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1. 世界の交錯路

 この世界はいつしか3つに別れた。


 人の住む世。

 神の住む世。

 魔の住む世。


 人の住む世には、世界の2つの裏側から来た人ならぬ者達が、この世の中に蔓延っている。


 神々が創造したこの人の世で、欲望のままに遊び尽くす魔王達。

 それは神々と魔王の戦争にまで発展した。


 魔王は神々と同様創造者、人は創造者である魔王をとめることは出来ず、次々と喰われていった。


 裏側の住人の存在は人の世を歪ませていく。

 自らの創造した人の世を守るために神々は人の世に出陣することを決意した。


 しかし神々も人からしたら裏側の住人、巨大な力を行使することは自らが歪みになりかねない。

 神々は苦渋の末、力を大きく縮ませ人の世に入った。


 神々と魔王の全面戦争の始まり。

 それは同時に、人の魔術文明の始まりでもあった。




 魔術。

 それは近年発見された1枚のカードから発現された理想の具現化。

 研究の結果、そのカードは人類より遥かに高度な文明を持つ生物の臓器だと判明する。

 そのカードは特殊な暗号を並べ認識させることで摩訶不思議な現象を世に現すことができた。

 そして、それを求めて争いが起きた。

 人々はそのカードを集め、人類の発展のために使うことを誓う。

 そのカードはいつしか人々の間でこう呼ばれるようになる。

 神の罪。

 Guilty of God.

