[外食]
前の帰り道と同じルートで帰った僕と本上さん。
会話はそこまでなく、あっという間に僕は自分の家まで着いてしまった。
もちろん本上さんを送って帰ってきたけど。
「それにしても、今日の本上さんは影響受けてたとしてもちょっと変だったな」
なんて独り言を言うくらいには本上さんは変だった。
店長に謝りに来たとしても、店長は普段居ないから僕なら次の日に早く行って皆に謝る事にすると思う。
閉店後は時々だけど、僕も早く帰ることもあるし、誰かが居る保証なんてない。
本上さんなら安定して、明日にでも謝りに来るはずなのにって言っても僕は本上さんの事知らないし。
頭がパンクしそうだ、考えるのをやめよう。
僕は本上さんと一緒に買っていたコンビニ弁当を食べ始めた。
翌日。今日は休憩室に入る前に本上さんが居ることを確認する。
「おはよう」
僕の存在に気づいたのか珍しく本上さんから挨拶をしてくる。
「今日は来たみたいだね!良かったよ」
本を読んでいて、僕の言うことを聞いているのか分からない。
着替えを済ませ、今日は店長が居ないと確認する。
これじゃ店長に謝らせることは出来ないな、昨日居た人達に謝らせよう。
休憩室から出て本上さんの前に立つ。
「謝罪ならもうしたよ」
僕の言うことが分かったのか、本上さんはそう言った。
「本上さん偉い!」
つい子供をあやすように言ってしまった。
でも、本上さんはまんざらでもないような表情で僕を見た。
「本上さんは一人でも謝ることはできるんだね!」
「私を子供扱いしないで」
いや、反応とか結構子供っぽいとこあるけどね。
「そうだ。聞きたかったことがあるんだけど」
「なに?」
「なんでそんなに読まなかった恋愛小説を夢中で読んでたの?」
僕は昨日考えてたことを聞いた。
本上さんは本を閉じて、少し考えてるのか難しい表情をした。
「分からなかったから?」
首を傾げて言われても何が分からないのか分からないよ。
「えーと何が?」
「恋愛する理由みたいなのが」
また小説の影響かな。恋愛って気になる人が居るとかそういうのから発展していくのでは、僕は恋愛なんてしたことないけどね。
「まずは気になる人に話をかけたり遊んだりする内に、恋愛感情的なものがでてくるんじゃない?」
「優之介って恋愛したことなさそう」
「僕の意見は宛にならないからね...まぁ僕は女の子と遊んだりしたことないけど」
本上さんは男の人とかと遊んだりするのかな。
「本上さんは異性と遊んだりしたことある?」
「ないよ?興味ないし」
興味ないのに恋愛小説読むんだ。色々とおかしいけど突っ込まないでおこう。
「けど本上さんも学生の内に恋愛とかしといたほうがいいんじゃない?」
将来恋愛したとき接し方で困ったりすると嫌だから、今のうちに経験はしといたほうが良いと思うのが僕の本音。
付き合うときは、きちんと秩序を守ってね。
「余計なお世話だよ。私は一生独身でいいから」
なんとも寂しいことを言ってくれる。僕は30までには結婚したいと思ってるぞ。これって普通だよね。
「小説の影響受けても良いことないと思うけどね」
つい心の声が。
「影響じゃなくて本音だから」
再び本を開いて読み始める。
怒らせちゃったかな。けど僕は本当にそうだと思ったから言っちゃっただけで。
仕事しよ。
特に忙しかったわけでもなく閉店を向かえる。
今日は原さん来てなかったから明日にでも本上さんのことを伝えておこう。
閉店になってもまだ本を読み続けている本上さん。
もう鍵を閉めるのになんか話しかけずらい。昨日はあんなにご機嫌だったのに今日は喧嘩っぽくなってしまった。
僕はこういう状況に弱くてなんて話しかけたらいいか分かんない。
普段通りに話しかけてなんか思われるのも嫌だし、かといって話しかけないとお店の戸締まりが出来ない。
「鍵閉めるなら言ってくれればいいのに」
僕が悩んでいると本上さんの方から僕の近くまで来て話をかけてきてくれた。
