死神
『来いよ…纏めて相手してやらァっ⁉︎』
私は黒衣に身を纏った男の声を聞いて暫く固まる
周りの男達は黒衣に身を纏った男に
気圧されているのか、なかなか動こうとしない
私は、やっと言葉の意味…そして状況を理解し
黒衣に身を纏った男に声を上げる
『言葉の意味を分かっているのかっ⁉︎』と
男はその言葉に対し
『あぁ…分かってる』と大剣を握り締めながら興味無さげに言う
『どうした…来ねぇのか?』と不機嫌そうな顔で私を狙う男達に挑発する黒衣に身を纏った男
『っ…ウワァアアーーっ⁉︎』と男達の内の一人が
黒衣に身を纏った男に恐怖に押し潰されかけているのか
奇声を上げながら黒衣に身を纏った男に走り出す
その時の目は焦点が合っていなくて、
形振り構っていられないと言った感じたった
こう言う状態の人は、今までよりも力が出やすい
それに…何をしだすか分からない
『っ…逃げてっ⁉︎』と私は黒衣の男に呼び掛ける
だけど、依然として黒衣の男は大剣を握り締めたま動こうとしない
(なんで、動かないのっ…まさか、恐怖で動けないのっ⁉︎)
『逃げる?必要ねぇな…だって』と言った瞬間
◆◆◆◆◆◆◆◆◆シュッ◆◆◆◆◆◆◆◆
黒衣の男の姿が消えた…そして
◆◆◆◆◆◆◆◆◆ダンッ◆◆◆◆◆◆◆◆
と気付いた時には、走り寄ってきた男の腹に大剣を思いっきり振って当てていた
『俺は、早く動けるからな』と無表情で言いながら
『グ…あァっ』と呻き声を上げてバタンと倒れる男
それを見ていた仲間達は慌てふためく
『おい、今の見たか?』
『あぁ見た…あれじゃ、まるで』
黒衣の男は不敵に笑いながら
『まるで…なんだよ?』と先を促す
『まるで…噂に聞いた、死神そのものじゃないかっ⁉︎』
(死神…?)
その言葉に聞き覚えがあった…
このセカイ…eternity
このeternityは遠い昔からペイル、ルカッツォ
この二国が争いあっている
だけど、その二国の争う戦場に黒衣に身を纏い
目にも止まらない速さで二国の兵士達を圧倒的な力で無力化する男がいる
その男を見たもの達はその男の持つ大剣を鎌に見立ててこう呼ぶ…‘‘死神’’と
『まさか、本当に…あの__死神、なのか?』
私は黒衣の男を眺めながら戸惑い気味に言う
『あぁ…人からはそう呼ばれてる
本名じゃねえがな…』と大剣を正眼に構え直しながら言う黒衣の男…死神
でも、なんでだろう…
死神と呼ばれる男…私は何故か知っている気がする
今日初めて会った気がしない、まるで…遠い昔から知っている様なそんな気がしていた
(なんでそう思うの?今日初めて会ったのに?)
私はそう思いながら彼の構える大剣に目を向ける
‘‘死神’’と呼ばれる男の持つ紫の大剣…
その武器も初めて見る筈なのに何処か懐かしくそれでいて悲しみを感じる
(私は、彼とあの大剣を…知ってる?)
『どうすんだ?逃げるんなら今の内だ』と無表情で言うがその声にはドスが効いていた
男達は‘‘死神’’の言葉に肩を揺らすと次第に体全体が震え始め
『…おいっ、行くぞっ⁉︎』と一人が言って踵を返し走って行く
そして全員が私達の視界から消えていく
『…有り難う、助かった』と私は‘‘死神’’に歩み寄りお礼の言葉を述べる
『礼は不要だ…あんなの、助けた内には入らない』と明後日の方向を向きながら言う死神
『それより、あいつ等はなんだ?
それに‘‘姫獅子’’だの大臣って…お前、何もんだ?』
と私に視線を向けて言う死神
(え?…私を知らない)
『本当に知らないのか?』と私が尋ねると
無言で頷いてくる死神
『なら言おう…私は『姫さま〜〜っ⁉︎』と自分の名前を述べようとした瞬間に聞き覚えのある声が私の事を大声で呼ぶ
(あっ…まずいっ⁉︎)
この声の持ち主を知っているからこそ分かる
お叱りが来ると…
『ハァハァ…やっと見つけましたよ、姫さま』
と現れた銀の短い髪を揺らしながら言う男
『…姫さま?』と怪訝そうな表情で呟く死神
『えぇ…自己紹介が遅れたが、私はこのペイルの首都
‘‘ラムト’’の国王の娘で第一王女のサナ・リベーン・ラムトだ』
すると死神は目を丸くする
『それ、何かの間違いじゃねぇ…のか?』
私は苦笑しながら
『あぁ、間違いじゃない…と言うか此処で嘘を吐いても私に得はないだろう』と答える
『それもそうだな…だが、女王と言うのは__』
『前線に立たずに城に籠っているというイメージか?』と笑いながら言うと
『あぁ…俺はてっきり、女騎士だと思った』
女騎士…か__確かにその方が気楽だったな…
『失敬ですよ…大体っ、貴方は誰なんですか?』と私の‘‘側近’’に当たる男が死神を指差し言う
『俺か…俺は、お前達が‘‘死神’’と呼び恐れられるものだ』何処か遠くを見るような目で空を見上げ言う死神
『あの噂の…ですかっ⁉︎
まさか、実在していたとは』と頭から足元まで何度も往復して見る側近
『おい、お前は何者だ?』と死神は不機嫌そうに側近に言う
『私は、幼い頃から姫様の身の周りの世話、そして…守る役目を仰せ遣っているファストですっ‼︎…』と
私の幼馴染であり側近兼使用人のファストが、死神に得意げな表情を浮かべて自己紹介する
(なんで、そこで得意げな顔なのよ)
私はコメカミに手を当て項垂れる
昔からこうなのだ…ファストは
なんと言うか…少々自信過剰な所がある
『つまり、側近兼使用人ってことか?』と
死神は依然として無愛想且つ不機嫌そうな表情をそのままにファストに質問する
『使用人は余計だが…まぁ、そんな所です』と渋々その表現に頷き返すファスト
『ならどうして…彼女のそばにいねぇんだよ?』
……え?
