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出会い

時刻は朝6時30分


西日から差す朝日がとても心地良く木々の間から光が降り注がれる


ここは、ラムトの外れに当たる森…通称魂の墓と呼ばれる場所だ


私は毎朝…ここで剣の修行を行っている



◆◆◆◆◆◆◆◆シュッ、シュッ◆◆◆◆◆◆◆◆



『…ふぅ、今日はここまでだね』と私は握り締めていた剣を鞘に収める



そして自分の傷だらけの掌を見て苦笑する



『うわ、これは酷いわね…』



年頃の女の子がこんな生傷の絶えない手をしている事に私は落胆する



そして、視線は掌から腕に向ける


右腕を左手で掴む…その質感はある程度筋肉でガッシリとしていて、お世辞にも女の子らしいとは言えなかった



『こんな筋肉質な女…嫁の貰い手はあるのかしら?』と空を見上げながら一人言を言う



(でも、そんな事言ってられないよねっ‼︎)



私は自分に課せられた責務を思い返す…


私が住んでいるセカイ…eternity(エタニティー)


このセカイはペイルとルカッツォと言う二つの大国に分けられている



そして私のいる場所はペイル領に位置する



私はこのペイルの首都ラムトの現国王の娘


第一王女にあたるサナ・リベーン・ラムトだ


因みに王位継承権第一位…と言うのも



現国王…私の父上とその妃に当たる母上の間に生まれたのは


私と二つ下の妹…この二人だけだ



父上はとても不安がっているが、王家の下に産まれたのだから責務は果たさなくてはいけない



私は幼少の頃から男として育てられた


服装は女性の物だけど、口調は男口調


そして剣術は毎日のように叩き込まれる


それが私が3つの時から16年間続けられた


お陰で剣においてはこのラムトじゃ誰にも負けない程に強くなった


まぁ体の生傷もその分絶えないけど…とにかく


私は次のペイルの国王…女王として育てられた


自分の意思とは関係無く__ね



本音を言えば、私は普通の女の子として過ごしたかった


でも、‘‘父様’’と‘‘母様’’の間に男児を授かる事は無かった


だから長女である私が次期国王として育てられたという訳


今喋っている口調は妹や父様、母様の前でしか使っていない…


使用人や民、異国からの使者に対しては男口調で対応している


家族以外は本当の私を知る者はいない


(まぁ、もう後悔しても遅いけどね)


そう、それに次期国王として育てると言う話を聞いた時



半ば諦めていた…その時私にしかそれが出来なかったから


当時妹は生まれた時から、病弱で殆ど毎日床に伏していた


それに比べて私は健康体で体も異常なかった


だから適材適所だったのだ…


それに妹に武器は持たせたくない…当時3歳だった私は幼いながらにそう思った


私を国王として育てると言う話は父様が勝手に決めた事でそれを知った母様が父様に対し激怒したのを未だに覚えてる


‘‘貴方は…実の娘に剣を、人殺しをさせる気ですかっ⁉︎’’



私はそう言いながら泣く母の姿を見てこう思った


‘‘人殺し’’?…前に母様が言ってた


‘‘人殺し’’は本来やってはいけない事だって


やったら、もうその人は悪魔になるって言ってた…


もし、此れを私が断ったら__?


私は妹のリナの部屋のある方角に目を向ける



私が断ったら次はリナにこの話が行く


でもリナは生まれつき体が弱くて気弱だ…


そんなリナに王として振舞う事も出来なければ、人殺しなんて…尚無理に決まってる__それに



(私はリナに悪魔になって欲しくないっ‼︎)



私は決意を固め父様の下へ歩みを進める



その姿を父様や母様それに官僚たち…その場にいた全員が私を見る



そしてそんな中私は泣いている母様に目を向ける



母様は依然として泣いている…



『私、その話受けるよ…いえ、お受けします』と



以前使用人が父様に向かって使っていた言葉使いを真似てたどたどしく喋った…


母様は涙で濡れた瞳を私に向けて



『突然何を言うのっ⁉︎』と涙声が入り混じった状態で叫ぶ



私はそれに臆する事無く真っ直ぐに母様を見据えて



『私、‘‘悪魔’’になる覚悟出来たから…

リナには、出来ないし__こんな事させたくないから』と笑って母様に優しく諭すように言う



父様は何のことを言っているのか分からないみたいな顔をしていたけど、母様は私の言おうとしてる事を悟ったみたいで



『サナ…貴方、リナの為にっ__』と言って顔を両手で覆いまた泣き出す母様



『泣かないで、母様…

私は__皆が笑ってくれれば、それで十分だから』



それから今に至るという訳なの


当時3歳の私が良くスラスラとあんな事言えたなって


今思えば、ちょっと不思議に感じる


でもそれからだ…私は自己犠牲が他の人より強く出過ぎるようになった



自分が我慢すれば全て丸く収まるのだと…


気付けば、自分のしたい事はそっちのけで他人ばかりを優先するようになる


父様が闘えと命じるなら闘うし


困ってる人がいれば何が何でも助けるようにしてるし


(結局…私自身がしたい事は何ひとつ出来てない)



私はそんな自分に苦笑する


私自身がしたい事?…自分がしたい事すら分かってないのに良く言うわ


私はそう思っていると



◆◆◆◆◆◆◆◆◆ゴーン…◆◆◆◆◆◆◆◆◆


朝7時を告げる鐘が鳴った



これは、街の人達が時間によって行動するから


決まった時間に鐘が鳴るようにすれば色々作業効率が上がるのでは?と二代くらい前の国王が造らせた鐘の音だ…



『っ…いけない、直ぐに戻らないと』と


私は鐘の音を聞いて慌てて行こうと足を踏み出そうとした時



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ガサッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


背後から草を踏みしめる音が聞こえた



『っ…誰っ⁉︎』と私は振り返り剣を右手に構えて前に突き出し言う



すると目に入ってきたのは、二十代くらいの私より2つ上位の黒衣に身を纏った男がいた


(なんで、こんな場所にいるのかしら?)