 GOGと。




「こっちか……奴が逃げた先は」

 少年は夕焼けに染まる草原から見える建物郡を眺めて呟く。

「アスト王国。世界最大級の魔術国家だな、人口の多いこの国なら餌には困らないというわけか」

 その呟きを確認ととった少年の中に住む者は答える。

「餌ね……俺もその餌出身なんだけど」

 ばつの悪い顔をした少年にクスクスと笑い声が聞こえる。

「なら早く同族を助けに行けよ、これだけ人口の多い国ならば」

「魔王がいるかもしれないな」

 体内からの声に頷いて、少年は歩を進めた。




「うーん……やっぱり混んでるよね」

 アスト王国魔術大学に通う女子生徒マティルダ。

 深紅の腰まである長髪を揺らす彼女は登下校に使う商店街が人で溢れているのを眺めてため息を吐いた。

「知ってたよ……」

 人混みの中で立ち止まって呟く。

 今日は10月の31日つまりハロウィンだ。アスト王国はお祭り騒ぎである。

 まだ夕暮れだというのに通れないほど人が多い、夜になったらどれだけ人が集まるのか。マティルダは頭が痛くなりそうだったので考えるのをやめた。

「いいなぁ」

 楽しそうにカボチャの被り物をしている人を見つけて羨ましがる。

 マティルダは孤児だった。国から生活資金を渡されているが余裕はない。カボチャの被り物なんかにお金を使えるはずがなかった。

「ずるいよ……神様は不公平だね」

 自分が孤児なのを存在するかもわからない神のせいにして路地裏に飛び込んだ。

 マティルダの家はこの人混みを抜けて少し先にある煉瓦の一戸建て。マティルダはその家を亡き伯父から受け継いで、孤児院を出てから一人で住んでいる。

「初めて通るけどなんとか着くでしょ」

 楽観的な答えを出して薄暗く誰もいない路地裏を歩いていく。

 家の距離と方角は覚えているため少し道が違っても着くはずだ、確かにその通りだ。

 だが今日は違った。

 そこにはイレギュラーがいた。

「はぁ……はぁ……アイツ!僕をこんなに切り刻んで!」

「え……?」

 マティルダは路地裏の枝分かれした脇道を見た。

 背中から羽を生やした男の子が苦しそうに肩で息をしている。

「な……なに……?」

 その男の子は明らかに異形、人ではないと悟った。

 ハロウィンだからといって仮装とは思わなかった。こんな路地裏で凝った設定をつけた仮装を誰がするのだろうか。

 マティルダは未知の生物に対する恐怖を思い出す。

「許さない……!絶対に殺す……!」

「あっ……」

 恐怖のあまりマティルダは肩にかけていたカバンを落としてしまう。

「んーー?」

 声と音に反応した異形の男の子がマティルダに気づいた。

「なんだこいつ?」

「ああ……」

 マティルダは路地裏でしりもちをついてしまう。

 蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、身体全体がガタガタと震え出す。

 動けなくなったマティルダを見て男の子は笑みを浮かべた。

「ラッキーだなぁ僕は」

「……?」

「全身痛くて餌をとれなかったのに、餌が自分からやってきてくれた。ありがとうね君、これでランドール様のとこに帰れる」

「……!!」

 餌という単語を聞いてマティルダは蒼白した。

 今のアスト王国を騒がしている事件を思い出す。

 連続喰殺事件。一家全員が何者かに殺害された、その殺害方法が一風変わっており、食べられて殺されていた。

「いやっ……食べないで……」

 喉の奥から振り絞って出した言葉も、捕食者がその気になってしまったらむしろ逆効果、食欲をそそるスパイスに変わってしまう。

「傷だらけの僕のところに餌がやってきた、もうこれは運命だよ。美味しく食べてあげるから安心してね」

 男の子は手を伸ばしてその腕を巨大化させた。

「あっ……」

 ガシッと片手で掴まれて思わず声が漏れる。

 ここにきてようやく抜け出そうと抵抗する。だが巨大化した腕の力は余りに強くてびくともしない。

「痛みを感じないように殺してから食べてあげるよ」

「やめっ……」

 巨大な腕で玩具を扱うかのようにマティルダを持ち上げ、首もとを噛み砕こうと男の子の顔が迫る。

「ひっ……」

「はぁ……はぁ……」

 マティルダは男の子顔を見てさらに恐怖した。

 口は耳元まで裂けて奥歯まで見えている。

「いっただきまーす」

「…………いやだ」

 どれだけ叫びたくても声が出ない。

 もし叫べたとしても路地裏からの声なんて人混みに消されてしまう。

 マティルダのこれまでの日常は、呆気なく砕けた。


 ────ガギンッ。


「……?」

「うぅ……」

 硬い金属音のようなものが響いてマティルダが腕から投げ出される。

「何……」

 瞬時には理解できなかった。

 必死に抵抗してもびくともしない腕からどうして逃げ出せたのか、それだけはわかった。

「う……うっぎゃあぁぁぁぁあああっ」

 マティルダを掴んでびくともしなかった巨大な腕が切り落とされ、男の子は大口をあけて悲鳴をあげている。

「……!!」

「やっと見つけたよ、逃げ足だけは上手いようで」

 マティルダの前には一人の少年が立っていた。黒髪に紺色の甚平を着た異国風の少年だ。

 少年は剣を振るって血をとばし、絶叫する異形の男の子を見下す。

「どうせなら主のもとまで案内してほしかったんだけど」

「お……お前!!よくも僕の腕を!!」

 異形の男の子が残された側の腕を巨大化させて少年に叩きつける。

 少年は再び剣を振るって巨大な腕を切り落とした。

「あ……あっあああ」

「こんな貧弱な魔人しか作れないとは、お前の主はそれほど強くないのかな」

 少年は倒れる男の子に剣を向け、男の子はそれを見て言葉を失った。

「な……その剣……まさか“明星”か」

「訂正する、逃げ足と知識はあるようだな」

「ぐぎゃあぁあああ」

 悲鳴をあげる男の子が少年の言葉に負け惜しみを流す。

「黙って調律にいそしんでいればいいものを……!」

「嫌だよめんどくさい」

「こんなことしてランドール様が……黙ってないぞ!」

「そうだね、すぐに断末魔の叫びをあげる事になるな」

 歯を食い縛り睨む男の子に少年は無慈悲な制裁を与えようと迫る。

 剣を掲げてそれを勢いよく降り下ろした。

「けどまずは……お前のから聞かせろ」

「ああああぁぁ……」

 ザシュッと肉が裂ける音が聞こえて男の子が断末魔をあげる。

 少年が鮮血の滴る剣を抜くと、男の子は煙のように消滅した。

 マティルダはただ助かった、とだけ認識して少年を見上げる。

「あっ……あのっ……!」

「ダメだよ女性が一人で路地裏なんかに入ったら」

「へ……?」

 思いの外優しい声が返ってきてマティルダは言葉をつまらせる。

 本当にさっき男の子を殺した本人なのか疑問になるほど。

「目撃者は一人だけど、どうする」

「本来なら一人くらい見逃すところだが、完全な異形を見てしまっては言い訳もできん、消すしかないな」

「はぁ……結局調律をすることになるのか」

 マティルダは驚いた。少年がどこにもいない誰かと会話をしている。

(消すしかない……?どういうこと……?)

