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本屋の隅っ娘  作者: リアル
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帰り道

  帰り道、月明かりと街灯だけが頼りの道を歩いているが、会話が無さすぎて泣きそう。

  誰しもが味わうことのあるだろう異性との沈黙がここまでキツいものだとは。

  誰か、誰か話題を。


  「優之介ってファンタジー好きなんでしょ?」


  なんということだ。本上さんから話題をくれるとは思わなかった。

  一体誰に話題を貰うつもりだったのか。


  「そうだね!異世界って誰もが一回は憧れるものじゃん?」


  「その気持ちは分かる。私も異世界に行って異世界の本はどうなのか見てみたいもの」


  「やっぱり本にしか興味はないんだね...でも日本語で書かれてるなんて思わないけど?」


  「そこは私のロマンがなんとかしてくれるわ」


  訳が分からない。自分で何言ってるのか分かってるのかな。

 

  「そ、そうだね」


  苦笑いしながらそう答えるしかない。

  そういえば自転車を押して歩いてる本上さんに、原付を押して歩いてる僕、傍から見ればどう見えているのだろうか。

  しかし、ホラーが苦手とは思わなかった。結構ホラーな小説を読んでるところを見てるからな。

  しばらくの沈黙の後。


  「コンビニ行きたい」


  本上さんが言ったことに僕は驚いた。どこにかって言われると本上さんなら絶対にコンビニで何か買ってきてと言うはずだからだ。


  「もうすぐでコンビニあったはずだけど、何せ田舎だからね覚えてないや」


  「普通都会だから場所分かんないとかじゃないの?」


  「いや、僕はずっと田舎暮らしだから都会とかは分かんないよ」


  首を傾げてこっちを見る本上さんは可愛いと思ってしまう。

  思った通りコンビニが近くに見えたので寄っていくことに、僕は原付を止めて、本上さんは自転車を止めて、店員の「いらっしゃいませー」の声と共に中に入る。


  「何を買いたいの?」


  「家で本読むときに飲む飲み物」


  大体想像ついてたけど、本当にその通りだとは僕も本上さんのこと分かってきたな。

  飲み物を取り出す本上さん。


  「ちょっと待って?そんなデカいの買うの?」


  「普通そうじゃない?」


  取り出したのは1.5リットルのお茶。本を読む人ってこれが普通なのかなと思ってしまう。


  「普段本を読まないから分かんないけど、本上さんはいつもそれを?」


  「そうだよ?だって2時間くらいで無くなるもん」


  一日分の水分に近いぞ。それを2時間でとかおかしい。

  いったい何時間読んでいるのだろう。睡眠時間が気になるところだが、聞かないでおこう。だって聞いたら6時間睡眠でもキツい僕が情けないじゃないか。

  本上さんも大学生だから、朝は早いだろうしね。


  「とりあえず買ってくるから」


  「僕も夕食買ってくよ」


  一人暮らしをしている僕は、時々コンビニ弁当そして時々料理をします。家事ってなんであんなに大変なんだろう母に感謝しないとね。

  買い物を済ませ「ありとーございやしたー」という店員の声と共に外に出る。ちゃんと言おうね上の人に怒られるときがあるから。


  「暑い」


  本上さんの方を見ると上の服をパタパタとしている。女の子がそんなことしてはいけません。いや、してもいいけど男の前だと、男はなんか見えるんじゃないかと期待してしまうから。

 

  「僕の前でパタパタするのやめてくれませんか?」


  「えぇ...暑いんだもん。それに」


  「それに?」


  「ここまで人気の少ない場所を通ってきて、何もしないなら大丈夫かなと」


  僕の好感度上がってます?これ絶対男として見られてませんよね。

  でも少し恥ずかしかったのかすぐにパタパタをやめ、自転車を押し始める。僕も原付を押し始める。

 

  街灯に虫が集るなか、着々と家に近づいていく。


  「結構家遠いんだね」


  沈黙だったため今度は僕が話題を作る。


  「まぁ一人暮らしだから安いところを選んだらこうなった」


  「僕も同じだな。家賃だけはどうしても安くしないとやっていけないからね」


  「優之介は質素な生活してそう」


  少し笑いながら言わないでほしい。

 

  「コンビニ弁当が夕食の時点で金はあるよ?」


  本当の質素な生活を是非とも体験してほしいものだね。

  一人暮らししてから2ヶ月くらいは、毎日もやしご飯で過ごしてきたんだ。本当に腹が減りすぎて餓死するところでした。

  本屋から35分くらい経っただろうか、なんだかんだで家の前らしい。

  立ち止まるのを見て僕も立ち止まる。


  「ここ?」


  「そうだよ。中は綺麗だから」


  「誰も外見ボロいとか言ってないから。確かに古そうだけども」


  4階まであるのか。ボロいけど。


  「夕食は自分で作るの?」


  さっきコンビニで飲み物しか買ってないところを見ると自炊してるのかな。


  「食べないよ?」


  そんななんで夕食食べなきゃいけないの?的な目で見ないで。あと首も傾げないで。


  「え?じゃあいつ食べてるの?」


  「朝とお昼だけ。夜食べると太るから」


  なんとも女性らしい。太ってないのに。


  「腹が減ったのならちゃんと食べなよ?」


  「本を読むからお腹は減らない」


  食べてないのね?文学的なあれじゃないよね?甘い話だと甘く感じるのかな。


  「まぁとりあえず身体には気をつけて!僕は帰るから」


  「身体には気を付けてるから。送ってくれてありがとう」


  駐輪徐に行き自転車を止め、階段を上がろうとする。


  「優之介も帰り道気をつけて!」


  そんなデカい声で言うと近所迷惑ですよ。

 

  「ありがとう!あと幽霊の話だけどあれ嘘だから!」


  「バーカ!」


  まんざらでもない顔でそう言われると照れる。

  姿も見えなくなったところで、僕は原付に股がりエンジンをつけ帰る。


  家に帰って来ても誰も居ない。いつものことだけど今日は本上さんと話してたからちょっと寂しい気持ちになる。

  僕は何を考えているのやら。

  本上さんは恋愛対象ではなくただ可愛いから世話をしたくなるというか。お持ち帰りしたくはならないけど。嘘だって言われても、お持ち帰りしたところで本を読むだけだと思う。

  もう0時を回ってしまっている。

  僕はテレビをつけて、コンビニ弁当を食し始めた。

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