従者
____次の日、昨日は死神に辞令が下っただけで正式に着任するのは今日からだ
昨日私はお父様にあの後掛け合った
『もう、決まった事だ…それに彼、、、死神は了解してくれたじゃないか』とお父様は両手を広げやれやれといった様子で言う
『それにしたって、急すぎるわっ‼︎
ファストにしたって…なんでもっと早くに言ってくれないのっ⁉︎』私はお父様の自室でテーブルを何回も強く叩きながら大声で言う
『それは、サナが悲しむと思ったからだ…』と気まずそうに言うお父様
『悲しむ…何故私が悲しむの?』と首をかしげる
なんで、私がファストがいなくなる事を悲しむと言うのだろう?
寧ろ誇る事だと思う…何と言っても
あの、入団する事さえ難関とされる騎士団に
それも__騎士団長自らの直々の推薦なのだ
入れば、ファストの実力なら出世間違い無しなのに…なのに
なんでそんな幼なじみを持って嬉しいと思う事なのに
悲しまなければいけないんだろう?
私が暫くそうしていると____
『まさか、本当に分かっておらんのか?』と
危機迫るという様子で聞くお父様
『だから、さっきから何を言ってるのお父様?』と私はお父様の態度にウンザリして面倒だと思いながら言うと
『ハァ…確かにサナには女の子らしい生活も送らせなかったからな、仕方ないか』とお父様は勝手に自分に納得した様子
(何よ…さっきから)
私はふいに頭に過ぎった事を聞く
『ねぇお父様、死神の持ってたあの大剣何か知っている事無い?』
どうしてもあの大剣…というより、死神が気になる
初めて会った時から彼の事がどうにも他人には思えない
それにあの大剣…前に見た事がある、、、そんな気がしてならない
『あの大剣か…私もどこかで見たような気がするんだ…う〜ん、どこだったか、、、、あ‼︎
確かここに____有ったっ‼︎』
と言って取り出したのは…
『歴代騎士団長記録名簿?』と記された分厚い一冊の本だった
『あぁ、これは歴代の騎士団長の名前と武器が記録された書物だ…顔は載っていないが、武器の形状は絵だが書かれている』と言ってパラパラっとだが、見せてくる
確かにそこには持主の名前と武器の名前その形状が絵では有るが、記されていた
『丁度今から10代前__11代目騎士団長
ウィン・クーウェルト…そして彼の武器は‘‘ガイア’’だ』と言ってあるページを開いて私に見せてくる
そこには、死神が使用していた大剣が色形全て余すところなく描かれていた
だがそれより驚いたのは
(え…10代前?)
そう、その武器の所有者はもう1000年も前の騎士団長…偉人だった
『なんで、なんで死神は…そんな昔の武器を持っていたの?』と無意識に疑問を口にしていた
『それは、分からない…だがこれだけは言える
確証はないが__この二人は知り合いだったんじゃないか?』
知り合い?__でもそうでもしないとあの大剣を手にする事なんて出来ない筈
でも、どういう経緯で死神はガイアを手に入れたんだろう?
__そして今に至ると…結局死神の事は何一つ分からない、、、それどころかかえって謎が深まった
大丈夫かな?今日従者として着任するけど
(こんなにも、不安に感じるものなんだ)
いつも傍にはファストがいたから…それが普通だと思い込んでいた
私はこの時初めてファスト…幼なじみの有り難みを思い知る
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ガチャッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私の部屋のドアノブが回る…が、鍵を掛けてあるので開かない
(だっ…誰っ?)
