草食系男子が肉食系女子に食べられるまで バレンタイン特別編
<<加山優子の場合>>
「雄介!!」
「なんだよ」
帰宅途中、雄介は道端で加山に出会い、足止めを食らってしまった。
「今日は何日?」
「は?2月14日だろ?」
「そう!!バレンタインだよ!!」
胸を張って主張する加山に雄介は「あぁ~なんかめんどくさそう」そう思いながら、若干後ずさる。
「そういえばそうだな、じゃぁな~」
「なんで帰ろうとするの!はいこれ!!」
加山は帰ろうとする雄介の前にたち、きれいに包装された箱を手渡す。
「なにこれ?」
「チョコよ!彼女からのバレンタインチョコなんて、雄介は幸せ者よ!」
「彼女じゃねーだろ」
いつも通り、自称彼女を主張しながら加山は笑顔で雄介にいう。そんな加山に雄介は冗談であることを聞いてみた。
「まさかと思うが、変なものは入ってないだろうな?」
「ふえ....そんなもの入って...ないわよ?」
「なんで疑問形なんだよ!!」
もしかしたマジで何か入っているんじゃないか?雄介はそんなことを思い、加山にチョコを返そうかと思ってしまった。
しかし、よく見ると、加山の手には多くの絆創膏が貼ってあった。いつもはあんなに綺麗な手をしているのに、なぜか今日は絆創膏だらけでボロボロだった。
「お前...その手...」
「え?あ!いやこれは火傷しちゃって....」
「.....」
雄介は箱の包みを開け始めた。
「え!ここで食べるの!!」
「別にいいだろ、俺が貰ったんだ」
「良いけど....なんかドキドキしちゃって。あんまり私料理ってしないから....」
雄介は少し不格好なハート型の一口サイズのチョコを口の中に入れた。
「.....」
「えっと....どうかな?」
加山は心配そうに尋ねる。雄介はチョコを飲み込み、加山にハッキリといった。
「まずい」
「....あ、あははそうだよね。ごめんね!もう捨てちゃっても大丈夫だから」
加山はショックを無理矢理隠しながら、笑顔でそういって青の場から立ち去ろうとした。
「今度はうまいものを食わせてくれ、なんだったら今度教えてやるから」
「え!」
加山が雄介の方を向くと、雄介はすでに背を向けて家路についていた。片手には加山が渡したチョコを持ち、食べながらあるいている様子が見えた。
「やっぱり、優しいな....」
その後雄介はおなかを壊し、一日寝込んでいたという。
<<今村 里奈の場合>>
雄介が家に帰宅すると、里奈がソファーに座って待っていた。
ニコニコと笑顔を浮かべながらソファーに座っている姿を見ると、若干気味が悪い。
「あの里奈さん。何か良いことでもあったんですか?」
雄介は恐る恐る聞いてみる。すると、里奈は笑顔を浮かべたまま口を開いた。
「ユウ君?今日は何の日かわかる?」
雄介にとって、この質問は今日二回目だ、当然答えもわかっている。しかし、答えを知っているだけに、面倒臭い事も雄介はわかっていた。
「えっと、バレンタインですね....」
「そう!バレンタインだよ!ユウ君はお姉ちゃんから貰えるから、誰からも貰ってないよね?」
笑顔で喋り続ける里奈。そんな里奈の笑顔が雄介は逆に怖かった。
「えっと....まぁ一個貰いました.....」
雄介は先ほど加山から貰ったチョコの事を里奈に話した。その瞬間里奈から笑顔が消え、雄介の隣にやってきた。
「ふぅん。誰から貰ったのかな?お姉ちゃんに正直に言ってみなさい、怒らないから」
怒らないと言っているのに、姉に対して恐怖を感じてしまう雄介。蛇に睨まれたカエルのように、体が動かせない。
「いや、でも加山からですし....」
「優子ちゃんから貰ったの?」
「えぇまぁ....」
加山に貰った事を事を里奈に伝えると、里奈は少し考え込み大きくため息を吐き、いつもの里奈の表情に戻った。
「はぁ~。まぁあの子なら脅威にならなそうだし、大丈夫かな?」
「あの、なんでも良いんで離れてもらえませんか?近いです」
里奈は雄介に詰め寄っていたせいで、かなり距離が近くなっていた。雄介はそこを指摘し、離れるように促したが、里奈は離れるどころか、更に体を密着させてきた。
「まぁまぁ、いいじゃないの!」
「良くないですよ、動きにくいんです」
「そう言わずに、これあげるから!」
里奈はどこからともなく、綺麗に包装された丸い箱を手渡してきた。
「これは?」
「もう、何言ってるの!チョコだよ!」
「あぁ、義理チョコですか、ありがとうございます」
「本命だよ?」
「いや、すいません義理チョコなんて気を使わせてしまって」
雄介は「義理」という部分を強調していった。それが気に食わないのか、里奈は少し不満げな表情を浮かべていた。
「本命!」
「ホワイトデーはちゃんと返しますんで、どうも義理チョコありがとうございます」
「本命!!」
<<山本 凛の場合>>
バレンタイン前日、凛はお菓子作りの本と睨めっこしながら、チョコを作っていた。
もう製作を始めてから、既に2時間以上が経過しているが一向に完成しない。
「う~~なんでうまくいかないのよ~」
唸り声をあげながら、失敗して出来たチョコの残骸を見つめる。
「おいおい、まだやってたのかよ。チョコなんて溶かして固めるだけだろ?」
失敗続きでうなだれている凛の前に兄である慎がやってきた。
「意外と難しいの!なんでか知らないけど固まってくれないし....」
慎は失敗の残骸を一欠けら手に取り、口の中に放り込む。
「う....なんだこれ?....チョコのくせに甘くねぇ....」
慎の口の中には、チョコの甘さは全くなく一瞬ビターチョコかと思ったがそうではない。甘くない上にチョコの風味などもない、ただチョコの触感があるだけの食べ物だった。
「お前どうやったらこんなもんが出来んだよ....」
「普通に作っただけよ!」
「でも、これは....」
慎は苦い顔をしながら、失敗したチョコの数々を眺める。今日中にはどう頑張っても出来そうにない。
「どっかで市販のチョコ買ってこいよ。そのほうがまだ良いと思うぞ」
「う~~手作り渡したかったのに~~」
「まぁ、雄介だったら美味いって言うだろうな....」
「はぁ~そうだよね。そうなってくると、逆に申し訳なくなっちゃうよ....」
凛は失敗したチョコをつまみ上げると、軽くため息をつく。今の自分では、雄介においしいチョコをプレゼントできないと思うと、凛は残念に思った。
「買ってくる....」
「おう、気をつけてな....」
凛は財布を持ってチョコを買いに、外に出た。
凛はチョコの専門店で少し高めのチョコを買い、自宅に戻った。
「ただいま~」
「おう、お帰り」
「あ、お邪魔してます」
「え?雄介さん!!」
凛が家に帰宅すると、台所には雄介と慎が立っていた。凛は買ってきたチョコをとっさに自分の後ろに隠した。
「えっと、遊びにきたんですか?」
「いや、なんか凛ちゃんがチョコづくりで悩んでるっていうから、俺で良ければ手伝おうと思って」
「え!」
凛は兄の方を見る。慎はスマホをいじりながら小さくグットサインを出している。
(お兄ちゃんありがとう!!)