ここ…魂の墓は、元々王家しか入れない森で


なんでも昔1人の王が、ここで眠りについた事からそんな名前が付いた…



今でも偶にその亡くなった王の声が聞こえる…という噂が出回っている


私は、信じてないけど…


私は男を凝視する


男は、顔はイケメンの部類ではないけど


どこか危うさと陰を感じさせる__独特な魅力が有った


(それにしても…)と


私は男の背中に括られてる紫に輝く大剣に目を向ける


その大剣は、ここからでも分かるほど凄まじい武器そのものが持つ気迫を感じた…まるで大地が唸っているかのよう


私は視線を再度黒衣に身を纏った男に戻す


(ここには、滅多に人が来る事はないのに)


私がそう思っていると男は私を見て、驚いたような顔をして


『…サ、ラ__お前なのか?』と男は緊張したような声をあげる



私はその声に


『サラ?…済まないが私はサナだ

ヒト間違いだと思いますよ?』と冷静にやんわりと答える



男はその答えに目を下に伏せながら



『あ、あぁ…そうだよな、アイツが生きてる訳』と言ったかと思うと伏せていた目を私に向けて



『いや、それでも…その金髪に赤い目顔容姿全て__似過ぎている』と私をまじまじ見ながら言う男



『あまり…ジロジロ見られるのは、気分が悪いのだが』と私は苦笑しながら言う



でも何故だろう?この人会った時から嫌な感じが全くしない…まるで前から知ってるみたいな__ってそんな事無いはずなんだけど



『あ、済まない…アンタがあまりにも俺の知り合いに似てたもんでな』と申し訳なさそうに言う男



『いや、いいんだ…それより驚いたな

私と一緒の、金髪に赤い目の人が居るなんて』



私の両親はどちらも金髪、赤い目を持ち合わせていない…にも関わらず私は金髪に赤い目を持って生まれた


リナは父様のブラウンの目…母様の桃色の髪を持って生まれたのに


ある時、私は2人の間に生まれた子供では無いんじゃないかと疑った程だ…



『その人は、今どこに?』と私は何気なく聞くと



男は遠くを見るような目をして空を見上げる



『…もう逢いたくても逢えねぇ所に行っちまった』と悲しそうに告げられた



『っ…済まない、出過ぎたことを聞いた』と私は頭を下げながら言う



『…よせよ、別にお前は悪くない』と悲しそうに笑いながら男は言う



『…なら、私はこれで』と私は男を通り過ぎようとすると



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆サッ、ササッ◆◆◆◆◆◆◆◆



私の目の前に数名の刃物を持った男達が私の行く道を塞ぐ



『…おい、こいつら__お前の知り合いか?』と私を一瞥しながら聞いてくる黒衣を見に纏った男



『…いや、このような者達__私は知らない』と頭を左右に振りながら答える



数名の男達の内1人が、私に向かって言う


『テメェ…姫獅子(ひめじし)だな?』と凶器とも言える鋭い眼光を私に向けながら言う


『姫獅子?』と黒衣を身に纏った男が、不思議そうな顔で言う


私はその鋭い眼光を睨みながら



『誰の差し金だ…まぁ大方、大臣辺りだろうな』と私は興味の無いように言う



大臣が、私の事を快く思っていないことはずっと前から知っていた



よく口癖のように私に会う度に口にしていた事



『女に国の実権を握らせるなど、ペイルの未来が不安でならない』と



私はそう言われてもおかしくないと心の中でいつも思っていた…


歴代の王は皆…男がなってきたものだ


このまま行けば、私が初の女性の国王…女王となる



だけど、そうなったら民はどう思うだろう…


多かれ少なかれ混乱するんじゃ…


最悪の場合、暴動が起きかねない


私は常にそう思っていた


私は刃物を持った男達を見遣る


(いっそここで、殺された方が…)


そう思った瞬間、頭の中でリナの笑顔が映った



『っ…』


そうだ…ここで、私が殺されても


その役目が妹であるリナに引継がれるだけだ…



それだけは、駄目だ…


リナには誰かに押し付けられる事なく


自由に選択して伸び伸びと生きて欲しい


(私が、自由に出来なかった分まで…)



私は腰に挿している剣を鞘から引き抜き男達に向ける



男達はそんな私の行動を見て身構える


『すまないな…私もお前達の雇い主とは同じ考えだが、どうしても…引くに引けない事情という物も有る』


そう言って剣を正眼に構える


『それでも、来るというなら来いっ⁉︎』


『へっ…なら、遠慮なく行かせてもらうぜェ‼︎』と


その声を合図に男達は一斉に駆け出す



私は返り討ちに合わせる為に一歩を踏み出そうとしたその時…


◆◆◆◆◆◆◆◆シュッ、ドガッ◆◆◆◆◆◆◆◆



『グ、ハアっ⁉︎』と男は殴り飛ばされる


私は目の前の光景に言葉を失う…だって殴り飛ばしたのは



『フゥ…たかが、女一人に大の男が6人掛かりか…随分と舐めた事をするじゃねぇか』


黒衣を身に纏った男なのだから


これが…私と‘‘死神’’と呼ばれ恐れられている男の初めての出会いだ…



『来いよ…纏めて、相手してやらァっ⁉︎』

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