「あ、ごめん」
本上さんは気にしていないのかな。
外に出るとほんの数秒で汗をかき始める。
「なんで僕が毎回鍵を閉めなきゃいけないんだろうね?」
普段通りに話をしてもいいのかと迷いながらも話題を出す。
本上さんはパンクを直したのか自転車の鍵を外し僕の傍まで来る。
「店長が決めたことだから」
「まったくその通りです...」
「閉めたことだし行こ?」
「その...怒ってないの?」
怒っているのなら誘わないだろうけど気に触ることを言ったのは確かだからな。
本上さんは何のことか少し考え、思い出したのか僕を見る。
「言われたときはイラッてしたけど周りから見ればおかしいのかなって今日考えてた。だって普通おかしいでしょ?時には探偵の真似してみたりとか」
「僕は悪いこととは言ってないよ」
別に真似ることは悪いことじゃないんじゃないかと今日考えていた。
「変じゃない?」
本上さんは自信のないような言い方をしてくる。
「変じゃないよ僕はだけどね!」
「じゃあこのままでいい」
「そうだね!」
僕はエンジンをつけずに押しながら本上さんと帰り道を歩き始めた。
昨日と同じルートを通ろうと右の道に行こうとする僕。
「ちょっと待って」
僕は立ち止まって右を向き本上さんを見る。
「どうかしたの?帰り道こっちだよね?」
「お腹減ってない?」
「んーまぁまぁ減ってるかな!」
少しお腹の状況を確かめて僕は言う。
すると本上さんは真っ直ぐに指を指し、
「この先に新しく出来たトトスって所があるの、行かない?」
まさかのご飯のお誘い。顔に嬉しさが出そうになる。
「別に用事とかないしいいよ!」
行かないわけがない。
本上さんは嬉しそうに僕の前を歩き始める。一体どういうことなんだこの前話すようになって今はもうご飯まで一緒に...。
これが普通なのかな、女の子とご飯とか行ったことないから分からない。
それにしても僕の服装は女の子との外食に向いているのだろうか。グレーの半袖に白い半袖のフードの上着、それに黒い半ズボン。普通すぎる。
本上さんも普通の白い半袖に黒い半ズボンだけど、女の子でズボンは良いと改めて思う。
あれ、僕と服装が結構被ってる。
それにしても胸は無いな。って僕は何を考えているんだ変態じゃないか。
「ここだよ!」
「意外と近いところにあったね」
まだ歩いて間もないのにもう着いてしまった。
ここの町に住んでいながらも新しく出来た建物を把握できないのは僕だけじゃないはず。
時々あるんだよね「あれ?こんなところにレストランなんてあったか?」ってことが。
「優之介はこの辺のことなんも知らないんだね」
「そうだね...気づいたら建っていることが多いかな。建ててるところは見たことないよ」
「狭い町なのに...」
確かに狭い。だけど見たことがない僕のいつも通る道に何か建ったことなんて無いし、いつも同じ道を通ってるから見ないんだよね。
「入ろっか!」
僕が言うと本上さんとお店に入る。
中はさすがに綺麗で、店員さんも建つ前から募集していたのだろう結構いた。
「二名様でよろしいですか?」
店内を見ていた僕にそう店員さんが告げた。
「は、はい」
さて、この店員さんには僕たちはどう写っているのだろうか。恋人またはただの友達か、女の人だから多分前者なのだろう。
僕はただ本上さんが可愛いからと言う理由で話したりしてるわけで、それもそれで酷いかな。
撤回しよう僕は理由なしに本上さんと親しくなりたいんだ。
店員さんの案内で本上さんと席につく。
「ここって何があるの?」
「cmとか観ないの?ここはハンバーグが有名だよ」
「cmにはあまり興味がないから...ハンバーグか」
cmなんてまじまじと観るものではないでしょ。
普段からテレビは観るけどcmになるとどうしてもトイレやら食器を洗ったりしてしまう。
「この拳ハンバーグなんかどう?」
