っていないだろうし」

 めんどくさいことになった、とフリュウは病室を出ようと歩く。

「あれ?フリュウさんもう行っちゃうの?」

 ノアが意外そうな声音をして首を傾げる。

「俺は原因を直接見ているからな、だが国の魔術師は信用できねえし、俺は個人でやらせてもらう。行くよマティルダ」

 フリュウはドアノブに手をかけた。

「もう行くんですか」

 マティルダは残念そうにベッドから降りた

「ただ休めると思うなよ」

「わかってますよ」

 マティルダがついてくるのを確認してフリュウは扉をあける。

「フリュウさん」

 ノアが呼び止めた。

「ありがとね、もしかしたら私昨日で、魔術師生命を絶たれてたかもしれないから、感謝してる」

 慣れない言葉を言ってしまった、とノアははにかんだ。

 グランはそれを見て微妙に顔を伏せた。

「それはよかった」

「それじゃ明日は教室でねー」

 フリュウは少し笑顔を見せて、マティルダは手を振って病室を出ていった。

 ノアは目の前で考え込むグランを見て呆れてため息を吐く。

「いい加減正直になったら?フリュウさんがいなかったらアンタだって魔術師諦めることになってたかもしれないんだから」

 魔術師が魔術によってトラウマを植え付けられた、もしくは魔力保有器官を損傷した場合、もう魔術を扱うことはできない。

 グランは腰に大きな傷を負っていた、普通の治癒魔術であれば確実に魔術師生命は絶たれていたはずだ。

 魔力で作った肉体に、魔力を蓄え生み出す能力などあるはずがないのだから。

「フリュウくんは……魔術師の域を越えている気がするんですよ」

「はぁ……まぁすごいけどね、なにが言いたいの」

「わかりません」




 喫茶店“ありす”。

 今日はお店は繁盛しているようでお客さんに溢れる中、この店の店長がカウンター席の客に付きっきりだった。

「なるほど“収集の異形コレクター”に襲われたと、はははっ」

「笑い事じゃないですよ!私の友達が巻き込まれたんですから!」

 襲われたと聞いて笑い声を漏らすミコトに、マティルダは口調を強めた。

 ミコトは軽く手で謝って、だが笑みは消さない。

「ごめんね、でも団長が苦戦するなんて珍しいから、あの自信家な団長が苦戦する姿を想像するとね、はははっ」

「おい聞こえてるからな」

 抜けた店長の代わりにフレンチトーストをつくって、コーヒーを運んで、注文を聞いてと大忙しなフリュウが走りながら文句を言う。

 朝食の時間と被ることもあってモーニングメニューが飛ぶように売れる。屋外テーブルも満席だ。

「あちゃ、聞こえてたかぁ」

 失敗失敗、と顔を背けるミコト。

「それも聞こえてるからな」

「後で裏メニュー奢るから許してください」

 裏メニュー、と言った瞬間店内にどよめきが走った。

「いらん!さっさと働け」

 地獄耳のフリュウに向かって提案をするが即答され、ミコトはわざとらしくショックを受ける。

「ううう……団長に嫌われた」

「あれは嫌われたというより呆れられたんじゃないかと」

 泣き出しそうな顔でカウンターに伏せるミコトにマティルダはフォローをいれる。

「そういえばその裏メニューってなんなんですか?店内がざわめきましたけど」

「私の好きな部位を提供します」

(あ、確かにフリュウさんはいらなさそう)

 フリュウは“共食い”を繰り返してきたらしいが、仲間はとても大切にする性格だとマティルダは思っている。

 同時にざわめいた理由もわかった。

(ミコトさん美人だしファン多いんだろうなぁ)

 しかも巫女服、好きな人は一定数いると思われる。

 魔王の一番の欲望は破壊欲だとされているが、その他の欲がないわけではない。

「フリュウ団長限定のメニューなんですからぁ」

 ミコトは足をバタバタさせて拗ねてしまった。

「たぶんフリュウさんが裏メニューを頼まないのは、ミコトさんを大切にしているからだと思いますよ?」

「……なんで」

「フリュウさんの性格から大切な人を傷つけたくないんだと思います、フリュウさんはミコトさんが大好きなんですよ、だってかじられるの断らなかったじゃないですか」

 マティルダのフォローが効いたようだ。ミコトはガバッと顔を上げてマティルダに抱きついた。

「ありがとぉマティルダちゃーん」

「ど、どういたしまして」

 抱きつくミコトの頭を撫でながらマティルダは考えた。

(ミコトさんならランドールにマークされていないかも)

「ミコトさん、フリュウさんには内緒で相談が」

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