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 真昼の軟らかな色彩が景色を包むなか、その魔王はやってきた。

 軟らかな色彩を破壊しながら飛来する赤。

 その赤が一瞬、洪水のように溢れ、景色を満たしたと同時に暴風への変わった。

「え!?」

 気づいたときにはもう遅い。

 マティルダはその洪水に呑み込まれ、吹き飛ばされていた。

 フリュウが警戒しているから大丈夫、そう楽観視していたマティルダは動転した。

 幸いなことに擦りむいた程度で済んだマティルダは、慌てて立ち上がり2人の姿を求めてあたりを見回す。

 そして見つけた。

(ああ……っ!)

 グランは衝撃で大木に強く叩きつけられたらしく、ピクリとも動かない。

 ノアはどうしたか知らないが、左腕がちぎれていた。

 自分の見ている光景が信じられない。

 そして、こうなったのは自分の近くにいたからだ。

 マティルダは脱力感でいっぱいになり、膝を折って崩れた。

(ごめん……私のせいで)

 力の抜けたマティルダに飛来した魔王は迫る。

「さてと、僕のコレクションが無事でよかった、はやくしないと怖い怖い神や魔王に横取りされてしまう」

 指輪から現れた蝶の羽のような異形をしまってマティルダに歩み寄る。

(これが……魔王……)

 その容姿はまったく貫禄を見せない。

 長身でタキシードを着た線の細い美男子、本当に魔王なのかと疑ってしまう。

 学校にまったく似合わないタキシードに、すべての指に指輪をしているだけの、単なる変な格好の男性。人ではないと言われればそんな気がしなくもない、その程度である。

「こんにちは、早速だけど、僕のものになってくれ」

 またしても魔王は指輪から蝶の羽のような異形をだし、マティルダを捕らえようとした。

 その時、2人目が飛来した。

 それはマティルダを護るように着地すると、口角を吊り上げて嗤った。

「マティルダ肩肉ジューシーなのありがとう、次魔王(おまえ)な」

 フリュウは人避けの結界を張ると同時に、“サソリ”で羽を弾いた。

「ん?……かっ!?」

 タキシードの魔王はフリュウに蹴り飛ばされた。

「フリュウさん!!」

 思わず叫んでいた。

 涙が出そうな勢いで、目の前の希望を目に焼き付ける。

 そしてハッと我にかえって再び叫んだ。

「ノアとグランが危ないの!手当てを!」

 異形の回復力は現代医療を遥かに越えるものだった。もしかしたら2人は助かるかもしれない。

 だがフリュウは悔しそうに告げた。

「魔王が近くにいる今、異形をそっちに割くのは無理だ」

「そんな……!」

 素っ気ないようにも思える言葉だ、だがそれは反論の余地のない正論だった。

 もしフリュウが魔王に負けたらそれどころの話ではないのだから。

「くっ!!」

 なにもできない自分が悔しい。

「マティルダ!その2人を傷つけないように遠くにどかせ!」

 フリュウが背を向けたまま叫んだ。

 自虐体質のマティルダを助けようと、彼なりの気遣いだ。

「え……」

「コイツを殺して、すぐその2人を治してやるからよ」

「わかった!」

(助かる!フリュウさんが言ってるんだから絶対に!)

 マティルダは急いで動かないグランを持ち上げて遠くの芝生に移動させた。

「お前が“収集の異形コレクター”のランドールか」

 蹴り飛ばし、魔王が体勢を整えている隙にフリュウは距離を詰める。

「来たねぇ怖い魔王、それにしてもどうして真名を知っているのかな」

「使えない部下が言いふらしてたぜ」

「ふむ、真名が漏れるくらいよしとしようか」

 ランドールは髪を整えて立ち上がった。

 そして余裕のある笑みを浮かべる。

 相手が魔王ならつけいる隙がある、と思っているようだ。

「まずは非礼を詫びよう、そして相談なんだが、君も“国殺し”をしたいようなら僕と組まないか、魔王2人で手を組めば今来ている神も返り討ちにできるはずだ。悪くない話じゃないかな」

 “半人神”を近くに置く魔王、普通に見れば“国殺し”の準備だと思う。そのため余裕があった。

 だがフリュウにそんな欲はない。

「断る、そしてお前も殺す」

 ランドールは睨み付けられやれやれと肩をすくめた。

「1人でやりたいのかな、君は」

「はっ!なに言ってるんだ」

「ん?」

「お前が気に入らねえから邪魔してんだよ」

 フリュウは目を大きく見開き、瞳を小さくし、片方の口角を吊り上げ、蔑むように発した。

 ピキッとランドールの血圧があがる。

「最初はほんの戦力調査程度のつもりだったんだ、けどやめたよ」

 ランドールの指輪それぞれから異形が発現される。

(なるほどな、“収集の異形”ってこれのことか)