私は死神の方に顔を向けた
すると死神の瞳に、怒りの色が灯っていた
『普通、護衛対象のそばにずっといるのが側近じゃねぇのか?』とふてぶてしい態度でファストに言い放つ死神
『なっ…確かに、その通りですが
貴方に言われることじゃないっ⁉︎』とファストはおどおどしながら死神に反論する
そしてレイピアを鞘から抜いて死神に指を指しながら
『大体そういうことは…私より強いと証明してからにして下さい』と死神を挑発する
『ちょっ、止めなさいっファストっ⁉︎』と私は慌ててファストを止めようとする
今さっき死神の戦いを目の当たりにしたんだ…
普通の人間が到底勝てる相手じゃない
『サナ…』と死神が私の名前を口にする
私は立ち止まり彼の方に顔を向ける
彼は少しだけ笑いながら
『安心しろ…‘‘スピードは同じにしといてやる’’』と口にする
そして大剣を背中から取り出し、前に構えると
『どっからでも来い…』とファストを挑発する
私は顔から一気に血の気が引くのを感じた
いくらスピードを同じにした所で、死神には
圧倒的に剣技の差…そして実戦経験の差が違うと直感したから
そうとは知らずにファストは
『良い覚悟です…では、行きますよっ⁉︎』と言って
死神に突進する…だけど
『……』死神はその場から一歩も動かない
『そこォっ‼︎』と言いながらファストは死神の胸目掛けてレイピアを突き出す
◆◆◆◆◆◆◆◆◆ヒュッ…ガッ◆◆◆◆◆◆◆◆
が、その攻撃は死神の大剣によって防がれる
『どうした…その程度か?』と死神は冷たい瞳をファストに向けながら言う
(でも、なんでだろう…さっきからもの凄く怒っている様に見える)
そうなんだ…死神からは明らかに怒りの感情を抱いている
だけどそれは…何に対する怒りなのか
それが全く分からない
『今度は…こっちから行くぜ』と言って死神はファストに向けて大剣を振り下ろす
が、ファストはそれを後ろに少しズレることでそれを回避する
『ふっ、その程度ですか?この程度で私と殺り合おうなんて口ほ、どぶワアァ⁉︎』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ズサッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
が、死神は大剣を利用して大剣を握りしめたまま左に飛びファストを蹴り飛ばしていた
(体術も使うのか…)
私は感心した…普通大剣というのは
悪魔で武器の大きさから来る圧倒的な力がメリットなのだ
その分、出が遅い…だから大剣を扱うだけの筋力を身に付けるため筋力トレーニングを行う
そして大剣を自在に操れる様にする
これが、基本だ…なのに
死神は大剣を利用して跳躍して近接格闘に持ち込んだ
確かにそれなら大剣が地面に突き刺さっても一々抜く必要がない
だけどそれは…達人の域に達した者がやる事だ
やっぱり、私とファストじゃ…圧倒的に技術面でも力でも劣っている
『ファストと言ったか…もう終わりか?』と死神は大剣を素早く地面から引き抜き切っ先をファストに向けて言う
『そこまでにしてもらおう』と野太く威厳に満ちた声が森に響き渡る
私はその声にした方向に直ぐさま振り向く…だってその声は
『父上…いえ、国王__何故この様な場所に?』
それは、私のお父様だったから
私やファストは直ぐに片膝を地面に着け跪く
『偶々、この付近まで足を延ばしたものでな
眠れる魂に挨拶でもと思っての?』とお父様は明るい声で言う
『所で、そこにいる貴公は‘‘死神’’と呼ばれるものか?』とお父様は死神に厳しい声で問う
『だとしたら、なんだ?』と不機嫌そうな声で答える死神
『話は先代国王__今は亡き父から聞いている
貴公は、ペイルとルカッツォの国王に戦争を止めるように申し出ているな…それも何代にも渡って』
お父様は静かに語るように話す
私はそれを聞いて二つ驚く
『何代にも渡って、ですか?』とファストが死神を見ながら言う
『あぁ、もうアンタで11代目…もう1000年以上戦争を止めるように訴えてる』と遠くを見るような目をしながら言う
1000年もの間…両国に停戦を訴えていた事
1000年…人間にしてみれば、余りに長すぎる時間だ
それなのに死神はずっとこのeternityの為に停戦を訴え続けた
でも、何故…
『貴公は何故…このeternityの為にそこまでするのだ?』とお父様は私も感じた疑問を口にしていた
そう、不老不死でしかもどちらの国にも属さないというのに何故彼は…1000年という長い間…彼は停戦を呼び掛け続けたのだろう?