 助かったと思ったらまたしても不吉な単語が聞こえて、マティルダは少年を向いたまま少しずつ後退する。

「動かないで」

 少年が少しずつ距離をとるマティルダに気づいて近寄る。

「あっ……」

「怖がらなくていい、すぐに終わる」

 マティルダは路地裏で少年に壁ドンされ、身動きがとれない。

 そのまま目をそらすこともできずに少年の指が額に迫った。

「痛っ……!」

 少年の指が額に触れるギリギリでマティルダは強い頭痛に襲われた。

 そのまま手をついて左手で頭を支える。

「もう一人で路地裏はだめだからね」

 少年はきびすを返して路地裏の奥に歩いていく。

(何を……されたの!?)

 痛み以外考えられなくなるほどの頭痛の中でマティルダは感覚だけで立ち上がった。

(とりあえず……お礼言わないと)

 食べられそうな自分を助けてくれたのだ、それは最低限必要だと必死で声を出す。

「あのっ!」

「え?」

 少年はマティルダが立ち上がれたことに意外感を示して振り向いた。

 立ち上がると痛みは少しずつ和らいでいって、いつの間にか消えていた。

「助けてくれてありがとうございます!」

「え……ああ」

 マティルダは深々と頭を下げてから少年を見るのだが、少年は居心地の悪そうな顔をしている。

「その……なんだったんですかさっきの男の子は」

 マティルダの質問に少年は睨んで返した。

「君、さっきことを覚えているのか?」

 少年からの質問の意図がわからない。

「は、はい」

 マティルダは恐る恐る頷いた。

 覚えているのか、それは当たり前だ。

「君は……何者だ?」

「ふぇ!?何者……?」

 鮮血の滴る剣を向けられビクッと大きく体を震わせる。

「魔人か、俺の同業者か、それか人間か」

 少年の問いはさらにマティルダを混乱させる。

(魔人?同業者?)

「答えられない……か」

 マティルダが口ごもったことを言えない理由があるととった少年はマティルダの首もとに刀身をそえる。

 鈍く光を反射する刀を眼前で見て、マティルダは考えるのをやめ慌てて答える。

「に、人間だよっ」

 手をあたふたと動かして殺さないでと訴えるマティルダを見て少年はため息混じりに剣を下ろす。

「ならなぜ早く答えない」

「その……よくわかんない単語がでてきたから」

「本当だな」

「本当です」

 少年はマティルダを見定めるように眺めて考え込んだ。

 じろじろと見られることが恥ずかしくなってマティルダはついつい胸元を隠す。

「何ですかっ」

「何も?」

 そんなことを言いながらも少年はマティルダを見るのをやめない。

(なんで記憶が残ってるんだ?)

(わからん、そういう体質なのかもしれんな)

(あれだけ恐怖を煽ったわけだし、嘘をついてるとは考えにくいからなぁ)

 少年は心の中で会話を始める。

 そしてあっけらかんとした態度で顔をあげた。

「まぁいいや、この事は内緒にしてね」

「も、もちろんです!」

 こんな殺人現場を他人に言いふらせるわけないよ、とマティルダは心の中でツッコミを入れる。

 少し恐怖を含んだマティルダの顔を見て少年は満足そうに笑みを浮かべた。

「じゃあね、今度から帰路に使わないように」

 少年が手を振ってマティルダから離れていく。

「あのっ……!」

「何かな?」

 マティルダはいつの間にか少年の甚平の裾を掴んでいた。

 なぜ自分が少年を引き留めたのかわからず、咄嗟に話を考える。

「私マティルダって言います、お礼とか……何でも言ってください……!」

 勢いよく顔を近づかせて訴えてくるマティルダを見て、少年は困ったように目をそらした。

 その反応にマティルダは羞恥心で目をそらした。

 沈黙を先に破ったのは少年だった。

「じゃあもし俺が困ることがあったら、マティルダに頼るとするよ」

「はい!」

 ため息混じりに言われた言葉にマティルダはハキハキと返事をした。

 孤児のマティルダは、人に頼る頼られるの関係が嬉しかった。

 いきなり呼び捨てで呼ばれることは何とも思わなかった、少年からはそうするのが当然だという貫禄があった。

「できればもう俺と出会わないことを願っててよ」

 そう言って少年は今度こそ路地裏に消えた。

 少年が消えた場所を見つめ続けるマティルダ。

「あ」

 そこで先程の自分の言葉を思い出す。

「ああぁぁぁ!」

 自分が非常に誤解されやすい発言をしたと認識して頬を朱に染めた。

 深く息を吐いて落ち着かせる。

「ふぅ、ほんとに何だったんだろ」

はじめまして祈です。しばらくは毎日更新をしていきます。よろしくお願いします。

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