本上さんはメニュー表の表紙に載っているハンバーグを指差して言う。
「うわ、これ450gあるじゃないかこんなに食べれないよ」
「優之介って少食?」
「いやいや、450gをペロッと食べる人は少ないと思うよ?僕はお寿司とかだと15皿は食べれるから...ってこれって少食なの?」
「私に聞かれても分かんないよ。でも私お寿司は20皿は普通に食べるよ?」
普段食べてないから一気に食べてるだけなのでは、本上さんって結構食べる方なんだ。
メニューを一通り見る。
「とりあえず僕はこの炭火焼きにするよ」
「じゃあ私は拳で」
略さずに言ってください。拳だけだとハンバーグとか分かんないよ。
二人決まったから呼び出しボタンを押し、店員さんが来る。
「えーと、拳と炭火焼きで」
焦って略して言っちゃった。チャラく思われてないよね。
「あ!あとポテトで」
ポテトもつけるのか、一体どんな胃袋をしているのやら。
店員さんが注文を繰り返し確認してから厨房に消えていく。
「本上さんはいつもこんなに食べてるの?」
「お腹が減ってるときはこのくらい食べる」
「それでよく太らないね」
「女性に向かって体型の話はダメだよ」
少しニコッとしてそう言われるとなんか怖いよ。
「いつもは一人で外食とか行ったりするから気にしてなかったけど、私って食べる方?」
まず一人で外食のところに質問をしたいんだけど。
「まだ食べきれるって決まったわけでもないのに、意見なんて言えないよ」
僕は微笑みながら言う。
「じゃあ食べきったら食べる方なんだ...余裕なのに」
「余裕なの!?」
やっぱりおかしいよこの子。
いつもは本を読んでるから運動量は少ないと思うのに、こんなに食べますか普通。
しかもトトスに行ったことあるような物言いだ。この辺にトトスはここだけなのに。
会話をしていると店員さんがポテトを持ってきた。
テーブルに置かれたポテトは盛り盛りで、僕はメインの先にお腹がいっぱいになりそうです。
「では食べましょう」
「う、うん」
僕たちはポテトから食べ始めメインの最後の方は苦しかった。
お腹も膨れたところで僕たちはトトスを出る。お会計は僕が少し多くだした。
お財布が悲しいから奢れはしなかったけど男なら多くだすべきだよね。
「本上さん本当に食べきったね...くるしっ」
「優之介は食べなさすぎ、だからひょろいんだよ」
筋肉はある方だと思ってたのに。
「それで太らない本上さんも凄いけどね」
普段食べてないからだと思うけど。
少しムッとしながらも、
「体型の話はなし!」
少し嬉しそうだった。
「帰ろっか!」
本上さんが頷くと僕たちは帰り始めた。
さっき曲がらなかった道を曲がりいつもの道を歩く。
僕も自転車なら一緒に乗りながら帰れるんだけど、どうにも大学の方が遠いもんだからそれは叶わないだろう。
「たまには人と一緒に食べるのもいいね」
ふと歩道側を歩いている本上さんが少し笑いながらそう言った。
「そうだね!僕もいつも一人だから今日は楽しかったよ!」
「また行こうね!」
本上さんは恥ずかしがっていると大声をだすのかな。とても可愛いからいいけど。
「また行こうか!」
僕も大声ではないけど笑みを浮かべてそう言った。
本上さんの家の前に着いてしまう。
「今日は誘ってくれてありがとう。あとバイトの時に言ったことは謝るよごめん」
「まだ気にしてたの?大丈夫怒ってないから」
「それなら良かったよ!」
自転車を置いた本上さんは階段を上ろうとする。
「おやすみ!」
また大声をだして、ここは僕も。
「おやすみ本上さん!」
本上さんは満面の笑みで階段を上がる。
あの笑顔は今まで見てきた数少ないけど、どれにも敵わないとても可愛い笑顔だった。
扉の前で何かしている。
「本上さん?」
聞こえてはいないだろうが、僕の方をちょっと見て家へと入っていった。
なんだったんだろう帰るのが名残惜しかったのかな、なんてね。
僕はエンジンをつけ帰る。