ぼくはこれから海へ行くのだ
海・夏・恋の三拍子です。これは作者が同性の友人と鉛色の海へ行く途中ささくれた気持ちで書いた短編小説です
朝、6時42分。ぼくは悠々と電車に揺られていた。
思ったよりも人数の多いよれたシャツを身につけたお父さんたちがくたびれた顔をしてぼくと同じ揺れる鉄の棺桶に押し込められている。
いつもならぼくも似たような顔をして手すり革に掴まっているんだろうけど今日は違う。今日ばかりは、見慣れた眠たげな表情のおじさんたちはぼくにとってステイタスだった。
なんせ、彼らとぼくとの共通点は右手に一つのかばんを抱えていること。
違いは彼らは仕事用のシャツを着ているのに対し、ぼくはラフ&カジュアルな格好をしている。
さらにかばんの中身といえば昨日買ったばかりの水着と日焼け止めと大きなタオル。
そう! ぼくはこれから海へ行くんだ。
これからぼくはこの電車を降りて、さらに乗り換えをした駅で待っているエリカと待ち合わせて日本海側の優美な海へ行くのだ。
日付は8月の頭。低気圧はすでに消え去り、生きたビニール袋が海面に君臨するのもまだ先の話だろう。
エリカというのは、大学で知り合った二つ上のイギリスからの留学生だ。
年上であることを感じさせない彼女はまるで小動物のようだ。
さぁ、乗り換えの駅に着いた。
本当の人並みに飲まれるのはここからだ。
ぼくは働きに行くお父さんや、部活動に勤しむ高校生を尻目に泰然と市営鉄道からJRの駅へ歩んだ。
気分はロマンス映画の主人公だ。テープはまだ冒頭。これからぼくとエリカとの、真夏のaventureが繰り広げられるのだ。
きっと、120分では収まらない。
ぼくが駅のホームに立ち止まるよりも先に、色黒ノッポの洒落た革靴を履いたサラリーマンが立ち止まった。
身長は平均あるだけのぼくはノッポには劣等感を抱くのが常なのだけれど、今日ばかりは、そんな過去に鼻を鳴らした。
ぼくはこれから海へ行くのだ!