[休日]
家に帰ってきた僕は飯も済ませてしまってることもあり、風呂に入ってだらだらとくつろいでいた。
明日は大学はなくバイトもない何しよう。
僕は座椅子に背を預けながら携帯をいじって、時々明日何しようかと考えていた。
本上さんに倣って僕も本を読もうかなと考える。僕は見た目インドアに見えるらしいけど実はアウトドアなんだよね。
趣味でやっている釣りに行くとしても暑すぎるし夜に釣りをしたい。
色々悩んだ末本を買いに行こうと決まった。隆一も試合が近くて遊べないし。
これで明日のスケジュールが定まった。昼から本を買いに行き本を選ぶのに結構な時間を使う方だから、本を買ったら夕食時だろうと考えそのまま食材を買いに行く。
計画的じゃないか。休日を見事に満喫してるよこれ。
時間を見るとだらだらとし過ぎたのか1時30分を越えていた。
「寝るか~!」
一度立ってから伸びをし、電気を消してから布団に横たわる。
いつもだったら携帯をいじってたら寝てましたって流れだけど、今日はなぜか何もしないで眠りにつく。
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寝起きが悪いわけではない僕は起きると朝食とかを済ませると出かける準備をした。
「早すぎた...」
休日に限って早く起きてしまい、張り切って身支度を済ませてしまうよね。
時刻は8時をちょっと過ぎた頃だった。本屋が開くのは10時だから暇が出来てしまった。
家に居ても仕方がないので家を出ることにする。
外に一歩踏み出す前に家の中との温度差に出るのを拒んでしまう。
ちなみに僕は冬が一番好きだったりする。
夏は嫌いで、外に出たら虫が扉の前で待機していたりとかが頻繁に起こり、それで一歩踏み出そうするものなら素早い動きでどっかに飛んでいく。あれが一番びっくりするし嫌だ。
今日は虫がステンバーイしていなかったので家の鍵を閉めて暇を潰すことにする。
この時間からだとカフェくらいしかやってないし、カフェで携帯を弄りながら時間を潰そう。
カフェの中は涼しくて、お洒落な飾り付けがあり、はたして僕はこの店の店員にどう思われてるのだろうか。
僕は服などのお洒落がよく分からない。でも僕の私服はお洒落ではないと僕でも分かる。
田舎の町にこんなお洒落なカフェがあったなんて知らなかった。
ここを行きつけにして店員とも仲良くなり毎回来る度に「いつもので」って言いたい。
そんなくだらないことを考えながら、店員さんと仲良く話すこともなくホットコーヒーを注文した。
「お待たせ致しました」
携帯の待ち受け画面設定をしている内にホットコーヒーが届けられる。
夏だというのにホットなんてと思う人も居るだろうけど、僕は冷たいコーヒーはあまり好きではない。
ホットだからこその味があると思うんだよね。大人ぶってるとかではなく本心だけど隆一に言うとからかわれるからな。
ホットコーヒーをちびちびと飲みながら携帯で本の新作情報を見ていた。
「佐藤さん?」
突然声をかけられ目線を向けるとそこには原さんが居た。
「原さん!?なんでここに?」
ふいに頭に出てきた疑問がそのまま言葉にでる。
「とりあえず座ったら?」
デーブルを挟んで会話していたのに気が引けてそう言うと「失礼しますね」と言ってから僕の前の席に腰かける。
原さんはこの店に居ても違和感のない服装でなんだか僕が恥ずかしくなる。
「私は休みの日に時々ゆっくりしたくてここに寄るんですよ。それで佐藤さんはどうしてここに?」
「僕は本を買いに行こうかと思っていたんだけど、開店が10時なのに早起きしすぎて家に居ても暇だからその時間潰しでここに居るということです」
「まだ時間がありますね...お話でもしましょうか!佐藤さんとお話しする機会なんてそうそうありませんから」
原さんが顔の前で両手を合わせてそう提案する。
いや、お話しする機会はバイト中でもあるだろうに。そんなに僕は話しかけずらいのかな。
何か話題はないか考えているとメニューを見ていた原さんがアイスカフェラテを注文する。
「佐藤さんは最近何を読むんですか?」
また女性に話題を作らせてしまったことに後悔しながら最近読んだ小説を思い出してみるも、中々思い付かなくて最近小説を読んでないことを痛感する。
「漫画とかだとダメ?」
「漫画でも構いませんよ」
原さんがニコッと笑ってそう言う。
許しをもらったので、漫画のことを考えると小説の時とは真逆で頭に最近読んだ漫画が続々と出てくる。
「そうだね...今日買いに行こうと思ってたバスケの漫画があってね、それが凄く面白いんだ」
つい笑顔で話してしまうも女性はあまり読まないのではと、言った後に思った。
「それってこれですか?」
少し驚いた表情でバッグから僕が今日買いに行こうと思っていたバスケ漫画を取り出す。
「それだよ!原さんも読んでたんだね!」
今僕はキラキラした笑顔で喜んでいるのが分かる。
「私この漫画凄い好きですよ!」
原さんもキラキラした笑顔で僕の方を見る。
まさか原さんも読んでいたとは、しかも新刊ではないか昨日出たはずだから当日に買ったのか。
「負けたよ」
