[影響力]
あの事実を知ってから本上さんと話もするし帰り一緒に帰ることもあるけど、これといった事もなく夏休みに入りその半分を過ぎようとしていた。
「優之介は夏休みどんな風に過ごしてたの?」
バイト中いつもの隅に座りながら立っている僕を上目遣いで聞いてきた。
可愛いから勘弁してください。
「特に何もないかな」
「夏休みってすることないよね」
確かに大学の夏休みは結構長くて、夏休み前半はウキウキ気分なんだけど後半から早く終わんないかなってなるんだよね。
僕は友達が隆一しか居ないので夏休みはボッチです。
「本上さんは何してたの?」
僕が言うと本上さんは少し考え、
「特になにもしてないかな」
僕と同じ答えが返ってきた。
そうだよね、友達が少ない人にとって夏休みは暇でしかないんだよね。
「そういえばバスケの大会が明日なんだよね」
「バスケの大会?」
「えーっと、僕と隆一が通っている学校のバスケ部の試合がってことね」
「あの人バスケやってるんだね」
あれ、言ってなかったっけと思いながらも頷く。
元々隆一と知り合ったきっかけがバスケだったし。
「こう見えて僕もバスケやってたんだよ?」
胸を張り自慢げに話すも本上さんは「ふーん」と興味がなさそうに返事をした。
「バスケには興味がないんだね」
少し残念そうに言うと本上さんは顔を上げて、
「私バスケやったことない」
興味があるのかないのか分からない。
「じゃあ今度やってみる?近くにバスケのコートあるし」
外なんだけどね。
夏のバスケは気力が起きずに昨年の冬からボールに触れてない。
こう見えてちょくちょくバスケをする健康的な男子ですよ。
「まずオススメのバスケット漫画紹介してよ」
「本上さんはやっぱり本から影響受けないとやる気がおきないの?」
「悪い?面白かったらやる」
別に悪いわけではないけど、本と現実のバスケは大分違ってくるんだよね。
バスケ漫画オススメを聞かれたらあの本を紹介するしかあるまい。
僕は本棚からあの漫画を1巻から7巻まで本上さんの前に持ってくる。
「それ?」
「これだよ!凄く面白いから見てみてよ!」
本上さんがその本の1巻を取ろうとして僕は、
「読むなら買ってください」
と本を両手で本上さんの取れない位置に持ってくる。
「今まで言われてなかったしいいじゃん!」
「毎回言おうとしてたけど今しか言うタイミングがなかったし」
本上さんが立ち本を取ろうとするが僕の方が身長が高いため当然取れない。しかもこの状況イチャついてるみたいで嬉しいです。
「むぅー」
「僕のことをそんなに睨んでも買わないと読ませませんよ!これは僕の読んだ本の中でも5本の指に入る面白さなのになー」
しぶしぶポケットから財布を出すと、その中から諭吉が刻まれた紙を1枚出してきた。
「全巻買う」
まずは1巻からと言いたいものの、僕がオススメした漫画だから今さら1巻から読んで面白かったら全巻買いなとは言えずレジへ行き支払いを済ませた。
「まいどあり!」
「ふんっ!」
鼻で返事とはなかなかやる。
それから本上さんはその漫画に夢中になり、話しかけずらくなってしまった。
本を読んでいる本上さんは基本真顔なので面白いかとかはわからない。
内心ドキドキしながら感想を待つことにする。
閉店の時刻になっても読んでいた本上さんに鍵を閉めたいと声をかけようとすると、本上さんは立ち上がり。
「バスケしたくなった!」
「それは面白かったという意味?」
「うん...まぁ」
これは多分(面白かったけど優之介にオススメされた本だからあまり言いたくない)という心境だろうな。本上さんのことわかってきたかも。
「それは良かったよ!とりあえず鍵を閉めさせて?」
外に出てお店の戸締まりを済ませた。
「とりあえず歩こうか」
本上さんが街灯の光で漫画を読んでいたのでそう告げた。
いつものごとく僕は原付を押しながら本上さんと帰っていた。
「優之介はバスケ上手いの?」
横で本を閉じて僕の方を向きそう言ってきた。
「自信はないけどバスケやってたしそれなりに出来ると思うよ!」
「見ないとわかんないか」
早くバスケをしたいのか左手に漫画を持ちながら右手でドリブルの練習をしていた。
エアーで練習してもボールを持つと思い通りにドリブル出来ないからねと言いたかったが言わないでおいた。
「優之介土曜日バイト入ってなかったよね?」
「入ってないよ」
「土曜日バスケしよう!」
どんだけバスケしたいんだそれほど面白かったのかな。
同じ巻を読み返してるくらいだし。
「いいよ!」
そう言って本上さんとバスケをする約束をした。
やっぱり本上さんの本に対する影響力は凄いと改めて思った。
今回はリアルの都合で忙しく短めになってしまいました。でもまだ書き続けるので、マイペース更新ですがもしよかったらこれからも宜しくお願い致します。