すると死神はどこか悲しそうな顔で
『遠い昔…ある人と約束したんだ__このeternityから戦争を無くし、誰もが平等に…誰もが平和暮らせるように__そう誓ったんだ』
(っ⁉︎)
私はそれを言っている時の顔と声を見聞きして胸が少しズキっと痛む
それが、何故かは分からない__只こう思ったのだ
彼のこんな顔は出来れば見たくない…と
『そうか…』とお父様は目を閉じ頷くと
『で、国王…アンタも聞く耳持ってくれないか?』と冷たい瞳がお父様を射抜く
『いや、聞こう』とお父様は短くあっさりと答える
『…っ』と予想外の答えだったのか、死神は大きく目を見開く
『正確には、私の娘…サナだがな』と私を一瞥しながら言う
『…どういう意味だ?』と私とお父様を交互に見ながら問う
『それは、私も…私も両国に停戦を呼び掛けているからだ』と静かに言い放つ
そう…死神に驚いた理由二つ目
それは、死神が私と同じ様に停戦を呼び掛け続けている事
死神もそれを聞いて、またしても目を大きく見開く
『そうだ、そして近々ルカッツォにペイルの親善大使として我が娘…サナには向かってもらう、そこでだ』と言ってお父様は一息吐いてから
『死神、もし良ければ我が娘の…専属従者として付いて行ってもらいたい』と
____って、ちょっと待ってっ⁉︎
『おと…父上っ…何を仰っているのですか⁉︎』私は普段呼んでいる呼び方を既の所で言い直しお父様を問い詰める
『いや、先程の戦いを見ていた…
彼は非常に強い__それに何者にも物怖じしない強い意志を感じた…ルカッツォにはまだ、以前に比べてマシだが治安が悪いからな、死神になら娘を安心して任せられる』と冷静に言うお父様
確かに今ルカッツォは、以前よりマシだけど治安が悪い
それにルカッツォの国王は停戦に賛成だが
ペイル同様、大臣達はそれを良しとしていない
(それは、そうなんだけど)と私は死神に目を向ける
すると彼は何食わぬ顔で
『良いのか?俺は死神だ…eternityの敵なんて呼ばれてる奴だぞ?』と言う
『ならば何故…その大剣で、私達を殺そうとしない
貴公なら簡単に殺せるだろ?』と淡々とお父様は言う
その姿からは余裕が感じられた
『ふっ…流石は国を預かる身だ
肝が据わってるな』と乾いた笑いを浮かべて私に視線を向け
『……』
暫く無言で私を見つめてくる
(なんで私を見るのかしら?)
私はジッと死神を見つめ返す
暫くしてフゥと息を吐いて
『良いだろう…専属従者の件、受けてやる』と言って死神は私の前で片膝を着いて跪く
『ちょっと、待ってくださいっ⁉︎
なら私の立場はどうなるのですかっ⁉︎』とファストが慌てて言う
確かにそうだ…死神が専属従者ならファストの扱いはどうなるんだろう?
『ファスト…お前は本日付けでサナのお目付役を解任する、そして同時にお前はペイルの騎士団に入団してもらう』と淡々と告げる
『騎士団…ですか?』とファストは悲しそうに言う
『あぁ、前々から騎士団からファストを回してくれと言われておってな…死神が来ようと来なかろうと辞令を下す気でいた』と頷きながら言う
『そう、ですか…』とファストは俯きながら相槌を打つ
『もう既に着任と同時にお前には一個小隊の隊長の座が用意されている…お前には騎士団長が直々に目を掛けてくれている、早々に出世し次期騎士団長に就任出来るかもな』と笑いながら言うお父様
『…では、私は騎士団、本部に向かいます』と言ってファストは町の方角に歩き出す
大丈夫かな…ファスト、あれでいて気が弱いから
落ち込みすぎて、空回りしなきゃ良いんだけど
『所で、専属従者ってのは基本的に何をすればいい?』と死神はとぼとぼ歩くファストに目もくれずお父様に問う
『遣ることは、ファストと変わらない
彼女の身の回りの世話、そして常にそばにいて娘を危険から守る事…最後にサナの命令は絶対服従だ、どんな命令でもな』とお父様は淡々と告げる
『了解した』と言って私に顔を向けると
『此れから宜しく頼む』と頭を下げる死神
こうして私と死神の二人で共有する時間が幕を開けるのだった