意味深スノードーム
「お前、何してんの」
コートを着て、スヌードを身に着けて、ブーツも履いて、完全防寒の着膨れ状態で、積もった雪の上に転がる彼女が何をしたいのか分からない。
はらはらと、細かい雪が落ちてくる空を見つめているが、一体何をしているのか。
下手したらちょっと危ない人だ。
かくいう俺も、一瞬行き倒れているのかと思って焦ったというのに、本人はパチパチと瞬きをしていた。
「えーっと、なんだろ」
ぼんやりとした眠たそうな声で答える彼女は、のろのろと空から視線を俺の方へと移す。
仕方なく質問を変えて、寒くないのかと問い掛ければ、寝転がったままコートのポケットからカイロを引っ張り出して、俺の方へと投げ付けた。
貼るカイロも付けているらしく、ぬくぬく、と満足そうに呟く彼女に、溜息が漏れる。
どうでもいいから起き上がれ、そう言いながら手を差し出すも、不満そうに眉を寄せた後、首を振られた。
「何で、いつまでそうしてんの」
「うん。満足するまで、かな」
職質掛けられるぞ、という俺の言葉に、くすくすと笑い声を漏らす彼女は、酷く楽しそうだ。
ぬくぬく、なんて言っていた割には、耳も頬も鼻の頭も見ている方が痛くなるくらいに真っ赤だった。
楽しそうに細められた目は、見下ろす俺を通り越して空に注がれている。
晴れた青空から降る雪は、俗に言う風花という種類のものらしく、何故か彼女が自慢げに語った。
青空、と言っても水色っぽく、冬らしく遠く感じる空だ。
「こうやってるとねぇ、スノードームの中にいるみたいで、どきどきするよ」
差し出したままの俺の手を引っ掴み、油断していた俺の体を雪の中に叩き付けるように引っ張った。
バランスを崩した俺は、彼女の横の雪の上にぶっ倒れて、彼女の楽しそうな笑い声だけが周囲に響く。
クソがっ、吐き出した言葉も毒も、彼女には一切効き目がなく、笑い声が大きくなった。
近所迷惑にも程がある。
はぁ、と彼女の色の薄くなりつつある唇から、白い吐息が零れていく。
「ね?綺麗でしょう?」
風花の中で、雪の上で横たわったままの彼女が笑うことの方が、よっぽど綺麗に見えたのは、俺の中だけに留めて、彼女の真っ赤な頬を引っ張っておいた。