 異形のコレクション、つまり魔王や魔人を倒し、異形を発現させる細胞の塊を刈り取ったということ。

 何人もの異形使いを殺してきた証。

 見せびらかし、怯えさせることが目的だったようで、すぐに指輪にしまった。

(すぐに終わるといいんだがな)

 チラッと後ろを見るとマティルダが急いでノアを避難させていた。

「君の異形も、狩らせろ」

「嫌だね」

 フリュウも“サソリ”を8本すべて発現させ、“キツツキ”も手にする。

「剣での勝負を所望するのかな、ならこちらも」

 ランドールはフリュウの“キツツキ”を見て、指輪から異形を伸ばした。その異形は瞬く間にランドールの腕に巻きつき、槍のように変形する。

「そんなブサイクな剣に負けるとは思えないのでね」

 “キツツキ”の長すぎる刀身を言っているようだ。

「リーチあるほうが強いに決まってんだろ」

 フリュウは勢いよく走りだし、長すぎる刀身を全力で活かすように振り抜いた。

「んっ……当たんないよそんなの」

 フリュウの直線的な力任せに振るう剣はことごとく避けられる。

 ランドールは嘲笑うかのようにアクロバティックに回避を続ける。

「それでいいんだよっ!」

 あるのは剣速とそこからくる威力だけ。嘲笑う者がいても仕方ない。

「顔はまぁいいけど、ブサイクだね君」

 ランドールは指輪から蝶の羽の異形を発現させ、“キツツキ”を受け止めようとする。

(これで終わりさ)

「らぁっ!」

 だがその羽は砕かれた。

「なに!?」

 予想外の事態にランドールは同様を隠せない。

 その隙にフリュウは意識を剣技に集中させる。

 剣技では異形を壊す威力はでない、それがフリュウが魔王討伐を繰り返して出した答えだ。

 そもそも魔王の戦い方は異形による力任せである。異形があるが故に魔王は剣を使わない。

 ならばこちらも力任せにやれば壊せるだろう。そう答えを出した。

「いい指輪だな、もらうぞ」

 フリュウは“サソリ”を起動させる。

「くっ……」

 壊せた蝶の羽でそれを防ぐ。

 その隙に後退しようとするが、

 ―――――ドッ!!

 羽で遮られた視界の中、フリュウが勘だけで突きを放つ。

 それは正確にランドールの指を射抜いた。

「あっ……!」

「おかしいなぁ、羽しかもげなかったか」

 残念がるフリュウの前に、巨大な羽がゴトンと音をたてて落ちた。

「くそっ!僕のコレクションを!」

「壊しちゃったよ、ごめんねぇ」

 フリュウまたしても蔑むように発した。

 とは言えランドールも歴戦の魔王、すぐに冷静さを取り戻す。

「ふぅ……まぁいいさ、次は僕のコレクションをすべて君に見せてあげるとしようか」

 ランドールが跳躍し、勢いよくマティルダに向かっていく。

「えっ」

「僕の愛しき“半人神コレクション”、これを」

 ランドールは動揺して動けないマティルダに1枚の紙切れを渡した。

「これが一番の目的だったし、まぁよしとしましょうか」

 マティルダからすぐに離れて、ランドールはフリュウを見た。

「じゃあね、怖い魔王、彼女は僕がもらっていくから」

 ランドールは再び凄まじい速度で空を翔ていく。

「てめっ!」

「フリュウさん!はやく手当てを!」

「くっ……あの野郎」

 してやられた、フリュウは歯を噛み締める。

 マティルダの友人を傷つけ、もし負けそうになっても追ってこれない状況を作る。

「なにを渡されたんだ」

「いえ、要約すると『こっちにこないか』程度です」

 マティルダは作り笑いで返した。

「そうか。2人とも異形の回復力ならすぐに治る、腕をくっつかせる程度なら余裕だ」




 その日の夜。

 マティルダは1人で手紙を読んでいた。

『お嬢ちゃんの騎士はずいぶんと腕がたつようだ、だが所詮1人、お嬢ちゃんのお友達までは護れないだろう。

 君1人でアスト王国を歩いてくれたまえ、そうすればすべてが解決する』

「どうすれば……」

 すべては作戦通りだった。

 ノアとグランは逃げるための時間稼ぎだけじゃない。

 ギリギリ殺さない程度に傷つけて、人質にするために手加減していたのだと知った。

「私がいたら……2人は……」


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