いつも、使用人やファスト達なら部屋に入る前にノックをして居るか確認するのに
『……おい、いないのか?』と昨日聞いた声が扉の奥から響く
私はハァと溜息をつく
(なんだ…死神だったのね)
私は安堵するとすぐさま返事をする
『居るぞ…というか、まず最初にノックをしてくれ』
そして鍵を開けると間髪入れずにドアが開く
『…それもそうか、悪い__驚かせてしまった』と死神は深々と頭を下げる
(あれ?思ったより…素直)
もう少し当たりがきつい上に話も儘ならないのを想像してたんだけど
『なぁ』と惚けている私を余所に死神は私に声を掛ける
『…な、なんだ?』と私は吃りながら応答する
『これからは、お前の事をなんて呼んだ方がいい?』と相変わらずふてぶてしい態度で聞いてくる死神
『え…急になんだ?』と私は死神の出方を探るため控えめに聞く
『いや、流石に従者なのにお前呼ばわりじゃ良くないと思ってな…態度や言葉遣いは多めに見てくれると助かる』と死神は若干申し訳なさそうに眉根を下げる
(死神は思ったより、ある程度…形式を気にするのか)
そう思うと不思議と頰が緩んだ…
だが、呼び方か…そんな事今まで考えた事はなかった
(王女じゃ在り来たりだし…姫様もねぇ)
結局悩みに悩み抜いて出た考えは
『主かサナ様…好きな方を選ぶと良いわ』
そう言って私は目を閉じる
(私の馬鹿…もっとマシなのを考えなさいよ)
これでも無い知恵を振り絞って出した
だが、死神のイメージを考えるとどうしても主という呼び方がしっくり来た
それでもファスト以外の異性に名前を呼ばれたいという只それだけの理由で死神が選ばないであろう‘‘サナ様’’というのを出した
(結果は見えてるけどね『サナ様』…ほら‘‘サナ様’’だって、って…えっ?)
『…嘘?』私は死神の顔をまじまじと信じられないという意味を込めて見つめた
『なんだ…‘‘サナ様’’が選べと言うから選んだんじゃないか?』
瞬間私は自分の頬に熱が集うのを感じた
(きっと今、顔赤くなってるんだろうな〜)
そう思うと恥ずかしくなり私は顔を下に俯かせる
『さて、と…サナ様__今日はどうするんだ?』と死神はまたしても私に目もくれずに話を進める
私は手の甲を顎に押し当てながら
『そうだな、今日は剣の鍛錬の相手をお願いしたい』
『…剣の鍛錬だと?』と死神は怪訝な目を私に向ける
『あぁ、いつ如何なる時でも人を救う事のできる力を身に付けたい…だから頼むっ‼︎』と私は死神の前で深々と頭を下げる
『頭を上げろ…お前は主なんだ
なのにそのお前が、道具相手に頭を下げる事はない』
え……?
私は頭を上げて死神を見つめる
その表情は切ないものだった
(どうして?どうして死神は切ない顔でそんな事を言うの?)
道具…彼は本当に自身の事をそう思っているのだろうか?
だとしたら、、、悲しい
『なら、早速鍛錬に向かう…どこに向かえばいい?』
死神の冷たい視線が私を捉える
『あぁ、稽古場が有るんだ…案内する』
私はすぐさま顔を背けドアを開け廊下に出る
(どうしたというの…私)
死神といると息をするのも辛い
私が、死神を恐れてるとでも言うの?
私は三階の自室から階段を下り二階の廊下に出て
左に歩き出す…そして突き当たりに来ると
『此処が、剣の稽古場だ』
そしてドアを開き中に入ると
そこは、木製のフローリング…
そして奥に無数の竹刀が置かれていた
『今、竹刀を取ってくる』と言って死神が歩き出そうとする
『いやその必要はない』が、私は死神を言葉によって止める
『は?なら得物はどうするんだ?』と怪訝な目で私に聞いてくる死神
『何を言っている…これが有るだろう』と言って私は自身の腰に挿している剣に触れる
『お前、本気で言っているのか?』
死神は苦笑いする
『俺の武器は大剣だ…峰打ちだとしても痛みは相当なものだぞ』
死神は私が心配なのかそんな事を言う
『良いんだ…それにお前の戦い方、とても特徴的だからな__もしお前のような敵が現れた時、対処出来るようにしておきたい』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ギチッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『手加減出来ねぇぞ』
そう言って死神は大剣を構えて刃先を私に向ける
(この圧力…並みのものじゃない)
幾つもの戦場を駆け抜けて来たんだろう…
死神の態度には覇者の貫禄みたいなものを感じた
『もとより、手加減させる気はないっ‼︎』