ついつい言葉に出てしまうが原さんはニコニコしてどや顔をしていた。こんな表情するんだな。
「好きな漫画の新刊が出たら当日に買うんですよ」
「原さんって漫画好きなんだね」
僕はアハハと笑いながらそう言った。
なんというか原さんは話しにくいイメージだったけどそんなこともないようだ。
「もちろん小説も好きですよ?」
誤解がないようにかそう原さんがつけ足した。
僕も小説は嫌いではないけど、僕は読むのが遅いからスラスラ読める漫画の方が好きなんだよね。
原さんが頼んでいたアイスカフェラテが運ばれてくる。
「そういえば原さんは小指の赤い糸って小説読んだことある?」
「読んだことありますよ、でもあれって映画と小説はちょっと違いましたよね?」
「え?」
初めて知った。というより小説の方は読んでなかったし分かんないのは当たり前か。
「僕は小説の方は読んでいないので映画の方しか分からないですけど、何が違うんですか?」
原さんは小説と映画の違いを思い出しているのか考えた表情になる。
「小説の方は内気な女の子が人気者の男の子に恋をして、男の子の方からその女の子に興味を持って大体は男の子から話したりして恋愛に発展していくという流れですけど」
僕は頷きながら聞く。
「映画の方はあのボリュームの物語を詰め込むので精一杯だったのか、女の子の方からも話しかけたりして仲良くする早さを短縮していて後半の方は再現出来ていましたけど、なんか違うのを感じましたね。すみませんなんか上から目線みたいに語ってしまって」
「なんか小説の方を読みたくなるような語りでした」
両手で顔を隠す原さんにトキメキかけながらも、何がなんか違うのかを知りたくて小説の方も読みたくなる。
そろそろ時間が良い頃になっていることに気づく。
「ありがとう原さん!色々聞けて楽しかったよ。あと原さんのイメージも変わって話しやすくなったし!僕はそろそろ行くけど原さんはその漫画読むんでしょ?」
「私はここに残りますよ。というより私のイメージって話しにくかったんですね。でも話しやすくなったというなら嬉しいです!」
「またバイト先でも話しかけるようにするから!」
僕は席を立ち会計を済ませてから原さんが手を振っているのに手を振り替えしながら外に出た。さて買い物に行きますかってか暑い。
バイト先に本を買いに行くのも気が引けたので別のデカイ書店に入り、バスケ漫画の新刊を手に持ちながら小指の赤い糸を探す。
それにしても良いこと聞いたな、僕は映画を観て感動し涙を流したと言うのに小説はもっと泣けるのかな。ティッシュを大量に用意しないと。いやらしい意味ではないよ。
「あった」
友達居ない人特有の独り言を漏らしながら小指の赤い糸の本を手に取る。
これで後は気になる本を見つけ出すだけだな。
小指の赤い糸の本を手に取ってから2時間が過ぎていた。
時刻は13時を過ぎた頃。合計7冊の本を抱えてまだ本を選んでいた。
そろそろ行こう。
会計を済ませると結構出費が激しいと実感する。
まぁお金は管理してるからこのくらいなら問題はないんだけどね。
予定よりも早く本を買えたことに喜びながらも暇が増えたことに気づく。
ちょっと早いけど夕食の買い出しをしよう。
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家に着いたのは15時くらいだった。休日なのに薄っぺらい内容の日だと感じながらも買ってきた本を取り出して、小指の赤い糸から読み始めてみることにする。
「なんて...いい話なんだ...ぐすっ...」
全部読み終えてから僕が泣いていることに気づく。
独り暮らしで良かった。泣いているところなんて見られたくないからね。
それにしても恋愛小説だから男の子が引っ越ししたり離ればなれになるエンディングかと思ったら、しっかり最後は結ばれるのって良いよね。
しかし、原さんの言っていたなんか違うとは、多分女の子の内気な性格が小説では出ているけど、映画では内気なんて思わなかったからそこの違いかなと思った。
小説読んで良かった。映画ももちろん良かったけどやっぱり原作のが良いね。
なんて考えながら時刻を見るとなんと22時を過ぎていました。
改めて僕の読むスピードが遅いと感じる。
「本上さんが時間忘れるのも分かる気がする」
なんて独り言を言いながらも本上さんはこういう恋愛に興味があるのではないかと思っていた。
でも恋愛に興味が無いって言ってたしそれはないだろう。
「あれ?」
本を読み終えてから振り返ってみると「男の人とこんなに話すのは始めて」という台詞が無いことに気づく。
本をペラペラとめくりそういう台詞がありそうな場面を見てみるもやはりない。
「ってことは本上さんの言ってたことって...」
本上さんがただ言いたかったこと。
鼓動が早くなるのを感じる。小説による台詞ではなく自分で考えた台詞だったのか。
本を再びめくり、「男の人とこんなに話すのは始めて」という言い回し出来るような台詞がないことも確認する。
僕の顔が赤くなるのを感じて気を紛らわす為に、僕は夕食の準備をした。
「今日は手の込んだ料理をしよう」
なんて独り言を言って調理を開始した。